イケオジのルーツ

「なんだかいろいろ煮詰まってきちまったなあ・・・たまには気分転換に球撞きでもするかな・・・」
と10何年ぶりに、キューケースを開けた。
学生の頃に7万円で買ったキューが入っているはずの場所には、なんと土が詰まっていた。
どうやら、キューは木でできているから、風化して土になってしまったようだ。
思い出といっしょに、キューまで風化してしまわなくていいのになあ・・・(笑)

大学一年の時、筑波研究学園都市内のビリヤード場でアルバイトをしていた。
(卒業後すぐに閉店してしまったので今はもうない)
バイト代を前借りして自分のキューを手に入れて、学校帰りに練習に励む毎日だった。
ある時、バイトの先輩同士で話してるのが耳に入った。
「白石さん(仮名)が帰ってくるってよ」
どうやら、白石さんは、俺がバイトに入る前からの常連さんで、めちゃめちゃビリヤードが上手いらしい。

数週間後、店に白石さんがやってきた。
あの時、おれは20代前半。白石さんは今の俺と同じぐらいの年齢だっただろうか。
もしかしたら50近かったかもしれないし、もしかしたら40ぐらいだったかもしれない。
チョイ悪オヤジなんて言葉が前にあったけど、そういう系統かな、
ちょっと浅黒くて彫が深めで整った顔立ちに口ひげを蓄えていた。

聞いていたとおり、白石さんは誰よりもビリヤードが上手かった。
独特のゆったりとしたフォームから、時に柔らかく、時に力強く球を弾き出す。
的確に的球をポケットしていくのはもちろんのこと、
白石さんは他の人と違って、キュー利かせて手球を大きく強く動かすのを好んだ。
距離のあるところから引き球で手元まで戻したり、何度も手球をクッションさせて美しいラインでポジショニングしたり。
普通はそういう激しい球を使うと、的球を外すもんなんだけど、白石さんは違った。

待ち席を立ち、すっと構えに入り、眉間に皺を寄せて狙いをつけ、数ストローク小さく素振りをし、インパクト、起き上がって手球の動きを眺め、
手球が止まったら、またゆっくりと歩いて構えに入る。
その動き一つ一つに無駄がなく、さまになることこの上なかった。
俺はカウンターの中からそれを見ていて、花台で遊ぶ白石さんにすっかり魅了されていたのだ。
別に憧れというわけではないけど、「俺も40ぐらいになった時に、こんなカッコいいオヤジになっていたいな・・・」とは思った。(それを憧れというのではないのか・・・?(笑))

それから2、3年の間、週に2、3回は顔を合わせ、時には一緒に球を撞いたり。まあ、まったくぜんぜん敵わなかったけど。
一度ぐらいは一緒に飲みに行ったこともあったかなあ・・・麻雀をした記憶もおぼろげながらある。
大学卒業後は、俺も平塚に戻ってしまったから、ほとんど会うこともなくなり、もう20年以上会っていない。
でもきっと、今でもどこかのビリヤード場で、軽口を叩きながら楽しく球撞きしてるんだろうな、と思う。
ちょっと白髪が増えたぐらいで、きっと20年前と変わらずイケオジなんだろうな。

白石さん、入れ代わり立ち代わり、何十人もいたバイトの俺のことなんて、覚えていないだろうけど、
20数年前、貴男みたいなオヤジになりたいなと思っていた俺は、
今は麻雀プロとして、最高位戦A1リーグの舞台で戦っているよ。
何かの機会に見てもらえたら嬉しいし、いつかどこかでまた会えたらいいな・・・

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