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耐震構造

僕が専門で研究していたのは、建築構造物の耐震構造だった。4回生の時に、兵庫県南部地震が起こり、そこから研究室も急に忙しくなった。
問題になったことの一つは、古い木造建築物が並ぶ地域だった。僕が調査に行った神戸市西区では、二階建て木造住宅の一階部分がつぶれ、二階部分だけがそのまま下に落ちてきた形だった。一階に人がいれば、当然、圧死する。
その数年後、違う研究室の教授が、古い木造住宅が並ぶ壁と壁の隙間に古いタイヤを挟んで、横揺れを軽減するという研究を発表した。住宅地を新しくするためには、道路の幅や電気、水道といったインフラも含め、新たに区画全体を新しくする必要がある。これでは、お金がかかりすぎる上、住民の同意をとりつけるのも大変だ。それなら、今ある建物はそのままにして、地震が起こった時に、すくなくとも住居が倒壊しないようにする(少なくとも人命を守る)簡易な方法をとったほうがいい。家の壁と壁の間に古タイヤを挟むというのは、そういう試案の一つだろう。シミュレーションと、振動台実験では、それなりに揺れの軽減はできていた。
全てを整えるのではなく、当面の目的に対して簡単な方法を考えるというのも、工学の考え方の一つだ。雨がふるからといって気象をコントロールするよりは、屋根を立てたほうが、安いし簡単だ。

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