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【貴方の鼓動と僕の心臓】(仮)

実業家×時計職人の話し。
バデオク2次創作。
以下ただの妄想です。タイトルや内容を変更する事があるかもしれません。
自己満自分メモなので後日有料もしくは非公開記事になりますん。




街の一角に古びた時計屋があった。その店のオーナーは店の古さとは一変して若い青年が営んでいた。長い髪を後頭部で束ねて団子にして、目にクマがある青年はラグビーが得意そうな体格で彼が年期の入った店看板を表に出しても誰も彼が時計職人だとは思わないだろう。
店を出入りする扉は開け閉めする度にベルがカランカランと鳴るが、その音を鳴らすのは青年だけだった。
青年は傾き掛けた店で大量の古い時計に囲まれて今日も1人で時計のメンテナンスを始める。暫くして時計の秒針しか聞こえない静かな店内に入口のベルが鳴り響く。扉はやや乱暴に開けられ激しく揺れたベルに青年は身構えた。窃盗団でも来たのかと、椅子から立ち上がり店の入口を見ると、金髪の細身の男が居た。上着は手に掛けていて、白いワイシャツにネクタイ、清潔感のある身なりに高級な腕時計を付けていた。久々の来客に青年は心躍らせて笑顔になる。作業机に部品を置いて客に話し掛けようとするが、青年はその客の正体に気が付き青ざめた。そして席に付き何事も無かったかの如く作業の続きに入る。それは客が店内に入ってから僅か数秒足らずの事で、客が青年を見た時には青年は席に付き作業をしている状態になっていた。
客は青年を見るや否や、一直線に青年の元に駆け寄る。不満そうな顔で作業机の前に立ち口を開いた。
「オクジー君。」
青年はオクジーと呼ばれた。オクジーは自分が見下ろされているのを感じながら嫌そうな顔をした。客の言葉を無視して手元を見ながら作業を続ける。
「君は若いが聴覚は御老体の様だな。」
客が皮肉を言うがオクジーは返答をしなかった。
「オクジー君!」声を荒げる客。

「わわっ。そんな大声出さなくても聞こえてますから。」オクジーは作業を辞めて客を見た。

「客が来ているのに接待は無しか?」

「す、スミマセン…。」

「別に責めている訳じゃない。」
そう言って机に両手を置いて、
前のめりになり
「私を覚えているか?」とオクジーに聞く客。
客の真剣な眼差しに一瞬だけ目が合い
「はい…」オクジーが小声で返事をすると客の表情が少し明るくなり口元が少し緩んだ。

「バデーニおじさんですよね。」少し照れながら言うオクジー。


「お、おじさんっ?!」バデーニと呼ばれた客はオクジーにオジサンと呼ばれて一歩後ろに引いた。

「まぁ…君からすればそうか…。」訝しげな顔をするバデーニ。

バ「だがその呼び方は不快だ。」

オ「そうですか…」

バ「久々の再会だと言うのにハグも無しか。」

オ「もぅ子供じゃないんです。あれから10年が経つ…貴方は10年も姿を消していた…。」

バ「君が私を拒んだからだ。」

オ「拒む?あの時はまだ子供だったんですよ。」

バ「君は私を拒んでないと?」

オ「そうですよ。交通事故で両親が死んで、俺だけ生き残って…辛かったのに貴方も居なくなって…毎日の様に遊びに来てくれてたのに…事故以来貴方は居なくなったじゃないですか。」

バ「……まぁ…。本当は君の祖父と犬猿の中で君に会えなかったんだがな…。」

オ「祖父は他界しました…。」

バ「知ってる。だから今こうして君に会いに来たんだ。」

バ「しかし、君が今まで私の元を訪ねて来なかった事を許した訳じゃない。君が来ないから仕方なく来たんだ。」

オ「はぁ?俺はバデーニさんが何処に居るのか知らなかったんですよ。」

バ「君の祖父が知っているだろうが。」

オ「祖父に何度も聞きましたが、教えてくれませんでした。」

バ「………そうか…。」

オ「何で…何で祖父と仲が悪かったんですか?祖父は貴方の実力を認めてたし、尊敬してたはずです。」

バ「……大人の事情と言うヤツだ。」

オ「……。」

バ「……。(子供の君に欲情してた事がバレて嫌われた、なんて言えんだろうが…。)」

オクジーは俯き手作業を始めた。バデーニに子供扱いされるのが嫌だが、それを言ってもあしらわれるだけだと言う事は分かっている。オクジーの父親と同期だったバデーニは毎日の様にオクジーの遊び相手になっていたが、いつしか無邪気で可愛いオクジーに特別な感情を抱く様になっていた。幼いオクジーに欲情したバデーニを目撃した祖父はオクジーからバデーニを避ける様になるが、その事をオクジーは知る余地もない。
2人の間に気まずい空気が流れた。

バ「…これから戦争が始まる。」
いきなりの爆弾発言にオクジーは作業する手を止めた。

オ「じゃあ俺は行かないといけませんね。」

バ「私の言った事を信じるのか?」
オクジーの返答が想定外だったのかバデーニはオクジーに問う。

オ「貴方はいつも正しい。」

長年想いを寄せていた相手に自分を肯定する言葉を掛けられたバデーニは想像以上に快感でくすぐったく感じ思わず「ハッ!」っと声を漏らして笑った。勿論笑える話しはしていない。オクジーは「何だコイツ」と言う様な表情でバデーニを見て
「と、祖父が言ってました。」と付け加える。

バ「君は上げて落とすのが得意だな。」

オ「はぁ。」

オ「次いでにバデーニさんは"特殊性癖があるので気を付けろ"と祖父がよく言ってました。」

バ「ふん。余計なお世話だ。今はそんなくだらない話しをする為に此処へ来たのではない。」

オ「戦争…ですか…。」

バ「そうだ。時間がない。」

オ「いつからですか?」

バ「早ければ8月だ。切っ掛けが起きて大戦になる。」
オクジーは店の日めくりカレンダーを横目で見る。カレンダーの日付は6月15日だった。

オ「どちらにせよ徴兵されて終わりですね。」
そう言いながら組み立てた腕時計を磨き始めた。
バ「そうはさせない。」

オ「……。」

バ「足は大丈夫なのか?事故でやられただろ?」

オ「あれから10年が経ってますからね。激しくは動けませんけど。歩くのには支障ありません。問題なく戦争に行けます。」

バ「行きたいのか?」

オ「そんな訳無いでしょ。生活が苦しいからお給料が欲しいです。」


バ「君に限った事ではない。大半の人間がそうなる様に物価を上げて、困窮させ、志願兵を募る様に仕向けている…。
君は行かなくていい。私の元に来い。」

オ「来てどうするんですか?俺は何の役にも立ちませんよ。」

バ「それは私が決める事だ。」

オ「……。」

バ「どうせ店があっても誰も来ないんだ。ネットの修理依頼でどうにか稼いでいるだろうが、ろくな稼ぎも無いだろ。」

オ「お見通し…ですか…。」

バ「君の身なりを見れば分かる。靴も服もボロボロじゃないか。」

オ「まだ破けてないんで大丈夫です。」

バ「兎に角、私の元に来い。君の部屋は用意してある。私が呼んだのだから在宅費は不用だ。3食飯付きで、君はいつも通り時計の修理をすれば良い。」

それを聞いてオクジーは微かに笑った。

バ「何か不満か?」

オ「いや…だって可笑しいですよ。そこまでする理由が分からない。俺を引き取るメリットが無いじゃないですか。貴方にとって一文の得にもならないのに…寧ろ損をしているし俺が居たら邪魔になるだけだ。」

バ「理由なんてどうでも良いじゃないか。私がそうしたいから、そうするだけの話しだ。君も1人、私も1人なんだから2人で暮らせば話し相手ぐらいにはなって退屈しないだろうが。」

オ「………バデーニさん。」
オクジーはバデーニを見つめた。

バ「な、何だ?急に…」オクジーに見つめられて心臓が高鳴るバデーニ。

オ「もしかして…」

バ「だからなんなんだ…。」

オ「もしかして、寂しがり屋さんですか?」

バ「………はぁ……。」
好意を寄せてる事がバレたのかと思い期待をするバデーニだったが、オクジーはいつも斜め上の返答をして来る。

オ「寂しがり屋さんですか?」

バ「2度も聞かなくていい。」
バデーニが不服そうに言うと、オクジーは黙って微笑んだ。
"寂しいなら俺が側に居てあげないと"と言わんばかりの顔だ。オクジー自身は気が付いていないが、人の役に立てる事に生き甲斐を感じる人間だった。子供の頃から尊敬していたバデーニに頼られるとなると俄然活力が湧いて来る。
机越しに立ってオクジーを見下ろしていたバデーニにも察しが付くほど分かりやすい表情だ。腕時計を布で磨きながら上目遣いで微笑でいたオクジーは無邪気な顔をしているが、バデーニには若干興奮する姿だった。

バ「…では、これから身支度をしてくれ。」

オ「え?これからですか?!」

バ「何だ?」

オ「"何だ?"じゃないですよ!急過ぎます。」

バ「いいから早くしてくれないか。」
バデーニは颯爽とオクジーの座っている横に周り込み腕を両手で掴んで引っ張る。
オ「わわっ」
バ「支度。最低限必要な物だけ。」
昔からバデーニは言い出したら聞かないタイプの人間だった。オクジーは昔と変わらない
バデーニに安心感を覚えると共に"こんなにも強引な人だったかなぁ"と幼少期を思い返す。
バ「動かないと耳を噛むぞ。」
ボヤッとしているオクジーを待つ事が出来ず思わず耳元で囁くバデーニ。
オ「うわっ!」
オクジーは思わず椅子から転げ落ちた。
バ「そんなに驚かなくてもいいじゃないか…」
オ「驚きますよ…。耳、弱いんで近づかないで下さいね。」
そう言って転がった椅子を元に戻す。
バデーニは"良い事聞いた"と思いながら椅子を戻すオクジーの後ろ姿を眺める。
オ「バデーニさんはもっと優しい人だったのに…」転んだ時に汚れた服の埃を払いながら小声で愚痴を溢すオクジーの頬は微かに赤く染まっていた。

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