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街角のクリスマス

君は毎朝、信号の先の特等席に座っていた。毎朝、僕が君の側を通ると、君はいつだって、とびっきりの笑顔で「Hello」と言って手を振ってくれたね。

冷たい風が肌から身体の奥にじわじわと浸透していったあの白い朝も、君はいつもの笑顔で、あの場所にいた。あの日の君はクリスマス仕様のサンタクロースの帽子をかぶって、薄い毛布にくるまりながら。

僕達は「Hello」以外の言葉を交わしたことはなかったけど、僕は君にシンパシーを感じていたし、リスペクトしていたんだ。

僕には屋根のついた住む場所があったけど、お財布の中は、いつも空っぽで、小さなパンさえ買えない日は情けなくて。虚しくて。

でも君は通り過ぎる人々から、コインがもらえようと、もらえまいと、笑顔を街中の人々にプレゼントしながら、リズムにのって歌ってた。最高に今を楽しんでる君は最高にかっこよかったよ。

あの朝、僕は少しだけチョコレートを奮発して買った。クリスマスだからね。やっぱりちょっぴり特別な気持ちになりたかったんだ。

信号の向こう側にいる君をみた時、君に一つチョコレートのクリスマスプレゼントをしたいと思ったんだ。信号を渡り始めて、信号の先にいる君に近づいていく間、すごく胸が熱くなって喉元が苦しくなった。僕は迷って迷って結局渡さなかったんだ…

たった一つだけのチョコレートは、なんだかちっぽけな気がして、恥ずかしかったから。

僕は顔を下に向け、小さな声で君に「メリークリスマス」と言って君の側を早足で通り過ぎた。君は覚えていないだろうけど、僕は忘れない。僕は何も君にプレゼントできなかったけれど、君はいつもの笑顔で「メリークリスマス!」と優しく微笑んでくれたんだ。

あの時、たった一つのチョコレートを君に渡すことが出来ていたら、あの日は、もっと素敵なクリスマスになったのかもしれない。

あれから、僕は引っ越して、君に随分会ってない。もし、映画のように、またクリスマスに、あの場所で君に会えたら今度は迷わず君にチョコレートを渡すよ。もし、その時一つだけだったとしても。

裕福な人たちは貧しい人たちにクリスマスに寄付をする。人々は特別な料理でこの日を祝い、貧しい人たちは施しものでクリスマスを祝う。これが、キリストが望んでいたことなのかな。

君は、そんなことを考えることなんてないんだろうね。きっと君は全てを愛してるから。キラキラした君の笑顔は本物だもの、それぐらい僕にだって分かるよ。だって君の笑顔を見ると僕のハートが揺れるんだ。

君は今もあの場所で歌っているのかな。毎年クリスマスがやってきて、シャンパングラスの音が響くと君を笑顔を想い出すんだ。そして、やっぱり想うんだ。君は誰よりも最高にカッコいいって。僕のハートが揺れるんだ。

最後までお読みいただき有難うございました!😊🙏