腰椎に関する基礎知識:後仙腸靱帯と仙骨神経後枝外側枝の関係性について

今回は、仙腸関節周辺部の疼痛を考える上で必要な後仙腸靭帯(LPSL)と仙骨神経後枝外側枝の関係性についての報告を簡単に紹介したいと思います。

Lateral branches of dorsal sacral nerve plexus and the long posterior sacroiliac ligament
M.C.McGrath・M.Zhang
Surgical and Radiologic Anatomy (2005) 27 : 327-330 

要旨


非特異的腰痛や周産期骨盤痛は、仙腸関節領域の疼痛を特徴としている。この領域は、共通する感覚神経を有する組織が多く存在するため、病態の鑑別が困難である。本報告では、16体の献体を用いてLPSLと仙骨神経後枝外側枝の関係性を肉眼解剖学的研究と組織学的分析にて検討している。その結果、S2(96%)・S3(100%)の仙骨神経後枝外側枝がLPSLを貫通しており、S4(59%)、稀にS1(4%)も貫通していた。また、仙骨神経後枝外側枝の一部は分岐して、LPSL内で終枝していた。これらの所見は、LPSLの仙腸関節後部の疼痛への関与を解剖学的に示している。

Introduction


本研究の目的は、肉眼解剖学的研究と組織学的分析を用いて、LPSLと仙骨神経後枝外側枝の関係を明らかにすることである。

Meterials and methods


16体(女性8体、男性8体、年齢52-97歳)の献体の中から骨盤帯25面を用いて、肉眼解剖学的研究(22面)と組織学的分析(3面)を実施した。LPSLは、皮膚・皮下組織・大殿筋を切除して露出し、手術用顕微鏡で仙骨神経後枝外側枝を剥離してLPSLの外側縁を越えて追跡した。また、PSISから第3/4仙骨結節までの骨膜を剥離してLPSLを除去し、組織学的分析を実施した。

Resulrs


LPSLはPSISと第3・4仙骨結節の間に位置していた。肉眼的には、内側で脊柱起立筋腱膜、外側で殿筋膜と連続し、明確に識別できなかった。第2・3仙骨神経後枝外側枝は、LPSLの深部を斜めに貫通しており(S1:96%・S2:100%)、神経・血管束の周囲には疎性結合組織が存在していた。また、LPSLを貫通する過程で分岐し、靭帯の中で終枝する枝も存在した。一方で、第1仙骨神経後枝外側枝はLPSLの上方を走行しており、第4仙骨神経後枝外側枝は60%が靭帯を貫通し、40%がLPSLの下方を走行していた。
                             

Conclusion


本研究はLPSLと仙骨神経後枝外側枝の関係についての定量的データを提供するものであり、仙骨神経後枝外側枝はLPSLの主な支配神経となる可能性を示している。これらの知見から、LPSLが非特異性腰痛や周産期骨盤痛における疼痛発生源であるという考え方を支持する可能性が示唆された。

感想


本報告に記載されている解剖を参考にしたLPSLの圧痛評価やエコー観察は、局所病態を推測していく上で重要なヒントになると考えています。さらに、LPSLと脊柱起立筋腱膜・殿筋膜の解剖学的な連結構造から、両組織はLPSLの緊張に影響を与える可能性があります。そのため、脊柱起立筋や大殿筋を徒手的に操作し、LPSLの圧痛の変化を確認することで同筋の病態への関与を推測することができると考えています。今後も、正確な解剖学を元に触診技術を向上させ、臨床での評価に活かしていけるように日々努力していきたいと思います。

次回予告


次回は、4月1日に大腰筋と腰神経叢の関係性についての論文を紹介させていただきたいと思います。

次回 3月8日(水) 小林博樹 先生
肘関節の解剖 船橋整形外科スポーツ医学関節センター 星加昭太先生
関節外科 基礎と臨床 2022年12月 Medical View

投稿者:石黒翔太郎

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