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居心地がいい、の落とし穴

ひさしぶりに、ひとりマックした。

健康的ではないとわかっていながらも、たまに無性に食べたくなるファーストフード。コロナ禍ということもあり、このところは大抵ドライブスルーでテイクアウトしていたのだけれど、この日は待ち合わせの時間までかなりあったので、店内で1時間ほど過ごすことにした。

土曜日のお昼を少しすぎた頃。店内はわりと混んでいて、ほどよくガヤガヤしている。
お客が交わす会話や笑い声。店員の声。厨房から聞こえるさまざまな音。それらが混じり合った中に、抑えめのヴォリュームで流れるポップなBGM。
ひとりでハンバーガーを頬ばり、ぼんやり外を眺めていても誰にも気にされず、その場に埋もれてしまえるような雑音が溢れる空間は、しんと静まり返っているよりもむしろ気楽だ。

そんな昼下がりのマックの調和を乱す音が、ひとつだけあった。

店内のザワザワ、ガヤガヤに、明らかに馴染まない異質なノイズ。それは、斜め向こうの席に座った男性が手にしたスマホから発せられていた。YouTubeなのかなんなのか、動画サイトをヘッドフォンなしで見ているのだ。
特別変わった音がしているわけじゃない。なのにたくさんの音の中でなぜかその動画の音だけは店内の音に馴染むことがないまま、不快な違和感を放っていた。

そもそも、私の認識が間違ってなければ、いわゆる公衆の場ではヘッドフォンもしくはイヤフォンをつけるのが普通ではなかったか? 音漏れですら注意する時代が確かにあったはずだ。ながらく電車やバスに乗ってないうちに、世の中は変わってしまったのか?

年齢30歳くらいの彼は、斜め後ろからそれを不快に思う女に凝視されていることも知らず、平然と動画に見入っていた。
しばらくしてその彼が立ち去り、不快感からようやく解放されたと思いきや、次にその席に座った大学生風の男の子もまた、携帯でイヤフォンなしで動画を見始めた。再び複数の音がもつれ合う状況下、店員のお姉さんが清掃にやってきた。「イヤフォンをお使いください」とかなんとか注意してくれないかと期待して見ていたが、何事もなく立ち去ってしまった。

念のために家に帰ってから高校生の息子に尋ねると、「いや、普通イヤフォンするやろ」と一刀両断。ああ、よかった。そうよね、そうだよね。

人は弱い。周りの環境に流されやすいし、自分の都合でものごとを考えがちだ。これだけうるさければ、自分の携帯からどんな音が発せられようが誰も気にならないだろう、と思ったのかもしれない。
よくよく考えたら、私だって「誰にも気にされずに心地いい」と言っていたではないか! 彼らだって、誰にも気にされてないと思っていたのかもしれない。

でも、まわりに配慮して、みんなが快適に過ごせるように心づかいするのがソーシャルな場。公共の場でこそ、空気を読み、心配りが必要だ。
ああ、私も油断せず、気をつけなければ。

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