おサルのパッピ【中編】

深い深い眠りから覚めたパッピ。そこはバナナ形のゴムボートの上ではありませんでした。パッピは砂浜の上で寝転んでいました。サンサンに輝く太陽の日差しが、パッピのおでこをテカテカ照らしています。

パッピが、周りをよく見渡してみると、見たこともない景色が広がっていました。辺りには誰もいません。人間もおサルたちも。

遠くの方にどうやら森が見えます。パッピは森に近づいてみました。茂みをかき分け、森の中へ恐る恐る入ってみると、美しい鮮やかな色の草花やへんてこりんな形をしたフルーツや木の実の木々がたくさんありました。パッピは足元でキラキラ光っているカラフルな石を見つけました。よくみるとキラキラの石は一直線に森の奥へと続いています。

パッピはキラキラした石の続く方へと進んでいくと、透き通った美しい小川が現れました。緩やらかに静かに流れる小川は鏡のように森の中の鮮やかな色を映し出していました。パッピは、この美しい光景を見た瞬間、今まで感じたことのない幸せな気持ちに満たされました。

「あ、もしかすると、これって死んじゃったら渡る川かな。僕は死んじゃったのか」パッピは思いました。寂しいような、ほっとしたような、色んな想いを受け止めながら、パッピは森の中で、美しい小川をじっと眺めながら、しばらく立ち尽くしていました。

パッピは何かを決断したように一度深呼吸をしました。「仕方ない。前へ進もう」そう、自分に言い聞かせました。そのとき、パッピはあることに気付きました。

「僕、死んだのに、めっちゃお腹空いてる。死んでもお腹って空くのかな」そんな疑問を宙に投げかけながら、側にあった木々にゆっくりと近づいて、へんてこりんな形の果実をもぎ取ってみました。

「なんか、食べるの怖いけど、もう死んでるなら、ま、いっか。二度も死なないよね」パッピは、そのへんてこりんな果実を一口パクリとかじってみました。

「な、なんて美味しいんだ!こんなに美味しいものを食べたのは初めてだ!」パッピは興奮して叫んでいました。ジューシーで甘みが絶妙のへんてこりんな果実を無我夢中で平らげました。それから色んな木の実や果実を次から次へと食べてみました。どれも感嘆するほどの美味しさに、パッピは「うん、うん」。頷きながら初めて食べる不思議な食べものを堪能しました。何もかもを忘れて、ただひたすらに食べ続けました。

歩けないほど、お腹がいっぱいになったパッピは、少し森の中を散歩すると、ふわふわのコットンのような草原を見つけました。パッピは柔らかな草の上に大の字に寝そべって、空を見上げました。ふんわり、やんわり流れる大きな雲を眺めながら思いました。「死んでも気持ちってあるんだな」

その時、突然声が聴こえました。

「きみ、誰?」

パッピは突然の知らない声に驚いて飛び起きました。目の前には、パッピよりも三倍は大きな体のおサルが目を丸くしながら、パッピを見つめ立っていました。

「あの、僕、ごめんなさい。ずっと何もたべてなかったから…あの、でも、盗んだりするつもりじゃ…」そう言って、勝手に森に入って、食べものを食べて怒られると思ったパッピは走ってその場から逃げ出そうとしました。

その時です。「あ、きみはむらさきの星山のおサルか」 パッピより体の三倍大きなおサルが言いました。パッピはびっくりして足を止めました。

大きなおサルは続けて言いました。「僕は黄色い太陽山のおサル。名前はサデンガ」サデンガは自慢げに自分の輝く太陽の形をしたおしりをパッピに見せました。

「あ、本当だ」パッピは初めて見る黄色い太陽の形のおしりをみて驚き感動しました。僕みたいにハートの形のおしりじゃないおサルもいるんだ。パッピは、なんだか嬉しくなってきました。それでも、まだサデンガに少し怯えながら言いました。「僕の名前はパッピ。ハート形のおしりのおサル山にいたんだけど、僕、逃げてきちゃって、海でボートに乗って気がついたらここに」

「へぇ、きみはハート山の留学生か!」

「留学生?留学生って何だい?」パッピはサデンガに訊きました。

「留学生っていうのは、自分のおしりの形とは違うおしりの形をしたおサルたちの山に住んでみることだよ。おサル山もおしりの形が違うと色々違うことがあるからね。習慣とか文化とかさ」

「習慣や、文化…って、おサルはみんな同じじゃないの?」

「ん〜似てる山もあるけどね。バナナの剥き方とか、バナナボートの漕ぎ方とか、バナナの皮での転び方とかさ、バナナを食べないおサル山だってあるんだ。人間とどこまで交流してるかとかもね、山ごとに違うことを勉強してくるのさ。きみは星山のおサルだけどハート山の留学生だったってことさ。まだよく分からなくても仕方ないさ、徐々に慣れるよ。ここにいるみんなは留学生だったから」困惑するパッピにサデンガは言いました。

パッピは、分かったような、分からないような表情で、一応コクリと頷くことしかできませんでした。

「きみが今日ここに来たってことは、サル神さまに呼ばれたんだね。それじゃ、今夜はきみの歓迎パーティーだな。僕がみんなの所に連れて行ってあげるよ。一緒について来て」パッピは言われるがままに、サデンガの後に続いて森の奥へどんどん歩いて行きました。

歩いている途中、パッピはサデンガに訊ねました。「一つ質問していいかな?一体ここはどこなの?バナナだけじゃなくて、見たこともない美味しいものがいっぱいあるし、美しい自然でいっぱいだけど…ここは天国?」

「ここはサル神さまが住んでいるおサル山さ。だから、なんでもあるのさ。天国というおサルもいるけど、サル神山ってみんなは呼んでるよ」

30分くらい森の中を右に、左に曲がりながら、金色の洞窟のような場所に着きました。

「みんな〜」サデンガが大声で洞窟に向かって叫ぶと、何十匹ものおサルたちが、ゾロゾロと洞窟から出てきました。

サデンガが言いました。「新入りのパッピさ」みんなは、パッピを見ると笑顔でパッピを出迎えてくれました。

「私はルミイ」「私はマハル」「僕はジョバンさ」みんな次々にパッピに挨拶をしてくれます。パッピはみんなと挨拶を交わす度に衝撃を受けました。おサルたち一匹一匹おしりの色と形が違うのです。

黃緑色のりんごの形、オレンジ色のダイヤの形、淡いブルーの洋梨の形に、ひょうたん形のしましま模様のおサルもいました。

パッピは圧倒されながらも、みんなと挨拶を交わしていました。とうとう、最後のおサルがパッピに挨拶をしに来ました。「私はルナマ。あなたの星形のおしり素敵ね。その淡いいむらさき色、とってもキュートだわ」

パッピは生まれて初めて、自分のおしりを褒められて嬉しくて、嬉しくて涙が零れ落ちました。そしてルナマに言いました。「君の青い月の形のおしりの方が最高に素晴らしいよ」二匹のおサルは、少し頬を赤らめながらしばらく見つめ合いました。

その夜、パッピはサル神山のみんなが用意してくれたバナナ入りのミックスジュース、美味しいへんてこりんなフルーツや木の実で作った塔のケーキをごちそうになりました。みんながパッピのために歌ったり、踊ったり。宴は一気に盛り上がりました。

すっかり気分がよくなって、楽しくて舞い上がったパッピは、自分のお得意のパンツ踊りを踊り始めました。

「パンパンパンツパツパツパンツ、クルクルツルツル天まで届け」パッピはおしりを唐草文様のように右回りに左回りに振りながら、踊りました。みんなは大笑い。次々におサルたちもパッピの踊りの真似を始めました。

おしりを右回りに左回りに振りながら「パンパンパンツパツパツパンツ、クルクルツルツル天まで届け」何度も何度も繰り返しながら、大空にパンツ踊りの歌が響き渡ります。

すると、夜空から一直線の光が差し込みました。幻想的なその光から小さなバナナ形のゴムボートが降りてきました。

「あ、あのボートは…」









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