見つけてほしかった

この市営プールでは、1時間に1回、5分の休憩を入れる。
一度プールから全員を上がらせて、子どもたちの体調の管理と、プールの安全を確認するためだ。

休憩中に見回っていたアルバイト管理員の青年は、まだプールに残っている人影を見つけた。どうやら小さな女の子のようだ。
「こら、キミ。休憩中だよ。プールから上がって」
女の子は顔を青年に向けた。そのままじっと見つめている。
(こんな小さい子をたった一人にして。親はどこに居るんだ)
内心舌打ちしながら近づいたが、女の子は上がろうとしない。
ひょっとして一人では上がれないのかと思い、抱きあげようと膝をついた時、女の子が突然、幼女とは思えない動きでプールから上がった。

あっけにとられた青年に、
「今日は見つけてくれたんだ。本当はあの時に見つけてほしかったのに」
そう言い残して、走り去って行った。
青年は呆然とその姿を見送ったが、肝心なことに気がつかなかった。女の子の姿が、途中で煙のごとく消えてしまった、ということに。

その日の夜、青年は女の子のことはすっかり忘れ、友達と飲み歩いていた。
だがもし、青年がテレビを見ていたら、こんなニュースが見ることが出来ただろう。あの女の子の写真とともに。
『排水口に挟まり、当時4歳の女の子が死亡した痛ましい事故から今日で10年。今も尽きぬ両親の後悔を取材しました。』

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