【短編小説】先生! デスゲームですよ!

※深刻なオチ不足

 都内某所の、木造安アパート2階。ペンネーム「志進士(こころしんし)」は初夏の熱気をエアコンの冷気で跳ね返していた。机の上には低スペックノートPCが鎮座しており、画面には文章を打ち込むアプリケーションが主張している。

「先生! 今の時代だからこそ、デスゲームですよ!」

 パソコンと向き合う20代前半男性の進士は、背後から聞こえる女子高生の声に気付き振り返った。高校デビューで茶髪に染めた髪が脱色し始めている、背も胸も尻も体重も平均的で、瞳が爛々と輝く活発そうな女子。名を「会座波子(えざなみこ)」。アパートの管理人の娘である。

「デスゲーム?」
「デスゲームです! 閉鎖空間、誰が犯人か分からない疑心暗鬼! 起こる殺人!! 謎解き!! 明かされる陰謀!! 取り敢えず良いキャラ揃えて適当に殺せば人気爆発の手堅くちょろいジャンルですよ!!」
「今世界中のデスゲームマニアたちを憤然とさせる言葉を言ったけど聞かなかったことにするよ」

 進士の夢は小説家。テレワークも出来る会社勤めでそれなりに時間の確保が容易だ。波子の夢は玉の輿だ。地味なアパートから脱出するための白馬の金蔓を探している。そのために、ヒットすればメディア絶賛で印税ももらえる「小説家」の夢を持つ進士を甲斐甲斐しく世話している。なお、このことはお互い知っている。

「しかしデスゲームか。確かに舞台設定と大まかなあらすじ、登場人物を密にすれば面白いね。ただ、殺すためにキャラを作るのは忍びないんだけど」
「大丈夫です! アニメやゲームのキャラは所詮絵です、実体なき情報ですから、人権なんかありません!! いくら血みどろに惨たらしく殺しても殺人罪には問われません!」
「罪に問われないのは知っているけど良心の呵責があるんだよこの野郎

 たまに突拍子もなくお題を出してくる波子だが、進士は煩わしさよりも奮起を覚えている。1人だと気分転換や惰眠で終わる1日に張りが出る。決して美少女ではないが、年頃の女の子に迫られるのは悪い気はしない。

 お題を言い渡されて1時間でプロットを構築。ちょうど真夏なのにホットココアを持ってきた波子に軽く苛立ちを覚えたが、サッと画面を覗き込む彼女の好奇心旺盛な瞳の前にかき消された。

『大五郎!! あぶねえ!!!!』『とっ、留五郎ぉおおおおおお!!!!!』『お、俺はもうだめだ……このゲームとやら、ちと、本気を出し過ぎだ……』『大五郎兄ちゃん次の敵だ!』『染五郎、竜太郎、魔界の奴らに思い知らせてやれ』『留五郎と言う、立派な武人がいたことをお!!!!』次回、デスゲーム幸太郎。第二話【覚醒の雄たけび】

「……何ですかこれ?」
「何ってデスゲームだ。巨躯な男たちが奮然と戦い散り逝くバトルファンタジー活劇だぞ。異世界転生要素も込みで」
「デリートぉおおおおおお!!!」

 波子は保存ファイルをゴミ箱にシュートした!!(空にはしていない)

「何すんだ波子ぉお!!?」
「デスゲーム履き違えてんじゃないですか先生!!? これはデスゲームじゃなくて古臭い漢気漫画ですよ!! だいたいネーミングセンス最悪!! このご時世に〇太郎って何!!? 一人ならまだしもほぼ全員だし、タイトルの幸太郎も誰が誰だか分からないし!!」
「君は今全国の〇太郎さんに喧嘩売ったな!? 因みにこのソフトも〇太郎何だぞ!!?」
「知るかあああああ!」

 進士は染五郎の過去、留五郎が最終話付近で復活する展開、竜太郎は獣に育てられた背景を持ち、幸太郎はイケメンであることを伝えたが、デスゲームとはまるで違うと却下された。

「良いですか先生。確かに、男だけのむさ苦しいデスゲームも需要があると思います。けど、万人受けするのは、男女織り交ぜたデスゲームです!! 正直おっさんしか出ないデスゲームなんか誰も欲しがりません!」
「男をホモに走らせる勢いの漢気を魅せたかったのだが。しかし万人受けするデスゲームってなんだ波子」
「美少女ですよ! 美少女が、蝶よ花よと育てられた、実は陰湿だったり脛に傷持つ美少女たちが、死の寸前に見せる絶望と苦悶の表情がウケるんです! 命乞いしたりすればなお高得点! デスゲームはお高く留まった美少女を殺すことによる罪悪感と愉悦が混じった狂気の悦びで彩ってなんぼなんですって先生!!」

 語彙力をフル稼働する波子に、「どうしてお前が書かないんだよ」と突っ込みたかった進士だったが黙っておくことにした。

「ということで。美少女を書いてください。美少女を殺して下さい。無論小説の中でですよ?」
「俺をサイコキラーか何かと勘違いしてない!?」

 若干ぬるくなったココアを一気飲みし、意地悪な笑みを浮かべた進士はキーボードアタックを開始した。それから2時間。出来上がった原稿を波子はお茶菓子を持ってきて楽しみと覗き込んだ。

『いや!! お金が、お金が欲しいだけだったの!! 私悪くない、アイツ、私をはめたのアイツが、罠に乗っただけなの、乗るなら玉の輿に乗らせて、私まだ死にたくない、死にたくない、死にたくない!!!』

「これ私やないかああああああい!!!!」
「自覚あんのかあああああああい!!!!??」

 結局この日出来上がったデスゲーム小説は、お蔵入りとなった。持ち寄ったお茶菓子を食べながら反省会をした2人は、小説というビッグドリームを成し遂げられるのか?

続かない!

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