ボイス台本に至るまで すず白ラパニスさん

※内容のネタバレあり。以下の動画をご視聴の上でお読みください

 当noteの主旨は前回と同様です。前回の記事はこちら。

 今回はラパニスさんのボイス台本について。皆様がボイスを楽しむ一助になればなによりです。

 まずは台本の全文を掲載します。

指定:歌の部分は(雰囲気を壊さない程度に)ゆっくり、はっきりでお願いします

ようこそのお運び!
って先輩じゃないですか。どうしてこちらへ?
展示、興味がなさそうにしてたじゃないですか。
暇だったからと、はぁ、さようで。

え、せっかくだから解説してほしい?
えぇ……(嫌そうに)
いや、まぁ仕事なのでしますけどね、えぇ

この辺りが短歌の展示ですね
展示ということで有名所を並べています
手抜きなんかじゃないですよ。ホントです

さて、五七五七々の短歌にも歴史がありまして、流行の変化なんてのもあります
近代より前、日本古代まで遡れるのが和歌ですね
(取り消し→)『万葉集』の時代は、率直な情感や情景を詠んでいたんですが、
時代が下がると、貴族のたしなみとして技巧的になっていきました。(→ここまで)

展示してるのは、山部赤人の、万葉集収録
「田子の浦ゆ うち出でて見れば 真白にぞ 富士の高嶺に 雪はふりける」
同じく、山部赤人の、新古今和歌集収録
「田子の浦に うち出でて見れば 白妙の 富士の高ねに 雪は降りつつ」
同じ人の歌が、万葉集と新古今和歌集で違っちゃってるのを
ネタとして出しておきました。

明治以降に成立した近代短歌はですね、大きな系統が3つ(取り消し→)あって、
浪漫的美観を重視する、落合直文系統
率直な写実性を重視する、正岡子規系統
古典研究から出てきた、佐佐木信綱系統
でも、落合直文なんて(→ここまで)
(追加→)あるんですが(→ここまで)
誰も知らないだろうと思ったんで、(取り消し→)この系統の(→ここまで)ビッグネーム、石川啄木を入れておきました。
「一度でも 我に頭を 下げさせし 人みな死ねと いのりてしこと」
この人の性格を、一番良く表してそうなのを選びました。

さておき、諧謔的で風刺がきいているのが特徴の狂歌は、
室町時代からあるにはあったんですが、
残ってるものは、江戸時代後期に江戸で詠まれたものが多いです。
「白河の 清きに魚の すみかねて もとの濁りの 田沼こひしき」
なんてのは日本史の図説とかに出てきそう

という感じで一通りご紹介したのでこの辺で。
わたしはまだ店番がありますからね。
どちらでもどうぞご自由に
……どうしてどこにも行かれないんです?
いるとサボりにくいじゃないですか。
そうだ、いいことを思いつきましたよ。
わたし寝てるので、先輩が店番お願いします
それで人が来たら起こしてください
では(寝る)

(揺さぶられて起きる)……ん?
(あくび)もう夕方ですか
結局人がこないまま終わったんですね
いやぁよく寝ました
ある意味文化祭を一日一緒に過ごしたんですね
「秋の日の 祭りは夢と 覚めにけり つづきを君と 後の祭りで」
なんて。じゃ、さっさと片付けて帰りましょうか
帰りになにか奢ってくださいよ、先輩

 前回の桜花さんの台本に比べると、何度か修正が入っています。上記の台本は「私の書いた台本をもとにラパニスさんが改変され、さらにそれを手直ししたもの」です。ところどころにある取り消しや追加分が手直し箇所になります。
 手元に残っている当初のメモを見てみると、
 ・男性向け?
 ・文化祭(日本文化研究会の展示?)
 ・店番をしているところに聞き手がやってくる
 という辺りから出発しています。
 ラパニスさんの台本は悩みましたが、やはり独特のユーモアと親しみやすさを取り入れたいと考え、そこからさらに「あなた」との距離の近さを意識してもらいたいという意図になっています。
 また、短歌がメインとなっているのは元々ラパニスさんが狂歌をよく詠まれていたため、それが出発点になっています。

 最初の台本は残っていませんが、五七五七々の短歌の歴史を紹介して寝る。起きたら夕方で一緒に帰るところまでは変わらなかったと思います。ただ、やや甘さが足りず物足りないものになっていたため、今回の企画の台本作成組であるローランさんや四宮さんに軽く相談しました。
 ということで改善案のメモがこちらです。
 ・歌を一つつけてエモくできるといいかも
 ・文化祭 夢 
 ・夢よりも儚きものは夏の夜の暁がたの別れなりけり(忠岑・後撰集170)
 一番最後の和歌は歴史の紹介で扱うつもりで、落ちにこれを本歌取りにしたような短歌を読んでエモくする趣向でした。確か「夢よりも儚きものは秋の日の黄昏時の別れなりけり」辺りを書いたような気がします。
 しかし、ラパニスさんに投げたところ、上記のような台本へと変更が加わっており、特に最後の短歌はラパニスさん自身が詠まれたものになっていました。
 ボイス企画の台本として第2版のような趣向を凝らしたものよりも、演者であるラパニスさん自身の好みや趣味を反映した方がより適していると判断し、長さの関係で簡単に手直しして現在の台本へと至っています。
 最後の短歌がラパニスさんが詠まれたものであることを意識して、もう一度聞くと一層楽しんで頂けるかと思います。

 台本の話としては余談になりますが、実質アニメになっていたのは本当に驚きました。深夜のろうらん神社(Discordサーバーのことです)で雑談をしつつ緩みきっていたところに、これを見せられたときの驚きをご想像頂ければと思います。
 2021/9/28現在は途中までがアニメとなっていますが、10/2までに300回再生で完全版の制作を考えられているとのことです。是非再生回数を回して完全版を楽しみにしましょう!


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