イメージをぶっ壊せ

「こんな格好したいなあ…」
ファッション雑誌を眺めながら、もう何度溜め息を吐いたことだろう。
ページの中の女の子は、ショートパンツにニーハイソックの姿で元気に微笑んでいる。
私は脚が太い。これが長年のコンプレックスだ。こんな格好、したくても人からどう思われるか、笑われるのではと思うと、怖くて恥ずかしくてできやしない。

「本当、羨ましいわね。」
ふと気が付くと彼女が来ていた。彼女は気まぐれに現れる、私の友達だ。
私の右隣から、同じくファッション雑誌を眺めている。その顔がいつもより暗く白く感じた。
「足、出したい。思い切り出して歩きたい。
私達にだってちゃんと足はあるんだよ。でも江戸時代の有名な絵師が書いた絵に脚が描かれてないばかりに、幽霊には足は無いものだって広まっちゃって。
そしたら殿様が『これからはイメージ戦略が必要だ。足を出すことは禁止だ』って言い出して…」
途中から声に涙が混ざった。そんな彼女を、私はただ黙って見ていることしか出来なかった。
「何よ、イメージって。そんなの知らないわよ。どうして振り回されなきゃいけないの。私は私なのに…」
最後には嗚咽のようになった。
幽霊の世界では、殿様の命令は絶対なのだそうだ。反抗すると存在そのものを消されてしまう恐れもあるという。

なんだか自分がものすごくちっぽけに思えてきた。
私は彼女とは違う。
この太い脚を出して人から笑われようと、それで死ぬわけじゃない。誰の迷惑にもならない。
自分のしたいことをするだけで、下手をすると消されてしまうかもしれない彼女の悩みとは雲泥の差だ。
そうだ、他人なんて関係ない。自分は自分じゃないか。
自分自身に一度大きく頷いて、彼女の肩をポンと軽く叩いた。
幽霊に触ることは出来ないが、しかし幽霊は、自分が心から信頼し許した相手には触れさせることが出来るのだ。つまり、彼女がそれだけ私を信頼してくれている証でもある。それが私にはものすごく嬉しい。
「ねえ、今度二人でファッションショーしようよ」
彼女が目を丸くしている。お、初めて見る表情だな。なんだか可愛いな。
「ミニスカートとか、ショートパンツとか、そんなの履いて遊ぼうよ。二人だけなら大丈夫でしょ。コスプレもやっちゃおう。ミニスカポリスとかまだあるのかなあ」
言っているうちに楽しくなってきて、あれこれと案が浮かんでくる。笑いながら無責任に並べる私に、ようやく彼女も笑ってくれた。

よし、明日は帰りにドンキホーテにでも寄ってみよう。あそこなら面白いものがいっぱいあるはずだから。

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