もうすぐ無くなる(あるいはすでに消滅した)タイの音楽CDについて

カンボジア旅行ののち、タイのバンコクにも立ち寄った。そこでも音楽CD、カセットテープ、レコードを探す。タイでも私が求める古い時代の音源を収録した音楽CDはすでに生産を終了し、デットストックが残るのみの状態のようだ。本当は前回(半年前)のタイ旅行後に書こうと思っていたが、先延ばしになってしまった。情報は2023年夏現在のものも含まれる。

1、ノーン・タプラチャーン
バンコクで音楽CDを探すならばまず訪れたい店。タイの今現在の流行音楽のほか、洋楽、古いタイ歌謡CDも扱う。場所はタマサート大学近くの船着き場ゾーンで、カオサンロード周辺から徒歩圏内。店自体は狭いがスライド式の棚に多数の在庫がある。スタッフからおすすめのCDも教えてもらえる。店舗の看板には20時、GoogleMapでは19時までの営業とあるが、18時30分すぎに行ったらすでに閉まっていたので早じまいがある。この店に限らずタイの個人商店は早じまいをするので、遅くとも午後イチには行きたいところ。ネット情報に出てくるチットロムの巨大ショッピングモール、セントラルワールド内の支店は閉店済なので注意したい。

船着き場の右側が店舗

2、ZudRangMa Records
タイのほか東南アジア、世界各地のレコードをそろえる有名店。BTSのトンローが最寄り。値段は高め。それでもジャケもボロボロながら、よく現物が残っていたなというレベルの幻の逸品を眺められるのは良い。バンコク滞在中は一度は行くようにしている。レコードのほかTシャツやトートバッグなども売っているカルチャーショップだ。かつてはタイの古い音楽のミックスCDが300バーツほどで売られていたのでよく買っていた。新作も待ちたいところ。

3、 AmornMovie Co., Ltd.
クロンロム市場近くのオフィスを兼ねた音楽ショップ。タイ歌謡曲のほか、中国、洋楽、日本のCDやレコードも取り扱う。かつては、タイCDが80~100バーツくらいの割引価格で並ぶ穴場店だったが、行くたびに在庫は減っている。もう「あるだけ」という感じなので、気になるものは買っておきたい。営業時間は日曜休みで月曜から土曜までAM8.30~5.30まで。こちらもギリギリに行くのは避けたほうが良い。

4、「AmornMovie」近くのレコード店街
 上記のCD店近くに、レコードを扱う店が複数ある。店先にレトロなジャケットが並ぶが、値段は超強気プライスなので、いつも眺めるだけだ。かつてはデッドストックのカセットテープを1つ50バーツでまとめて買った。EPは200バーツ、LPは900バーツと言われ躊躇したが、買っておいても良かったように思う。今の言い値はもっと高いのではないか。それほどここ数年でタイのレコードは高騰している。こちらも16時すぎにはシャッターが閉まってしまう。
 近くには運河の上に存在した怪しい電脳街、サパーンレックの跡地があり、地下鉄サムヨード駅も近くにある。地図上で「音楽専門店」が表示された場所はフェンスに囲われた再開発ゾーンとなっている。かつては、レコード会社が集まっていた場所なのだろう。このあたりはバンコクでももっとも古い100年以上前の建物が残っている。

私はこの店の存在をクーロン黒沢『バンコク電脳地獄マーケット』(徳間文庫)で知ったが、そこに掲載されている写真とディスプレイがまったく一緒なので、少なくとも30年は変わっていないだろう。

5、クロントム市場の屋台、土曜市
 クロントム市場は別名泥棒市と呼ばれ、市場内にはコピーCDやDVD、さらにタイでは違法の電子タバコ屋台もある。おおっぴらに売られているが、これらは「買ってはいけない」ものだ。かつては市場内に大きなCD屋があったが、コロナ開けに3年ぶりに訪れたら閉店していた。同じ店なのか、mp3の入ったUSBメモリを売る小さな店が残っていた。
 この市場は、普段は閑散としているが土曜は深夜まで賑わい、日曜の夕方まで続く。骨董品からフィギュア、古着などを売る屋台が立ち並ぶ。CDやカセットテープを扱う店もある。底値は10バーツからと激安だ。ただ、状態が悪い、ジャケットと中身が違う場合もあるので要確認。10バーツカセットの店でテレサ・テンを見つけて小躍りするも、中身が違っていた。

中身が違う鄧麗君(テレサ・テン)の10バーツカセットテープ。

6、オールドサイアムのメー・マイ・プレーン直営ショップ
 中華街(ヤワラート)の外れにあるショッピングモール、オールドサイアム内にレトロなタイ歌謡曲を復刻するレーベル、メー・マイ・プレーンの直営ショップがある。かつては紙ジャケットのCDを見つけるたびに買っていた。裏面のバーコードに通し番号があり、少なくとも100作以上は出ている。こちらも生産終了でデットストックがあるのみ。
 CD、レコードのほかMP3の入ったUBSメモリ、さらに数千曲が入った音楽マシーンも売られている。メー・マイ・プレーンが復刻しているのは、soi48が紹介しているルークトゥンやモーラムではなく、ルーククルンと呼ばれる富裕層向けのムード歌謡なので、好みが分かれるところ。この店に限らずオールドサイアム自体が夕方には閉まってしまう。今回行ったら、2階にリーズナブルなフードコートが出来ていた。
 なお、オールドサイアム近くには銃砲店が立ち並ぶ一角がある。ディスプレイに並ぶ銃は撮影禁止だが、銃社会であるタイの実態が知れる。

18時に行ったらすでにシャッターであった

7、メー・マイ・プレーン本社
 6の店にない紙ジャケCDがあるかもしれないと、本社を訪ねてみた。タクシーで「BanBongのBigC」まで行き、徒歩で向かう。オフィスに併設した売店があるも、品ぞろえは3と特に変わらない。帰りはメークローン線の駅まで歩き、鉄道で帰ろうとした。運河沿いの遊歩道を歩いて行こうとしたら、住民に声をかけられる。「鉄道駅は遠いのでBigCからバスで戻れ」と言われアドバイスに従う。
 バンコクの道は地図上では近いように見えても、一方通行や行き止まりの道が多く、ものすごい遠回りを強いられるパターンが多い。タクシーに乗った時、遠回りをされていると感じることもあるかもしれないが、それは単に一方通行の道を通っているだけだ。
 soiは路地の意味でsoi48はその名に由来している。この番号も道路の両脇に奇数と偶数が振られており、実にややこしい。街歩きには注意が必要だ。徒歩1~2キロは日本だと造作のない距離のように想えるが、炎天下で歩くととてつもなく体力を消耗する。
 この、メー・マイ・プレーンの紙ジャケCDは新宿のディスクユニオンでも目にした。タイのレコードを扱う日本のある店を訪れた時、日本でタイ音楽が局所的なブームと聞きつけたイギリス人のバイヤーが訪ねてきた話を聞いた。レコードディガーの情報力は凄まじい。

8、インペリアルワールドサムローンのCD、カセットテープ屋
 BTSサムローン駅近くのショピングモール、インペリアルワールドサムローン。Google検索でメー・マイ・プレーンの店舗が出てきたので訪ねるも案の定、閉店(Google Mapの情報は本当に古い)。
 2階の一角にカセットテープ、CDを扱う小さい店舗がいくつかまとまってあった。20バーツのカセットや、100バーツのCDを買う。BTSの料金が高いのでバスで向かったが、バンコク名物の渋滞に捕まり到着は夕方に。やはり店は次々と閉まっていったので、早めの時間の訪問を推奨したい。

9、ウォンエンヤイ駅近くのCDショップ
線路上にモノが立ち並ぶ観光名所、メークロン鉄道市場へのアクセス拠点となるローカル線、メークロン線の始発駅、ウォンウィエンヤイ駅近くのCDショップ。Google Mapで見つけ、CDとDVDのずらりと並ぶ概観に惹かれ向かうが、同じ場所はクイッティオ(ラーメン)屋となっており、一角に埃を被ったCDとDVDが並んでいた。やはりCDやDVDは過去のメディアになったのだと痛切に感じる。

2019年1月の店舗(出典:Google Mapより)
2023年10月の店舗(出典:Google Mapより)

10、フォーチューンタウンのCD、レコードショップ群
 地下鉄ラマ9世に隣接するフォーチューンタウンは、パソコンやスマホなどの店が集まる電脳街ビルだ。3階に楽器、レコード、CDを扱う店が点在している。こちらもレコードの価格は高めだ。オーディオ機器も多く扱っており、オーディオファンが集まる場所といった様相だ。
 日本のCDも並んでいる。タイでは日本の「ニューミュージック」がブームとなっている。その解釈の幅が広く、ケツメイシやラブサイケデリコのCDも「ニューミュージック」として並んでいた。豊かさを感じさせる、70年代末~00年代の日本のポップミュージックが「ニューミュージック」となるのだろう。これらのCDの底値は100バーツ(約400)円なので、タイのニューミュージック愛好家からすれば、日本の100円棚に並ぶ25バーツのCDの束は、宝の山なのではないか。

11、パタヴィーコーンマーケット
バンコクの郊外に激安市場があると知り、2023年夏に訪れた。バスを乗り継いで行ったのだが、とてつもなく遠かった。主に衣服の激安市場だが、CDやカセットテープ、古本を扱う店もあった。品揃えも価格帯も普通としか言いようがない。行くなら1日がかりになるので、旅程が短い人にはおすすめしない。市場は賑わっているが周辺はだだっ広い寂しい郊外の風景(かといって自然があるわけでもない)であり、バンコクの本当の姿もうかがえる。


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