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18歳成人で、ひとり息子が別れた夫の名字に戻り、母の戸籍から独立したはなし

変わりたい、と思うのにちょうどいい節目がある。

例えば年の初め。新年の計を立てて、その一年の自分の目標なりを定めたりする。私はあまりしないけど。
月の変わり目。年に何度もやってくるから、何かを新しくしたいと思うのにちょうどいい節目。使い捨てのコンタクトを新しくするタイミングは、わりと月初めにしてしまう。
あとは誕生日。これは結構、この一年をどう生きるか的な、まじめな思いが詰まりがちな節目だ。
学生とか転勤や移動の多い職場の人だと、新年度もそうかもしれない。新生活、新学期、新しい職場、新しい人間関係。今までの自分を変えて「デビュー」する人もいるだろうし、出世を目指して闘志を燃やしている人もいるかもしれない。

で、昨日の2022年4月1日。
実は個人的にひとつ、大きな区切りがついた日だった。

成人年齢引き下げが適用され、ちょうど18歳の息子は成人した。
ただそれだけなら「急に今日から大人だと言われてもピンとこないね」くらいなのだが、彼は、私の戸籍から抜け、新しい自分ひとりの新戸籍を作った。
さらに親の離婚で変えた名字を、元々の名字へと戻した。
親の支配からの卒業(尾崎か)、という気持ちではなく、とにかく名字を元に戻したかったのだ。それはSNSのアカウント名などからも気づいてはいた。

「親の離婚で変更した姓を成人から一年の間に本人が選ぶことができる」ということは離婚時に息子の姓を変更する手続きの時に、家庭裁判所で説明され知っていた。当時小学生だった息子にも説明し、ことあるごとに話してもいたことだ。

「名前どうしようかなー」

およそ2ヶ月前。大学進学が決まった息子がふと呟いたこのひとことが、今回のことのはじまりだった。「中学、高校と進学のタイミングのたびに、名前変えるかどうか悩むんだよねー」と。
「でも二十歳まで余裕あるから、それまで考えたらいいよ」と言ってみて、ハッと気がついた。18歳、4月から成人じゃん! 名前が変えられるリミットはあと1年しかない。だったら今やらなきゃ。

とりあえず元夫にも連絡した。
その時はまだ、名字を変えるだけの簡単な手続きだと呑気に思っていた私は「元に戻すことにするから〜」くらいの軽い気持ちで連絡したのだが、法律関係になぜかやたら詳しい元夫は、「僕の戸籍に移動させないと無理じゃない?」と教えてくれた。
なんだか大事になる予感…。

それから元夫は、驚くべき速さで区役所、法務局、家庭裁判所へ問合せてくれたが、なかなか確実な手続きがわからなかった。なにせ18歳を成人として扱うことは役所のほうでも初めてで、前例がないからわからないらしい。
数日待たされて、出た選択肢はふたつ。

①  息子を元夫の戸籍に戻して旧姓に戻る
②  息子が私の戸籍から出て、自分ひとりの新しい戸籍を作る


①は夫が遠方に住んでいて、戸籍謄本とかを取るのに不便そうなので現実的ではないね、と両者納得。心理的に、離婚して育ててきた息子をとられるような嫌な気持ちも少しあった。
②の方が親の戸籍を行ったり来たりせずシンプル。だけど18歳でひとりで戸籍を作るってなんか寂しくてかわいそうという感情も。

結局選んだのは②。
じつは、息子のひとり戸籍の寂しさ以上に、母子2人の戸籍から自分がひとりになることが、ただただ寂しくてひとりで泣いた。でも、親の離婚で不本意に名前を変えられた彼はもっとつらかったと思う。だから止めることはできないし、したくなかったので、最後まで強がってなんでもないフリをしていた。
近い未来に独立していくことはわかっているし、それを望んでいるのに。老後を考えると寂しくなるお年頃の弱いところだ。

手続きは4月1日に行くことにした。大学の入学式前に手続きを完了していたかったからだ。
それでも、そんなに急がなくてもいいのに、もっと後でも良くない? と考える自分もいて、我ながら往生際が悪いなと自分の弱さを呪った。

手続き目前の3月末に一緒に出かけた車中で、息子は「なんかごめんね」とひとこと言った。
彼は私の気持ちに気づいていた。わかっていてくれていたのだ。そのひとことで救われた気がした。優しい子だ。もう腹をくくらなくては。
そう心の中で思いつつ「えー、全然平気だよ。むしろ私こそなんかごめんね」とか強がる私。でもこれで分かり合えたと思う。

いよいよ迎えた4月1日。
成人を期に元の姓に戻す子どもの事例が少なく、回答まで時間のかかった区役所では、また説明に時間がかかるだろうと覚悟していた。なのに窓口に行くと、あっけないほどに「あ、わかりました」と書類を手渡された。

届出用紙に息子が今の氏名と住所、新戸籍の住所を記入する。「従前の氏を称する」という聞き慣れない表現のボックスにチェックを入れる。これでおしまい。
マイナンバーカードを発行しているせいもあるのかもしれないが、その1枚の用紙だけですべての手続きが完了した。

転入出で混み合っていて、マイナンバーカードの変更に時間がかかるというので、ふたりでファミレスでパフェを食べた。
名字はかわり、戸籍も別々になったけれど、私たち親子はなにも変わらないようだ。大丈夫、いつも通りだ。
チョコレートで唇の縁を黒くした無邪気な18歳を見ながら、長らく最優先にしてきた子育てが終わりに近いことを改めて感じた。
私も変わらなきゃ。
明日からまたがんばろうと思う母だった。

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