挨拶と先生

「先生、こんにちは」
10時の休み時間。廊下で友達と話していると、相田先生が来られたので挨拶をした。
すると、
「まだ午前中なのだから、おはようございますでしょう」
と叱られてしまった。
「すみません。おはようございます」
「おはよう」
言い直すと、先生は『よろしい』と言うように大きく頷いて、また歩き出された。

午前中の挨拶は『おはようございます』なんだ。
覚えておこう。

その後3時間目が終わり、11時の休み時間になった。
3時間目の図工の時間に使った絵の具で汚れた手を洗いに行うと廊下を歩いていると、向こうから『怖い先生』とあだ名のある岩井先生が歩いてこられた。
ああ、ちゃんと挨拶しなきゃ!
まだ午前中だから「おはようございます」か。
でももうお昼に近いのに。
でも相田先生が『午前中は』と仰ったし
でも、でも…
ああ、どうしよう!

軽くパニックになった僕の口から出たのは、
「先生、おはようございません!」
だった。
マズい!叱られる‼と身構えた僕に、意外にも先生は口元を緩ませて、
「そうだな。確かに"おはや"くはないな。では何と言う?」
と仰った。
一瞬、ぽかんとなってしまったが、すぐに、
「あ、先生、こんにちは」
と言って頭を下げた。
先生は叱るどころか、
「はい。こんにちは」
少し笑みさえ浮かべて歩き出された。

あれ?絶対に「ふざけるな」と叱られると思ったのに。
戸惑いながら見送った先生の背中は、やがて廊下の角を曲がり見えなくなった。

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