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夜のクラゲは泳げない 考察「花音ちゃんの最終目標と、クラゲについて」

ついに目標のフォロワー10万人を達成した「JELEE」。
有名になったことはともかく、今まで通りファンの期待に応えたいという花音にまひるは違和感を覚えていた。
そんな中、まひるにサンフラワードールズのイベント用イラストの仕事が舞い込んでくる。
キウイの後押しもあり、絵が上手くなるきっかけになればと雪音から話を聞くことを決めたまひるだが、
花音はそれに複雑な気持ちを抱いており……

公式サイト「第9話 現実見ろ」より引用

 さて、公式からお出しされた9話の次回予告。

 長らく謎だった「この物語の着地点」がようやく見えてきました。

 ヨルクラと対極にあるだろうガルクラ(ガールズバンドクライ)は、無茶苦茶な要素もありつつその目標は非常にシンプルで「将来や進路、退路でさえ全てを擲ちバンドで大成して武道館ライブを決める」こと(個人の見解です)

 ヨルクラはそこまで創作活動に人生丸ごと賭けるロックな生き方ではなく進路も決めるし目標もちょいちょい変更される。何をして終わるのか? どうすればいいのかが、何だか曖昧で不透明、まるでクラゲのような透明感だった。しかし、何となくわかりました。そして理解したのです。

略称・やる事は何となく似ているけど、この2つの作品は目指す方向性も目標も何もかもが違う。

それについて語っていこうという記事ですので、夜のクラゲは泳げないの1~8話のネタバレを含みます。次回予告も含めますので悪しからず。

※また、ガルクラとの比較はこの後一切ありません。



夜明け(夢だけの世界の終わり)

 第7話「夜明け」。花音ちゃんが免許取ったり、皆がそれぞれの進路を決めたりする大事なお話。

全てが煌めいている1~7話までと、
 8話の周囲からかかる悪意などの雰囲気や9話の不穏な次回予告。

 夜のクラゲは泳げないは、8話から第二幕に入ったのだと感じました。

それまでメインに男性が登場しない、登場キャラに悪意だけのキャラがいないという中、異質な存在感を放つ男性の暴露系配信者が現れる。更には次回も出張ってくる上に、サンドーと関わっていくことで「立ちはだかる現実がようやく迫ってきた」と緊迫感を与えます。

 有名になる前の状態なら、視線を向けられることもなかった輩に目を付けられるようになる。そして白日の下に晒されるのだ。

山ノ内花音の中で死んだと思っていた、橘ののかが



現実に歩みだした3人

 ピアノを極めるために進学を決めるめい。教師になることを志したキウイ。自分の絵をもっと好きになるために進学を決めるまひる。

 より上の存在を目指し、まひるやめいは、JELEEの活動に更なる飛躍をもたらすだろう。キウイは「最後にはカッコよく決める」リクエストに見事応えるだろう。

 だが花音だけ、まだフォロワー10万人以降の具体的な進路が決まっていない。7話では「免許を取った理由(何かをがむしゃらに頑張る理由)」にまひるの名を出したが、それは心の支えであり進路の事ではない。

JELEEを今後どうしていきたいのかのビジョンが、9話の予告文を見る限りない。「水族館を建てる」というビッグマウスも叩かない。そりゃあ3人ともあんな顔をする。4人揃って集まれる機会は、個々人が忙しくなるにつれて今後ますます減っていくのだから今まで通りにはいかない。

 そして花音はまた悪い癖が出た。何かに没頭する理由を「ファンの期待に応えたい」と定めたのだ。彼女は追いつめられると、目先の目標に逃げがちだ。

「引きこもり時代から【歌う理由】を、ささやかな復讐に見出す」
「皆が進路を決めて焦ると、意味もなくバイク免許を取ろうとした」
「フォロワー10万人に定めた意味をすぐに出せない」

 今回は「暴露とかもされてやり辛くなって意気消沈しているけど【ファンのために】頑張ろうとする」。自分がこうしたいからこうするという信念が根っこの部分にない、自分を入れていない。



クラゲの意味

クラゲは自分で泳げず、自分の意志で行き先が決められず、漂うばかり。光を与えられると自身も輝き始める。

 最初こそ、まひるはクラゲで、花音が光と思っていた。話が進むにつれ、花音も光を与えられたクラゲだったと分かる。

 この作品における【クラゲ】とは、何らかの出来事に己の大切な物や本心を心の奥底に沈めた存在だと私は解釈しています。

まひる:大好きな絵を心無い言葉に同調したことで自分に呪いをかけてしまい、クラゲのように漂う量産型になる。

めい:橘ののかと出会うまでは「ピアノは自分がやりたいからやっているわけではない」とただ両親の言われるがままやっていた。

キウイ:他人の評価する自分であるために嘘をついて「自分が成りたい強い存在」との乖離に苦しむ。

花音:目指していたアイドルを暴力沙汰(真相不明)により台無しにしてしまった。

 まひるが昔書いた壁画から光を貰った花音が、やがてめいに光を与え、しばらく後に再度まひるに光を灯し、キウイに光を灯した。

 だが花音は今、光を急速に失いかけている状況だ。



本当の私を表現するための存在

 1話で花音ちゃんが旧型JELEEちゃんを「本当の私を表現するためのもう1人の私」と紹介した。

実はこの作品、主要キャラ全員がそういう別の存在を持っている。

まひる:量産型として周囲に溶け込む自分,海月ヨル
 自分が言いたくない事や思ってもないことを並べて「逸脱して変と思われる」ことを避ける。どこにでもいるJKとして振舞う量産型。そして心の奥に封じている創作活動の名義。

めい:木村ちゃん,橘ののかの生き写しと言えるほど似た容姿(目の色を除く)
 既に作品内時間では元々の姿でもメンタルぶっちぎりで強いが、「好きだから」この姿でいる狂信者にして厄介ちゃん。この世にまだ橘ののかはいるのだと自己暗示するためにこの姿でい続けている可能性あり。

キウイちゃん:Vtuber竜ケ崎ノクス
 アメコミヒーローが大好きで、それに準じた姿になったキウイちゃん。ネトゲ同様にこの姿でいる時間が長いほど現実世界との齟齬が生まれる。誰もが憧れ頼るヒーロー願望が強い。

花音ちゃん:JELEEちゃん
 他の3人と違い、その正体がバレるのは非常に不味い。暴力沙汰で炎上して世間からの風当たりも強く、しっかりとした基盤も構築できていない。声以外の姿は用意してもらったもの。

馬場静江:みー子(17)
 最近孵化した銀河系最強アイドルの卵。14年間みー子として、年齢・私生活の一切を偽っていた。アイドルとして進むための姿である。 



それに囚われない訣別の5,6,7話

5話で 「絵だけが~」というささくれの様なコメントに悩まされ、恥をかきたくないという想いより「自分の絵を好きになりたい」と藻掻くことを選び取ったまひる。創作人としての自分の名前を始まりの壁画に書き残し、見て見ぬふりや逃げる事をやめて自分の好きに向き合う決意を固めた。

6話でみー子は娘のために、それまで「母の自分」「アイドルとしての自分」という二面性を、正体をばらすことで合体させた。母でありアイドルでもある自分の本名で活動することを決め、背水の陣から一直線に突破する。

7話でキウイは水面下で自分の夢がVtuberではなく教師になることであることを明かす。デジタルでのヒーローではなく本物のヒーローになる道を選び、苦手な学校にも少しだが行く勇気を示した。めいは自分の意志でピアノと向き合っていることをまひるに伝えているので、2話時点で自分の進路はあらかた決まっている様子だった。



取り残された野生のクラゲ

8話でもそういう「クラゲから元の自分へ」戻るような展開に花音もなるのだろうと思っていたのだが……どうやら彼女だけはまだ取り残されている。

 綴りこそ違うが『JELEE(クラゲ)であり続ける事を望んでいる』のだ。それは「本当の私」に向き合わない意思表明でもある。現状維持。ささやかな復讐の意義も見いだせず、フォロワー10万人もいざ達成してやりたいことが浮かばず、何をすればいいのか……未だ一本道を渡れない。

否。渡らない。花音が成るべきはJELEEではないと知っていても。

 金髪に染めた(元々この髪色かどうか不明。母親の色を見る限り染めていると予想)髪色は、橘ののかであった己の否定。その偽った自分が生み出した『本当の私を表現する存在=JELEE』は、果たして本当なのか? 

 初詣で神様相手に迷いなく「願い事はない」と言ってのけた彼女の本当の願い。それは有名になるとか、JELEEとしての活動、橘ののかに戻るなどのもっと奥、母親との和解なのではないだろうか?

 母親っ子の花音は、今でも母を恨んでいるとかではなく「もう必要とされていない」と半ば諦めてしまっている。



橘ののかとして失敗=母に合わせる顔がない

 橘ののかだった自分から目を背けて荒れた生活をし、その果てに匿名でJELEEを名乗り売れない活動を続け、1話でまひるに、2話でめいに、3話でキウイに出会って、4話でサンドー相手に対抗意識か何かを剥き出しにバズる。他ならぬ「見返したい相手=母」に届くために活動をしていたのではあるまいか。

 橘ののかは台無しになっても、そうでない道で成功し、それでようやく過去の清算が出来る。という算段をつけていたのかもしれない。

 しかし、匿名の皮を剥がされ、元・橘ののかとして衆目の視線を浴びる事になった。退路が塞がれてしまった。9話のサブタイ「現実を見ろ」は、己の中に眠っている橘ののかともう一度向き合うお話か?



この物語の最終目標

 以上のことを踏まえて、本作のOP『イロドリ』。

 歌詞もそうだが、過去の己と向き合っている3人と、過去に捨ててしまった自分(橘ののか)を抱きしめる花音。

 未だ登場しない「色褪せた壁画を眺める男性」の存在は、1話の台詞にのみ登場した花音の父親だろうけど、恐らく「現実」の中に彼の存在も欠かせないのだろう。

私は、OP開幕に歌いだす橘ののかは、今後自分を受け入れて

「JELEE」「橘ののか」「山ノ内花音」のいずれかに統合された現在の花音自身ではないかと踏んでいる。最終回辺りで多分やってくれるのではと予想しています。

 この物語は結構「創作に熱意を燃やす少女たちの群像劇」「悶絶級の百合要素」などに隠されがちだが、

「何者に何を言われても、本当の私を信じて受け入れて前に進む」ための物語だと思っています。

 1話時点で迷子だった花音が、

 夜のクラゲは泳げない。だから泳ぎだすために皆、人か魚に成っていく。

泳ぐ意思と手段を持っているのに上手く合致できない花音が、クラゲから人へ戻るために奮闘し、本当の自分と向き合うことが最終目標。それが本作、夜のクラゲは泳げないだと私は予想します。

 以上、花音ちゃんの最終目標とクラゲについての考察を終わります。

 ご熟読いただき、感謝いたします。良かったと思った方は「いいね」を押してくださると幸いです。

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