半沢直樹 ドラマ版ロスジェネの逆襲 スパイラル周辺人物の感想

原作の『ロスジェネの逆襲』に、未登場の大和田や黒崎に天才児をソイヤっと混ぜて編み出された、しかし物語の本筋は変わらないとされるドラマ版ロスジェネの逆襲。これを見る前に当然1期は放送時に見ているし『半沢直樹のパスワード』なるスピンオフ作品も視聴済み。

1~4話まで見た結論……滅茶苦茶面白かった。いやもう、絶対に専門家から見たらツッコミどころ満載の描写は色々ある。けどそんなの正直どうでもいい。だってこれはフィクションだし、常務を衆目に土下座晒しさせるとかどう考えてもあり得ないことしているし。

毎週毎週逆転ないしは事実が明るみになるという、アハ体験とカタルシスに良い所で引く濃密な展開力が脳に喜びの満漢全席を振舞ってくれる。

今回は(次回があるかは未確定)、物語の争点であるIT企業『スパイラル』関連の人物感想などを書いていきます。当然4話分、そしてスピンオフも見た前提のお話なので、まだ見ていない人は「近づくなああああああああ!!!!」

スピンオフ作品は見ておいて損はない

半沢直樹のパスワードは、いわゆるスピンオフ作品であり、ロスジェネの逆襲以前の時系列で原作には登場しないキャラで固められている。半沢直樹も出るには出るが、物語を解決に導く直接的な手出しはしない上に、登場も全てが終わった後のちょい役だ。スピンオフ作品である以上、主役は半沢直樹ではないのです。

これを見ると原作と何か関りがあるのか……と言われると、必修ではないというのが正直な感想。ぶっちゃけ3話に登場する、対黒崎戦にて役立つキーマンの『高坂』が出た瞬間に

視聴済「待ってたぞ高坂あああああああああああああああああ!!!!!!」
未視聴「え、何この取ってつけたような便利キャラ……萎え」

となる……いや、やっぱり見てくれ!!! 高坂は単なる便利キャラじゃないし、ハートは熱い男なんだって!!! 人気キャラの黒崎が出るために用意されたとしか見られないのは不本意だ!!!

というのも、半沢直樹というリアル寄りの作品に似つかわしくない「天才」設定を持つのが高坂。スピンオフ作品主人公なので能力も主役級の働きをします。しかしロスジェネの逆襲本編の出番は1度きり。しかも彼が必死こいて頑張った行為は時間稼ぎにしかならないというのが残念ポイント。まあその時間稼ぎが生死を分けるのだからいいのだけれども。

「何で出番これだけなんだよ!!」って、こんなチートキャラが出張ってたら物語が一足飛びの解決しちゃうからですよ!! 半沢直樹って原作を損ねない範囲での活躍しか出来ないから当然です。

彼がいかに今の会社に馴染んでいったのか、彼の背景には何があったのかとか。そういうバックボーンを知ると、高坂VS黒崎戦が激熱展開なんです。半沢直樹ですら躱す以外の選択肢がない黒崎を相手に電脳世界の暗殺者としてファイルスナイプする瞬間は、「そんな無茶苦茶あるわけない」という疑問が吹き飛ぶほど興奮必至。

つまるところ、本編3話前半の補完がスピンオフ作品であり、知らなくても問題はないけど知っていたら面白いってことです。瀬名社長は殆ど出ませんのでご安心を。

多分今後スピンオフ作品出る時の主役級

高坂圭は、前述の通りスピンオフ作品の主役です。若いながらも天才的なプログラミング技術、ハッキング技術、サイト開設能力などを持つ。当初は落ち着き払った現代の若者っぽさ全開であるが、ヒロインの浜村瞳と共にプロジェクトを進める内に、300億円を狙われる一連の事件を解決しつつ性格も仕事への意識も変革していく。彼が事件の黒幕に放つ啖呵は、初期状態では決して出てこない台詞なので感慨も一塩である。

高坂という人間を主軸にしているため、この作品は半沢節があっても趣がまるで違う作品になっています。半沢直樹本編でお馴染み、魑魅魍魎蠢く銀行内の派閥闘争とかはなく、あくまでも半沢直樹の顧客情報抜き取り→300億円分の株売却の資金横領、泥棒をとっつかまえる捕物劇です。そこに、半沢直樹では入れることが出来ない恋愛要素をブレンドしたのがスピンオフ。

スパイラル社の先輩やサポートメンバーは、本編に1㎜も関与しません。そしてスパイラル社長の瀬名もスピンオフには殆ど出ません。本当にこの作品1本で完結するものとなっています。

しかしですよ……高坂という大変魅力的人物を、たった一回こっきりの出番で終わらせるには余りにも惜しいです。彼を主役にしたスピンオフ連続ドラマシリーズ作りましょうよ……半沢直樹では出来ないことがそれならできるんですよ。重厚な金融ドラマも良いけど、もう少しライト層向けの半沢直樹シリーズがあっても良いと思うんです。

一番人間臭い瀬名社長

半沢直樹本編のキーマン。半沢の部下、森山と旧知の仲であり、個人的に前シーズンから今までの中でも一番人間臭い人物。ぶっちゃけかなり好きな人物である(1位は当然半沢だが)。

情と言う言葉が彼の中には詰まっている。

仲間に対する友情:仲違いをして仕事を辞められ、敵に自社株の30%を売り渡した2人の友人を「それでも帰って来た時のために」と机や椅子をそのままにする。物語最後には再び戻ってくる2人(未登場)をお咎めなく元の場所に戻すという切っても切れない情がある。人や物に八つ当たりする場面でも瀬名社長は、机と椅子には何もしなかった。

精神の師への恩情:後述するフォックス社長の郷田に対しては、物凄くなつきますし、普段見せないようなはしゃぎようです。でも実は裏切られていることを知ったときは物凄く荒れましたが、相手にも相手なりに会社(社員)を思っての行動だったと知り、赦し、力を合わせます。大和田常務(役職は違うけど常務のイメージ)の言葉を借りるなら、「施されたら施し返す。恩返しです!!」

心の赴くままの激情:とにかくキレ散らかす場面が目立つ瀬名社長。今作はとにかくスパイラルという自分の想いの結晶である会社存続の危機だから心に余裕があるときとない時の落差が凄い。物にはあたるし人にもあたる、かつての友人森山にも最初はあたりが強く、部下の高坂に強い口調で黙ってろと言われたら「なんだとテメェ!!」と即キレる。彼自身の持つエネルギーが高すぎる。

過去を忘れぬ旧情:森山との思い出。スパイラル発足の思い出。仲間と3人で喜び合った思い出。瀬名社長は常に未来を見て過去を振り返らない人物に見えなくもないが、今後借金に追われようとも絶対に回収されない不滅の想い(過去)こそが彼を強くしている。スパイラルの命運が懸かった半沢直樹最後の大勝負において、瀬名社長はかつて自分が会社を立ち上げたアパートの一室にいました。彼と言う人物を雄弁に表現しています。

1話冒頭の瀬名社長と、4話終盤の瀬名社長では見方が全く違ってきます。スピンオフがあれば活躍を見てみたい半分「もう完結したようなもの」という気持ちもあります。個人的に最後、森山に自社に来ることを勧める描写がありましたが、成功確率は殆どないことを承知の上で聞いたように見えます。

やったことは酷いけど理由は酷くない

3話で瀬名社長と手を取り合うことになる、フォックスの郷田社長。2話でホワイトナイトを名乗ってスパイラルの株を購入する手筈を整えるが、実は敵の電脳雑技団に与している。寸での処で気付いた瀬名社長のおかげで郷田社長の目論見は外れた。

電脳雑技団に関与している敵の大半は「自分の事」優先で動いている。平山社長夫妻は部下を自分の手足のようにしか考えず、三笠は自分の保身のためなら懇意の部下を切り捨て、伊佐山は己の出世のために自分以外の全てを捧げようとする。

その電脳雑技団に与する中で稀有なのが郷田社長という存在だ。彼は社長職と言う自分の立場を守りたいのではなく、自分が築いてきた会社、突き詰めれば社員全員を守るためにそこにいる。手土産として自社の手掛ける通販サイトから高級な品々をアピールして、電脳雑技団関係者に売り込みも行っていた。面白いのがこの回で、高級酒を振舞っても礼の一つもない敵陣営と対照的に、半沢直樹は同通販サイトのマカロンで喜ぶという一幕。敵陣営には感謝が足りない。

またどんなに酷い相手であっても義理と筋を通す。スパイラルに逆襲されて買収目前の危機的場面でも、電脳から「助けてやる」と誘われた身であり、そこは裏切れないというのだ。無情にも「どうせフォックスが買収されても後から我々がスパイラル買収するから同じ。助けなくても良いだろう」と切り捨てられてしまうのだが。

所詮はスパイラル買収のための布石扱いでしかなく、フォックスの抱える事業には微塵も興味がないことがこの一幕でわかってしまう。自分ではなく会社を助けてほしい郷田社長の考えとはまるで違う展開だ。

しかし自社の斜陽ぶりを彼自身が一番よく分かっている。瀬名社長に取り入る際の買収理由で、スマートフォンを作りたいと言っていたが、それは嘘八百だった。実際は自社の持つ力は弱く、資金がなければ潰れるのが分かり切っている……と思いこんでいる。だからスパイラルが買収しに来た際にも、電脳雑技団同様に株価つり上げの道具にしか考えていないのだと思ったのかもしれない。

瀬名社長と郷田社長の間を見事取り持った森山。瀬名社長が仲間と、会社に対する想いの強い情深い人物であることが分かると、わだかまりは氷解。そこから一気に買収とは名ばかりの共闘になり、通販サイトと言う隠し金山を用いて大逆転劇を演じた。

最初は憎い敵であったが、彼が信を置くものが彼以外のものだったから導き出されたハッピーエンドである。保身しか考えない奴だったら電脳雑技団諸共沈んでいただろう。

電脳雑技団は買収劇の際に、息を一緒に飲む部下の姿は見えない。スパイラルとフォックスには、買収劇に驚く部下たちが大勢いる。ここが本当に対照的だ。

まとめ

主だったスパイラル関係の3人、これまでのシリーズよりもかなり過去部分が掘り下げられていて、人間ドラマの様相を呈していました。5話で1作品というペースだったシリーズと違って1話減った4話、中身が物凄く濃くて驚いています。オリジナルシーンも追加しまくったであろうはずなのに、ストンとまとめる手腕が凄いです。

3人は銀翼のイカロス編には出てこないだろう……と思ってたら出るのか瀬名社長!!!? しかもかなり重要な場面で!! また何かあったらちょい役でも出てほしいですね!! 以上スパイラル周辺人物の感想でした。次書くとしたら電脳だけど……華が……ない……おっさん通り越した魑魅魍魎しかいない……

サポート1人を1億回繰り返せば音霧カナタは仕事を辞めて日本温泉巡りの旅に行こうかなとか考えてるそうです。そういう奴なので1億人に到達するまではサポート1人増える度に死に物狂いで頑張ります。