おサルのパッピ【後編】

夜空から、きらめく美しい一本の光。その中を、パッピが乗って海を渡ったバナナ形のボートが降りてきました。その瞬間、サル神山のおサルたちは、みんなしゃがんで、天を見上げて拝み始めました。

パッピは突然目の前に起こった現象に驚き、その幻想的な美しい光を見つめていると、急に頭がぼぉーっとしてきました。

意識がもうろうとする中、天から声が聴こえてきました。

「パッピよ。お前はハート山でよく頑張っているぞ。でもな、お前はまだ留学旅の途中じゃ。お前はまだハート山で学ぶべきことがある。そして、ハート山のみんなもお前から学ぶことがあるのじゃ。だから、またこのボートに乗ってハート山に戻るのじゃ。でもな、お前の毎夜の祈りは、ワシにちゃんと届いておったぞよ」

「毎夜の祈り…って、サ、サル神さま!?でも、どこに?」パッピには美しい光とバナナのボートしか見えません。ただサル神さまの声だけが聴こえてくるのです。

天の声は続きます。

「パッピ、お前はハート山で、良いおサルになろうと努めた。どんな辛いときも踊り、笑い、みんなを喜ばせ、どんな夜も乗り越えた。しかも今月はボーナス月でおサル得得ポイントが二倍じゃ、お前のポイントは満点となったのじゃ。だから願いを叶えてやろう」

「ぼ、僕の願い…」

「そうじゃ、お前のおしりをピンク色のハートの形にしてやろう」

「え、僕のおしりの形をハート形に…」

パッピがハートのおサル山で毎晩毎晩、涙を流し、夜空に祈った願いをサル神さまが、叶えてくれると言うのです。パッピは喜ぶはずでした。そう、以前のパッピなら…

パッピは、サル神山のみんなの顔を見渡しました。そして、天を見上げ、サル神さまに拝みながら言いました。

「サル神さま。僕の願いをきいてくださってありがとうございます。でも、僕、今のおしりのままでいいです」

「どうしてじゃ、パッピ。お前はまたハート山に行かんのじゃならんのだぞ」

「は、はい。でも、僕、このサル神山のみんなに会えて思えたんです。どんなおしりも、それぞれ素敵で、みんなと同じじゃないことは恥ずかしいことじゃないんだって」

「パッピ。本当にいいんじゃな」

「はい。サル神さま。僕、みんなのおかげで自分のおしりも大好きになれました。だから、もう大丈夫です」

「そうか、それなら他の願いはあるかい?言ってみなさい」

パッピはしばらく考えた後、ポツリポツリと話し始めました。「もし、もしも許していただけるなら、ここのフルーツや木の実を少しだけハート山に持っていってもいいでしょうか?ハート山には毎日みんなが食べられる十分な食べものがないんです。ハート山のみんなにも、この美味しい食べものを食べさせてあげたいんです」パッピはハート山のおサルたちの顔や仲間たちと一緒に過ごした日々を思い出しながら、サル神さまにお願いしました。

「本来なら禁止なんじゃが、お前の成長の褒美に特別に許してやろう。ただしハート山のおサルたちには、この山のことは言ってはいけないよ。いいかい?」

「分かりました。僕、必ず約束を守ります」そう言った後、パッピは急に悲しくなりました。「このサル神山のみんなとは、もう会えないんですよね」

サル神さまは、優しくパッピを諭しました。「パッピ、お前の留学の旅が終わったら、必ずまたみんなに会える日がくる。旅が終われば、お前のむらさき色の星形の故郷にだって行くこともできるぞよ。だからもう少し頑張りなさい。留学旅は逃げては終われないんだ。旅を終えるときは、お前が心から幸せに、ハート山で学んだ意味を感じたときなんじゃ。パッピ、お前ならできる。自分を信じるだけじゃ」

パッピは静かにサル神さまの言葉を心に刻み込みました。

「さぁ、そろそろ夜が明ける。みんな手伝ってあげなさい」サル神さまの声を聴くと、みんながたくさんのフルーツや木の実を集めてバナナ形のボートに積んでくれました。

「さぁ、時間じゃ。いいかい、パッピ」

パッピは頷き、もう一度サル神山のみんなの顔を見渡しました。

「みんな、ありがとう」

青い月の形のおしりのルナマが、パッピをじっと見つめています。パッピもルナマを見つめます。二匹はしばらくお互い見つめ合い、何かを確信していました。

そして、パッピは心の中で呟きました。「ルナマ、また、いつか」

ルナマのは頷き、目から一粒の大きな涙が零れ落ちました。

「待ってる」パッピの心の奥底からルナマの声が聴こえた気がしました。

パッピは意を決して、ボートに乗り込みました。ボートはゆっくり天に向かっていきます。サル神山のみんなは、空におしりを向け「パンパンパンツパツパツパンツ、クルクルツルツル天まで届け」ハッピの唐草文様の踊りを踊りながら、おしりを右回りに左回りに。「パンパンパンツパツパツパンツ、クルクルツルツル天まで届け」何度も何度も繰り返し、パッピを送り出しました。

パッピは、みんなの声を聴きながら、ゆっくりと目を瞑ると意識がだんだんと遠のいていきました。

どのくらい、たったのでしょうか、意識が戻ったパッピは、ハート山のふもとにいました。

ボートに積んである、たくさんのお土産を引きずりながら、山の奥に入ってみると、懐かしい顔ぶれが、いつものように仲良く木登りをしたり、毛づくろいをしたりしています。

一匹のおサルがパッピに気が付きました。「あ、パッピだ!パッピが帰ってきた!」

みんなが急いでパッピのもとに走ってやって来ました。最後にボスサルのカーターもやって来ます。

まずはカーターがパッピに言いました。「パッピ心配したぞ」

パッピはみんなに言いました。「みんな、ごめん。実は僕のおしりはみんなと違うんだ。それが恥ずかしくて…遠くの海や山に行ってたんだ。その間、食べものを見つけたから、これみんなで食べて」

何か吹っ切れたような強さを感じる素直なパッピ。もう、そんなパッピを見て、真面目な顔でヒソヒソ話す者たち。かわいそうにと言わんばかりに哀れな視線を向ける者たち。笑いをこらえて肩を震わす者たちはいません。

ハート山のおサルたちは、初めて見る不思議なフルーツや木の実のお土産を大喜びで分け合って食べました。みんなの喜ぶ顔をみて、パッピも笑顔が止まりません。

パッピはハート山が、もっと食べものや自然に恵まれますようにと、へんてこりんな果実の種を植えてみました。毎日大事に大事に水やりをしていると、木は育ち、へんてこりんな果実がなりました。それからというもの、ハート山のおサルたちは食べものに困ることはありませんでした。

もう、昔の毎晩泣いていたパッピはいません。カーターの補佐として山のおサルたちのリーダーにもなりました。いつかルナマに会える日を夢見て、毎日ハート山のみんなのために働いてパッピは幸せに暮らしています。

ハート山の頂上には、唐草模様のパンツの旗が、今日も風になびいています。

「パンパンパンツパツパツパンツ、クルクルツルツル天まで届け」



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