【アニメ感想】王様ランキング ヒリング王妃について語る

 ヒリング王妃ほど、最初の印象と最新話の印象がまるで違うキャラも珍しい。そして彼女ほど主人公の「母」なキャラもまた珍しい。

 今回は王様ランキングというアニメに登場する【ヒリング王妃】について現時点最新話(14話)までのことを語る記事になります。

 記事の性質上、作品そのもののネタバレも含みますので、未視聴の方は是非とも見て下さい。因みに私こと音霧カナタは原作を一切読んでいません。

作品の簡単なあらすじ

 各国の王様は、様々な要素を総合的に判定されてランク付けされる世界。ランキング上位で余命幾ばくもない父を持つ主人公のボッジは、生まれながらに体が小さく、非力で、耳の聞こえないハンデを背負っています。継母であるヒリング王妃の実子ダイダは、向上心・野心・王としての気構えを子供ながら持っているため、国民や大臣の大半は、ダイダこそ次の王子にふさわしいと考えていました。

 不遇の中でも正しく優しい心を持って生活をしていたボッジ。ある日、暗殺を生業とした一族の末裔である盗人のカゲと出会い、小さく優しい彼の人生の歯車が動き出す。

作品に対する私の印象

 王様ランキングをあらすじすら見ずにどういう話かを想像した際、

・魔界の王様を決める物語
・数十人の王様候補の王子王女との権謀術数
・ランキング最下位だったがチート能力を得て……

 なんて雰囲気の作品だと思っていました。気の抜けたタイトルに絵本のような絵柄ですから、どういう物語になるかまるで分らず、それ以外のアニメを見ている内に周囲の評価が鰻登りになっていた。結果として「1話だけでもアマプラで見よう」として、その日の内に当時最新話の13話分、全てを見ていた。

 何度も泣いた。彼の優しさに、それを理解する者に、或いは他人の不器用な生き方に、ボッジの成長に。泣こうと身構えていないのに不意打ちが来るので毎度涙腺が緩む。特に2話は駄目。あれは反則だ。

本題のヒリング王妃の評価(1話目)

 よくある意地悪な継母みたいですぐに癇癪を起こすなどもあり、最初の印象は良くありません。が、これは彼女の一面性だけしか見ていないからこそ言える感想であり、その後の物語を追うことで彼女の見方こそが【この作品の肝】だと気付かされます。

他人への評価を安易に下すことの危うさ

 これは一部を除きどんな人にも当てはまると思うのですが、人は他人のことをよく見ているようで、実際はあまり見ていません。最初の印象が尾を引けば、その後どんな行動をしても最初の姿に引っ張られます。或いはどんな聖人君子の印象であっても、一度ケチが付けばスグに評価を下げます。

 私自身、この作品の2話までで「良い奴」「悪い奴」みたいな色々なキャラを二極で決めつけにかかっていました。ですが、

 この作品は1話毎に1人ずつ、キャラの深堀をして「良い面も悪い面もある人間」であることを突き付けられます。2話目ではカゲの、3話目ではヒリング王妃の深堀もあるため、それが顕著です。

大きく印象の変わった3話目

 中盤までは亡くなった王の遺言を無視し、後継者に実子のダイダを推薦して王位を奪うなどの悪い部分を見ました。その後、囚われた後に何故かいなくなったカゲを探すための旅がしたいと考えたボッジは、ヒリング王妃に旅の許可を得ようとしますが「貴方には無理だ」と告げられてしまう。

 ……ここで気付いたのですよ。「ヒリング王妃は手話を使える」って。普通、好きでもない、王位簒奪をするための駒程度にしか思わないような子供のために手話を会得するかどうか。だって、手話の出来る使用人や家臣がいるなら自分はやらなくて良いじゃない。1話の時点で一切手話はしていませんでしたが、ボッジの手話は正確に読み取っていたのを失念していました。「ボッジに都合の悪いことは手話に訳さない」のは悪口を言いたい放題したいためと私は勝手に思っていた、その前提が崩れる瞬間でした。

 その直後、旅をするために多くの服をロープのように結んで自室から脱出しようとするボッジ。ですがその長さは到底地上に到達し得ない短さ。落下すれば高確率で命を落とす場面にヒリング王妃が訪れます。

 すぐさま自分の警護担当にロープを引っ張ってもらいますが、どうしても行きたいボッジが暴れて、服同士の結び目がほつれてしまいます。落下するボッジにヒリング王妃がとった行動は、自分の身を顧みずに窓から追うように飛び降りるという無謀な救助でした。

「なんだこの人、ボッジの事大好きじゃん」と確信した瞬間です。本当に実子を王位に据えて自分の地位を築きたいだけの人なら、「正当な王位継承権を持つ王子」が落下して死んでくれるなら渡りに船と考えるから。自分の命を危機に晒す、こんな行動は絶対にとらない。

 結局ボッジは助かったものの、外壁に頭を打って気絶。警護担当の男に助けられて無事だった王妃は急いで階下に降りると

パワー回復

 ドレスの肩部分が裂けるほど腕に力を込めて全力で回復魔法を使います。ヒールって普通もっと軽くやってくれるものだと思っていましたが、本作における回復は「持っている魔法力を絞り出して相手を回復させる」様子で、力技。見ていて迫力がある、こんなヒール魔法初めて!

 2話終盤で全身包帯を巻く大怪我をこさえていたボッジに回復を施したのもヒリング王妃だったことが、ここで明らかになります。その際は酒瓶サイズのポーションを数本がぶ飲みしていた様子も見れて、まさに「子の危機に母が必死になって助ける」図。継母だから実子以外の子に愛情がない……なんていうことはなかった。

ビンタでわかる関係性

 私が特に好きなのはこのあとのシーン。回復して立ち上がったボッジを、ヒリング王妃が肩で息をしつつ頬を張る……前に気絶してしまう場面。

 全力で助けるけど、「なんて危ないことをしているの」としっかり𠮟りつけるような、でも力の抜けてしまった一撃。母として助ける。母として駄目なことは叱りつける。アニメでよくある「甘いだけの母親」像ではない、本気の母親。

 そしてボッジはこの一撃を避けずに受けた。ダイダとの剣術勝負で前半1度も攻撃を受けず、目も閉じなかった回避特化型のボッジが、見るからにひ弱なビンタを目を閉じて受けた。

「これは受けねばならない」と分かっている。
相手が何故怒っているのかを理解している。
それが愛情ゆえの一撃とも理解していた。

 ヒリング王妃とボッジの関係性を悟るなら、このシーンだけでも十分だ。3話を見た後1話を見返すと、本当に印象が変わる。台詞の色も変わる。人の持つ多面を知ることで、ようやくその本質が見えてくる。ヒリング王妃を見ているとそれを思い知らされるし、今後も様々なキャラクターがより一層息づいて見えてくる。なお、3話にはこの後も悶絶必至の親子愛エピソードが満載なのでこれは是非見て欲しい。

時に気の触れたような振る舞いであっても

 その後はボッジの旅に焦点が当たるようになり、ヒリング王妃の出番はだいぶ減ります。彼女のボッジへの愛は本物で、実子のダイダにも当然同じくらい愛情を注いでいます。

 そのダイダがわけあって大変な時に、「自分にだけ聞こえるダイダの声」を一切疑わずに周囲に同意を求めるシーンがあるのですが、傍から見れば気でも触れたのかと思うほどの奇行。これはボッジ落下の際に諸共飛び降りる無鉄砲で不器用な愛情からなる行動だとわかります。息子が大変な時なら自分の身を一切顧みない危うさ。そこに惹かれた警護担当のドルーシ(シールド)の気持ちは良くわかります。

逃走心よりも先に出るもの(14話)

 更に話が進むと、凶悪な敵が城を占拠する一幕があり、ヒリング王妃も護衛をつけて戦場に出向きます。敵の猛攻をドルーシが受け止め続けた結果、彼は左足を千切られ、左目を失い、裂傷だらけの体から致死寸前まで血が流れるほどの大怪我を負います。

 護衛が倒れたら自ら回復を施し、決して逃げない。護衛が全員戦闘不能に陥り、敵は強力で、自分を守る者が誰もいないのに。逃げろと言われても、見捨てることが出来ずに治療のために進んでしまう。生き残ることを優先するべき王族としては失格かもしれませんが、一人の人間としてあまりにも魅力的な人物です。

息子の思いを汲み取る

 ヒリング王妃の回復能力は裂傷を塞ぎ、打撲などの腫れを癒す効果はありますが、それは元々対象にあった回復能力を異常促進させているのか、それとも魔力だけで回復するのかの原理はわかりません。

 しかし、失った物は戻らない。ドルーシの左目、左足首から先は、裂傷を塞ぐことは出来ても復活はしなかった。

 その怪我を負わせた獣の群れはすべて瀕死。獣たちがただ操られていただけという事情をボッジやヒリング王妃は知らない。それでもボッジは獣の群れをやりきれない顔で見つめた、その様子を見たヒリング王妃は、何も聞かずに、ドルーシに許可を取ることもなく獣たちに回復を施した。

 普通なら、先ほどまで命を脅かしてきた相手に回復など施さない。恐らく彼女やドルーシだけならやらなかっただろう。しかしボッジの思いをヒリング王妃は察し、尊重した。息子がそう思うなら大丈夫だろうという絶対の信頼があった。生きるか死ぬかの戦場においても、変わらず母としての一面を見せてくれたのが私にとって物凄く嬉しかった。

 しかし「家来になりたい」と志願する者にたじろぐボッジに「王子として堂々と振舞いなさい」と指南することも忘れない。ここには王妃としての責任を感じた。

まとめ

 イヤな奴から唯一無二の素晴らしいキャラクターになったヒリング王妃。彼女なしにはボッジという存在はもっと捻くれたり殻に籠っていたりしたのではないでしょうか。芯の通った「母親」がいて、本当に良かったと思った次第です。王様ランキングはまだ14話、今からでも遅くないので未視聴の方は是非見て欲しいです。ヒリング王妃、それ以外のキャラクターの魅力にも触れて見て下さい! それではこれにて記事を閉じます。読了ありがとうございました。

サポート1人を1億回繰り返せば音霧カナタは仕事を辞めて日本温泉巡りの旅に行こうかなとか考えてるそうです。そういう奴なので1億人に到達するまではサポート1人増える度に死に物狂いで頑張ります。