おサルのパッピ【前編】

ある、おサル山に住むおサルのパッピ。いつも元気なおサルのパッピは、山一番の人気者でした。

そんな、パッピには誰にも言えないヒミツがありました。

おサル山のおサルたちのおしりは、みんなピンクのハートの形。でも、パッピのおしは、ハートの形をしていなかったのです。パッピのおしりだけはなぜか、むらさき色の星の形をしていました。

パッピは、みんなと違う形のおしりが、嫌で嫌で恥ずかしくてたまりません。だから山から街へ下りた時に偶然拾った人間の唐草文様のパンツをいつも履いていました。

おサルのみんなは訊きます。「パッピ、なんでいつも、そんな変なものを履いているんだい?」

パッピはいつもこう答えました。「これは街にいる人間たちが履いている魔法のパンツなのさ。ずっと履いているといつか願いが一つだけ叶うんだ。それに、このパンツを履いたら楽しい踊りだってできるのさ「パンパンパンツパツパツパンツ、クルクルツルツル天まで届け」パッピはいつもおどけながら、おしりを唐草文様のように右回りに左回りに振りながら、踊ってみんなを笑わせました。

でもパッピの心の中は、いつも涙色でした。本当は悲しんでいたのです。「どうして僕だけ、みんなみたいにピンク色のハートじゃないんだ。どうして僕だけ。どうして僕だけ。どうして僕なんだ」

パッピは思いました。「僕はきっと悪いおサルだったんだ。だから、サル神さまが僕に罰を与えたんだ」パッピは毎晩、独りぼっちで夜空を眺めました。

自分と同じ星形のキラキラ星を見つめては祈ったのです。「おサル神さま、僕は良い子になります。だから、どうか僕のおしりをみんなと同じハートの形にしてください」

ある日おサル山のみんなで、温泉にいくことになりました。パッピの一番きらいな遠足です。「おしりを見られたらどうしよう」パッピは、前の日から心配で心配で眠れませんでした。

とうとう遠足の日。温泉に着くとみんなは、どんどん湯船につかって、お湯を掛け合ったり、泳いだりして仲良くはしゃいでいました。

パッピはなかなかパンツを脱げずに、ただみんなの嬉しそうな様子を眺めていました。「楽しそうだな」そう思っていると、「パッピ、何してるんだ。変なパンツを脱いで湯船に早く入りなさい」ボスサルのカーターが大きな声でパッピに言いました。

「は、はーい」パッピは小さな声で答えました。ボスのカーターに言われてしまったので、パッピは嫌とは言えずに、みんなにおしりを見られないように、しぶしぶパンツを脱いで、おしりを両手で隠しながら湯船に入りました。

「はぁ、気持ちいいな。パンツを脱いだのはいつぶりだろう」心地よい湯を楽しんでいた、その時です。カーターが大声で叫びました。。「みんな、逃げろー!!」

遠くから、隣山に住む怪物オニゴンの姿が見えました。オニゴンに捕らえられたらおサルたちの命はありません。オニゴンは、獲物のおサルたちを見つけ、急いでこちらにやってきます。

「みんな、早く!早く!」おサルたちは、次々に湯船から急いで上がり、自分たちの山の方へと走っていきます。「オニゴンに食べられてしまう」パッピも必死に逃げました。

オニゴンの姿も見えなくなって、ボスのカーターが言いました。「ここなら、もう追ってこないだろう」おサルたちはやっと一息つくことが出来ました。ちょうどその時、パッピの後ろにいたおサルが、パッピのおしりを指差して言いました。「パッピ!おしりが!」

その時、パッピは、我に返りました。あまりに急いでいたので、温泉にパンツを忘れてきてしまったのです。パッピの赤くなった顔は一瞬にしパッピのおしりと同じ、むらさき色に変わり、気が動転したパッピは目を回して、その場に倒れてしまいました。

パッピの意識が戻ったのは翌日でした。パッピが少しずつ目を覚ますと、パッピを囲んで覗き込むおサルの仲間たちの顔がぼんやりと見えてきました。

真面目な顔でヒソヒソ話す者たち。かわいそうにと言わんばかりに哀れな視線を向ける者たち。笑いをこらえて肩を震わす者たち。

目覚めたパッピに気づいたボスのカーターが、何かパッピに話しかけようとした時、パッピは勢いよく起きて走りだしました。

どこへ?もちろん、パッピにも分かりません。とにかく、右へ、左へ、遠く、遠く、遠い所へ。山を越え、谷を越え、川を下り、海につくと、浜辺においてきぼりになっていたバナナ形のゴムボート乗り、もっともっと誰もいない遠い所へとユラリユラリと揺られていきました。

大海原の真ん中。ここではもう唐草文様のパンツを履く必要はありません。本当に独りぼっちになってしまって、寂しいけれど、少しの開放感をパッピは生まれて始めて感じたのでした。

船の上でユラユラ揺れながら、パッピは、暖かなピンクと淡いむらさき色の夕暮れの明かりにだんだんと包まれていきました。空を見上げ、おサル山のみんなのピンクのおしりと、自分のむらさき色のおしりを想い出しながら、逃げ疲れたパッピの心に優しい波の音が心地よく響いて、パッピは少しずつ眠りに落ちていきました。







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