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嘘を許す気持ち

誰だってお買い得が良い。

どこのブランドも値上げ値上げでコンビニのお弁当すらも500円を上回って当然という佇まいだ。90円だったおにぎりも137円という中途半端な価格設定にされて一部の商品に5%還元シールが貼られている。これが優しい国日本だ。



私がHERMESを好きになってから3年目に入った。たくさんのブログやSNSを見てきたが購入報告と人の悪口ばかりでどれも信ぴょう性がないと判断して以来読む事がなくなった。


HERMES




絵柄が綺麗なスカーフだなと遠くから見たり高そうなジュエリーを横目で見たりありがとうございますとお礼を言って丁寧に商品に接する。この私がHERMESに行くとキティ化してしまい足の裏から汗が出るように雰囲気でなんとなくやってしまう所の本領を発揮してしまう。担当さん含め全員劇団四季出身かと思うかのような豪華な嘘も時としてお客様を気遣う優しい嘘もふとした時に突然本音を聞いてしまう同じ人間同士だと気付かされる時もお互いに今日も全力でHERMESをやっているなと感じる。





私は販売の仕事をした事がない。
だから販売員の気持ちがわからない。
わからない事をわかったようなふりをして赤の他人に口を挟まれるというのは嫌だと思う。
自分の考えることなど憶測に過ぎない。
これは特にHERMESに限った事ではない。





独特な範囲の物を好きになってしまったようで、時々ふわっとゆうてビジネスやんという声が聞こえてくることもある。HERMESは会社なのだから。どこだってそうでしょう。精一杯頑張る。それが仕事だ。販売員の方々だけでなく商品を作っている人がいる。商品を運んでいる人がいる。売り上げを見直しこれからどうするかを考えている人がいる。愛情だけではやっていられない時も多々あるだろう。カスタマーサポートはとても丁寧だ。きっとたくさん規約があることだろう。私も経験があるのでわかる。ビッグデータというやつは本当にすごい。






おそらくクレジットカード会社や金融機関のような仕事をしていた人であれば個人情報の取り扱いを一歩でも間違えるととんでもないことになると青ざめた経験があるだろう。一瞬でなんでもわかってしまう。わかってしまったとてわからないふりをして敢えて効率の悪い面倒なお願いをすることもある。すみません、ルールなんです。



とは
言っては
いけない






などとマニュアルに書いてあったりする。
私は受付の仕事をしていた。

いかに反感を買わずに物事を説明し話を進める事ができるか。頭も使うがとにかく気をつかう。仕事はエネルギーを消費する。一生懸命取り組んだのに最後の最後にやっぱいいですと言われてもう今日はこのままここで倒れて目が覚めたらどうか隣で誰か余興を始めていて欲しい。








HERMESの販売員も苦労が絶えない事だろう。気の毒に感じることもある。









「本日はミッキーマウスが記者会見の為10:30に到着します。地下のエレベーターからあがるため警備員が2名10:30から10:35までの5分間同乗しエレベーターを封鎖します。万が一お問い合わせを受けた場合はミッキーマウスの来客は予定していない、エレベーターの利用につきましては点検中と伝えてください。以上です。それでは本日もよろしくお願いします」


ある日の朝礼での出来事だった。




…ミッキーくんの…




めちゃくちゃ写真撮りたい。
会いたい。
見たい。
言いたい。
時間も場所も知ってる。
会える。
出来る。
駐車場の場所もわかる。
出待ちか…
いや、ダメだ。。。。

仕事だから…仕方がない。






ミッキーは10:30に来る。
私の職場にミッキーマウスが来る。新年明けましておめでとうございますの記事に掲載するための写真撮影がある。ミッキーは見たいけど私ですら見られない。予定表を確認すると時間差でミニーマウスも来る。


夢の国ディズニーランドからミッキーとミニーが時間差でやってくる。おしのびというやつを今から2人がやるにあたって自分が協力するという時間が始まる。なんとしてでも平然と嘘をつきミッキーとミニーの新年明けましておめでとう特集がうまくいきますように。大事な仕事なのでなんとか10:30を乗り切ろう…。





そう思っていた矢先、目の前に市民が現れた。

「…なんか今日ここで撮影あります?」







撮影、、、、、、ある。
10:30からミッキーとミニーの新年明けましておめでとうございます特集を予定している。予定表に書いてある。見た。ある。頼むから早くこの場から立ち去ってくれ…もうすぐそこのエレベーターがとまる…今すぐ今使ってくれ…頼む…点検中の看板をセットして健やかに席に戻ってくるのが私の任務なのだから…。15秒で終わる。やらせてくれ。早くどうかこの場から立ち去ってください頼みます…







「いやー…卓球といえば福原愛でしょ?来るの?福原愛」





予定表を確認するとオリンピックメダリストありがとうございます特集より平野・卓球と書いてあった。そうか今日は訪問の日だった。なにを間違えたのか愛ちゃんが来ると勘違いして浮かれているお客さんが来た。


微妙に違う…、、、愛ちゃんでは…ない。平野選手だ。逆にこちらはここで変な事を言ってしまうと後ほどこっちは税金を払っているのにどういうことなんだ!と怒鳴られるパターンになる可能性もあるのでミッキー達のおしのびとは話が変わる。


ただ、選手のことを思えば勝手に写真を撮られたり追いかけられたりするのは嫌だろうしましてやなんだよこんなに楽しみに待ってたのに福原愛じゃないのかよなどと口にしそうな失礼の予感が極まりないこのお客さんと出迎えるのは勘弁だ。静かに花束贈呈の写真を撮影する事ができるように私はいつも配慮することを心がけていた。








愛ちゃんは来ない。







愛ちゃんは来ないけど撮影はある。言ってはいけないわけではないが言っていい予感もしない。だから嘘をついた。



「…あの愛ちゃんが来るんですか!?その噂本当なんですか??さっきも聞かれました!」






聞かれていない。
誰にも聞かれてなんかいない。
なんなら来るのは平野選手だから愛ちゃんは来ない。
でもここは私も愛ちゃんを見たいと言うことによって乗り切ろう。





「おたくらも知らないんだねー。そっかそっか。いやさぁそこの警備が今から卓球の撮影がどうのこうのって言ってたからさ気になって」






…漏らしたな警備。
そうなんですねと言ってその人はその場を去った。ルールを守れない人もいる。


私にとってはミッキーの方が誰かについ言いたくなる情報だったが警備員にとってはオリンピックのメダリストの方が楽しみだったのかもしれない。





というように本当の事などほとんど言えない仕組みになっている。



言ったり言わなかったりするのが自分の仕事なので悪かったなと思うこともあるがやっぱりルールなので雇われている以上守ろう。給料は大切だ。

何度かルールを破った事があるが後悔しないと思える破り方なので今でも判断は間違っていないと思いたい。



ひとつは、3.11の東日本大震災の後に家族と連絡を取りたいという理由で携帯を使用したい為コンセントを貸してほしいというものだった。
国民が困っている時に電気を分けるくらいしたかった。私は当時25歳だった。
警備員も事情を聞いて中に入れたのだろうと思ったので小さな子供とお母さんを近くのベンチに座らせて先輩にバレないように倉庫の裏にあるコンセントを使った。5分間充電して携帯を返した。ここにある電話は外線に繋がらないのでどうしても必要であればまた私に声をかけてほしいが他の人に頼んではダメだと言った。
当時は電気もままならない状況でみんな困っていたから仕方がないと思い勝手な判断でやった。怒られたら泣かれて私も辛かったと泣いてしまおうと思って決めた。
しかしルールは破った。






ふたつめは、物を受け取り続けた。
NPOの方々は謎に親切にしてくれる機会が多く約10年間の間会う度に私に折り紙を渡し続けた折り紙おばさんというあだ名のお客さんがいた。私はいつも折り紙を断れず「寒いけど頑張ってね」などと声をかけられる度にありがとうございますと言っていた。

誰かが受け取らなければ折り紙おばさんは帰らないので私が断れば先輩に持っていくだろうと思い折り紙を貰う役を頑張った。ただし、本来であれば受け取ってはいけない。こっそり自分のカバンの中にしまって自宅に持ち帰り捨てた。時々募金箱の裏側に貼り付けたりして活用したこともあるのでどうか恨まないでほしい。そして今も折り紙おばさんには元気でいてほしい。NPOの方々には優しい心をこれからも保ち続けて貰いたい。いらなかったけど折り紙を渡す気持ちだけはありがとうございました。
当時は親切とはなにかについて相当悩んでいた。良かれと思ってした事がうまくいかないのだから。







数少ない自分の社会経験からわかることもある。






HERMESの販売員に在庫がありません申し訳ございませんと言われる状況を冷静に受け取る。これはひとつの事例なだけである。




好きも嫌いもない。



目の前のこの人は仕事をしている。




そういう目で見ている。
組織にはルールがある。正しいルールを作ると組織は栄える。どの業界にもルールを破る人間はいる。目の前の人間にも暮らしがある。私は娯楽で今日ここへ来ているのであって立場が違う。



逆であれば私も嘘をつく。
HERMESに勤めているものですが、本日ミッキーマウスがここに来るという話は本当ですか?と聞かれればそのような予定はございませんと申し上げるだろう。そうですか…ではまた来ます…と立ち去るHERMES店員に向かってすみません、、、10:30に来ます…しかもミニーも来るよごめんなさい…と思う事だろう。





ただし、万が一エレベーターから秘書室を通る瞬間にタイミングが合えばミッキーマウスかミニーマウスを見る事ができる。



それは誰にも言わない。
なぜならミッキーマウスもミニーマウスも遊びじゃない。
仕事だからだ。




リスペクトを。





今でも私を一度でも雇ってくれた会社全てに感謝している。いい時も悪い時も必ず給料日に給料が振り込まれわからないことは親切に教えてくれた。受付の仕事は10年間やったが遅刻早退欠勤ゼロ。自分の仕事を楽しい場所にしてくれた。私は今後どんな仕事に就いても前向きに頑張っていける自信をいただいたと思っている。



大好きなHERMES
いつもありがとう。これからも上手に付き合っていけるように。もしかしたら子育てや仕事が大変でどこかで間が空いてしまうかもしれない。まだまだ未熟な私は毎日が精一杯だ。
でも私の還暦を迎える頃も変わらず元気にしていてほしい。家具とかバンバン作って世界中のクリスマスをオレンジで染め尽くしていて欲しい。HERMESの中で私が一番好きなものはオレンジの箱だ。あの箱をまだ燃える日のゴミの日に出そうという決心がつかずにいる。



年金はフルでいかしてもらいます。







私も時々嘘をつく。

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