カンボジアフィジカル音源の現状
年末年始にカンボジアを訪れた。ベトナムのホーチミンに入り陸路で移動し、バッタンバンを経由してタイ国境へと至った。今回の渡航目的の一つはカンボジア(クメール)音楽のCDやカセットテープだったが、これらのメディアはほぼ壊滅状態と言える。
今やどんな小さな街にもスマホショップがあり、人々はスマホで音楽を聴いている。ラジオではクメール歌謡がガンガンにかかっていたので、そうした音楽自体の需要は消滅していない。プノンペンの書店には関連書も売られていた。
家電量販店を細かくめぐったわけではないが、CDラジカセやDVDプレイヤーの類も目にしなかった。音楽や映画鑑賞はスマホでできるし、スマホを買った方が安いのだろう。パスポート提示で購入した現地SIMのmetfoneは、SIM代1ドル、1ヶ月25Gのインターネットデータプランが4ドルだった。
カンボジアはほとんどの商品が輸入品であり、場合によっては日本より高い。おそらく断線により使用不能になったMacBookの充電器をプノンペンのパソコンショップで購入したが、中国製のサードパーティー製品が50ドル(1ドル145円計算だと7250円)だった。同類のものが日本のAmazonだと2398円(16.5ドル)で出ている。最初に入った店では「45ドル。今店にはないが20分で配達可能だ」言われ、それが高いのか安いのか判断がつきかねたが、相場はそれぐらいなのだろう。
バッタンバンでは軽い熱中症状態となり、対処療法として飲んだ大塚製薬のポカリスエット(タイ製)は500ミリリットルのペットボトルが冷えたもので1.1ドル(約160円)、そのままの6本パックが5.5ドル(約800円)だった。これは日本より高いだろう。この価格設定からわかる通り「5get 1free(5つ買ったら1つオマケ)」ぐらいが東南アジアの相場だろう。ポカリを2リットル飲み一晩寝て、翌朝1リットル飲んだら体調は戻った。
カンボジアは輸入品の割合は体感ではベトナム30%、タイ30%、中国15%、韓国15%、日本その他が10%ぐらいだった。地域差もありベトナムと国境を接するカンボジア東部は、ほぼベトナムである。ベトナムで大量に売られていた宝くじまで流通していたし、プノンペンにもわずからながら売り子がいた。対して西部のタイ国境に近いバッタンバンはタイ製品にあふれる。それぞれの国境近辺では当然のようにベトナムドンとタイバーツが流通している。タイ国境の街、ポイペトのよろずやの兄ちゃんはクメール語、タイ語、英語の3カ国語を操るトリリンガルだった。
カンボジア渡航は2015年以来、8年ぶりとなる。かつては無名の街で、カラオケ用のVCDを4枚1ドルで買った時には「なんでこんなものを買うんだ」といった反応をされた。VCDはCDに映像を収録したもので、DVDに比べ画質は落ちるが(WikipediaによればVHSの3倍モード程度のようだ)、DVDにあるリージョンコードがないのでどの機器でも再生可能だ。VCDの姿もすっかり見なくなった。
カンボジアに限らずかつてはアジアのどの街にもあったCD、DVD、VCD店は消滅状態にある。ほぼネットに移行していると言って良いだろう。それでもフィジカルなモノを求める奇特な人に向け情報を記しておきたい。
【プノンペン】
1、TDiscCenter
Google Mapで見つけた。キャピトルゲストハウスほか、格安ゲストハウスが点在するオルセー・マーケット周辺から徒歩圏内。古典的なカンボジア歌謡のほか、EDMバッキバキであろう流行音楽、洋楽CDのほか洋画のDVDもあった。CDは1枚2.5ドル、カセットテープは1.5ドル。会計が29.5ドルだったので「30ドルでどう?」と言われCD2枚をオマケにくれた。ほとんどのCD、カセットのジャケットにはカンボジアのエルビス・プレスリーと言われるシン・シサモットと、歌姫のロ・セレイソティアの顔がプリントされている(ともにクメール・ルージュ=ポル・ポト派の犠牲となり亡くなったとされている)。カセットテープは日本製の市販品であり、店の棚に空のCD-Rスロットルが山積みだったのは何も見なかったことにしておこう。
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2、Apsara Laser Sound & Picture
こちらもGoogle Mapで見つけた。オルセー・マーケット周辺から徒歩圏内。日曜日のためか閉まっていたが、店内を見るにCDやDVDは並んでおり、営業はしている雰囲気だった。
3、ボパナ視聴覚リソースセンター
映画、映像資料の保存施設であり、入場無料でパソコンでデジタルアーカイブを閲覧できる。こちらもオルセー・マーケットのすぐそば。撮影や録音は不可であった。音楽のデータにはフランス製のカンボジアの伝統音楽レコードや、アメリカのレーベルLION PRODUCTIONSがまとめたカンボジア音楽のコンピレーション『Groove Club』などが収録されていたが網羅性は低い。オリジナルのレコードと見られる音源は何かの宗教音楽みたいな7インチのみであり、あとは近年の再発作からのものだった。
映像ではシアヌーク国王の訪中映像や、カンボジアを取り上げたソ連やフランスの古いニュースフィルムもあった。特にフランスの素材は仏領インドシナ時代のものもあり充実している。1980年代にフランスのニュース番組で特集されたカンボジアの実態みたいな映像もある。やはり映像は貴重な記録だ。
2階の事務所脇にはCD、DVD、書籍売り場があり、カンボジアのロックコンピレーションが5ドルで売られていたのでこれはマストだろう。
伝統音楽を現代のミュージシャンが再現したアイテムはそれぞれ10ドル(こちらの音源は施設のオフィシャルアカウントがYouTubeにアップしている)。
4、International Book Center
プノンペン中心部の大型書店、International Book Centerの2階に音楽関連書を並べた棚があり、カンボジアのオールディズ音楽の関連書が売られていた。表記はすべてクメール語だが、歌い手の顔写真と名前のリストがある。いくつかのシリーズが出ているようだった。2.4ドルのものを買った。
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![](https://assets.st-note.com/img/1705676240079-NNhjaqUx4a.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1705678170403-ajzv2k4j9G.png)
【バッタンバン】
1、CDショップ(以下マップに★表示)
こちらのツイートで紹介されているほか、かつて都築響一さんも取り上げており、今回期待の店だったがこちらもほぼ廃業状態。カセットテープは1つ11ドル(45000リエル)と言われ手が出なかった。カンボジアの物価は、コーラが2000リエル(50セント)、現地屋台飯が4000~6000リエル(1~1.5ドル)だ。CDは非売品で、空のCD-Rを見せられたのでコピーなら売るといった話なのだろう。
当初、この店を探すのに苦労し、あちこちで尋ねていったが、英語がわかるおじさんが「音楽は今はUSBになっている」と言っていた。USBはMP3の音源が数百曲入ったものだが、このアイテムも目につくところにはなかった。タイでは家電量販店でついでに売られていることが多かったので、カンボジアでも同様かもしれない。
別ツイートで紹介されているおばちゃんが切り盛りする市場のCD屋も閉店(市場の人に訊いた)。市場内の食堂ゾーンの先、貴金属売り場の中に埃を被ったCDとDVDの店があったが、営業している気配はなかった。
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![](https://assets.st-note.com/img/1705676429379-fDWmMguo2R.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1705676325228-QqR5Zj1afy.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1705678101950-8F0pdsxfPv.png)
【番外編】
スリンのCDショップ
2018年にタイのスリンを訪れた時に訪ねたCDショップではクメール歌謡も扱っていた。タイのスリン県は住民の約半数がクメール語(カンボジア語)を理解するのでローカルな音楽ジャンルが存在するのだろう。今はこの店も無くなっていそうだ。
【カンボジアのレコードは存在するのか?】
カンボジアでアナログレコードの類はまったく見なかった。岸野雄一さんがツイッターで紹介しているが、カンボジア音楽のレコードが日本でプレスされている話もあったようだ。あるいはsoi48のお二人がインドネシアのレコードがオランダで買えるエピソードをあるイベントで紹介していたが、これはインドネシアがオランダの植民地だったためで、レコードの流通にもポストコロニアルが関係している。カンボジアのレコードはフランスやアメリカにはあるかもしれない。
身も蓋もない話になってしまうがこれらの音源のたぐいはほとんどがYouTubeで聴ける。英語で検索可能なものもあるし、一つ聴けば関連動画のサジェストが上がってくる。
今回探していた音源として、シン・シーサモット(Sinn Sisamouth)の名曲「バッタンバンの花(Champa Battambang)」がああった。2018年に東京国際映画祭で眺めたクメール・ルージュ支配下の生活を描いた『音楽とともに生きて』のエンディングに用いられおり、強く印象に残っていた。プノンペンのCD屋のおばちゃんに探してもらったが無かった。「カヴァーならあるわよ」と言われたので有名曲なのだろう。リンク先の動画はプチプチ音がするので元音源はアナログレコードのはずで、いつか幻の逸品に出会いたいところだ。
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