【2030年家族のかたち】勇の家族

 親類縁者に家族を見出す時代が終わった。急速なネットの普及、それに伴い、外の外に親友親類を求める人が増加したのが、21世紀初頭。月日が経ち2030年。その文化はありつつ、急速に発展している家族文化が存在した。一人の少年を通じて、その一端を知ることが出来れば幸いである。

 ※この物語はフィクションです。

電車の泣き子

 より快適に。より静穏に。より安全に。凝り性の日本人が電車に施す措置は、省電力と車体の軽量化に常に気を配っている。乗り込む人は、スーツ姿や余所行きの格好が殆ど。恐らく2050年になったとしても、何ら変わらないことだろう。

 概ね新聞や本を読んでいた時代は、スマホの到来によって終わりを迎え、今では大人数がいても静かで、皆下を向いている。……が、静寂を打ち消す声もまた、変わらずに存在した。

「ほーらほら、よしよーし」

 ぐずって間もなく泣き始めた赤子を、若い母親が抱えてあやしている。泣き声は同車内中に響き渡り、イヤホンをしていても聞こえるほどだ。少しならば皆も知らぬ存ぜぬで過ごしてくれるが、2駅も続けば視線を投げかけてくる。母親も焦っていた。降りたいのはやまやまだが、彼女にも用事があるのだ。今下車すれば間に合わなくなってしまう。

「ほら、静かに、お願い静かにして」

 焦れば焦るだけ、子供に対するあやし方にも伝播し、不安を感じて更に赤子は泣きだす。針の筵にいる。母親はそう感じて、降りろという無言のプレッシャーを感じていた……が。

「いないいなーい~ばあ」

 赤子は、知らない誰かがしてくれた行為に戸惑って、泣くのをやめた。母親も目をぱちくりさせたが、誰かは構わず手の指を全部立てて子供の目の前に広げて見せる。

「1~……2~……3~」

 ゆっくり一本ずつ折り曲げていく指、右親指の次に人差し指、左の指と、赤子の視線をあっちこっちに逸らしていく。10まで終わったら、閉じた右手を開き、雑草の花が一輪現れた。ほれほれと赤子の手に届くか届かないかの距離で見せびらかし、赤子が手を5秒ほど、物欲しそうに出したところで、花を母親に渡した。

「はい。赤ちゃんに渡したげて。なあ皆ー聞こえてんだろー? 俺次の駅で降りるからさー、誰か代わりにあやしたってー。じゃあねー」

 母親の感謝と赤子の笑顔を背に、1人の少年が駅のホームに降りた。彼が振り返って車内の様子を見ると、サラリーマン風の男があやしに行っている。それを見届けて、改札口を目指した。

 少年の名は「金糸雀 勇(かなりや いさむ)」。先日義務教育の小学校を終えて、都内の社会科学専門中学校に特待生入学が決まっていた。

 重い瞼を無理に開いた、眠たげな表情。金色に染めた髪に赤い髪留めを付けている。服装は春を意識した桜色を基調とし、ジーパンはかかとが少し余る。背は低く、小学校4年生と間違われても不思議ではない。彼が地味な色のスマホを見ると、「改札口前にいるよ」と知らせが着ていた。

母か姉かもわからぬ新米

「あ。来た来た。久しぶりねー勇君!」
「久しぶりっす、咲姉」

 午前9時。改札口前で勇を待ち受けていたのは、1人の女性だった。年若い社会人2年生で、勇よりも背が随分高い164㎝。黒のスーツ姿で、茶目っ気のある笑顔を浮かべながら勇を出迎える。

「金糸雀園から巣立って初めての外出かな? どう、実感はある?」
「どうだろ……まあ、一週間も行かなければ慣れるんじゃないかな」

 2人がここで待ち合わせたのは、勇の往く学校の機材を選ぶためだ。彼の行く学校は基本自宅で執り行い、オンライン学習と、いつでも再生可能なアーカイブ方式の授業とで進む。

 勇が小学校時代にいた金糸雀園にもPCはあったが、あまりいいスペックのものではない。難しいプログラムを作ろうとしてブルースクリーンにすることがしばしばあり、園長はそのたびに怒っていた。

 社会科学専門中学校は4年制で、卒業後には高校大学に行かずとも社会人として働くことが出来る程の技術・知識を持って排出される。4年間を共にしても大丈夫なように、強めのPCを選ぶ必要があったのだ。

「でも、わざわざ都心まで来る必要はあったのかな? だってPCって自宅で注文したらすぐに届くじゃない?」
「咲姉は甘いね。どんな物か、実物見なきゃ。この間引っ越した部屋はそんなに広くないからさ、あんまり場所取ったら困るんだよ」

 賑やかな人込みをかいくぐった先にある家電量販店。近年は白物家電と同等にPC関連の品揃えも良くなっている。秋葉原の電気街には及ばずとも、それに近い水準だ。そして新春セールで若干安くなっている。

 他愛ない話を、勇は楽しそうにする。近所のコロッケが実験的であまり火が通っていなかったことや、公園で子供と遊んだ話等だ。普段はあまり笑顔を見せない勇だが、咲と会う時は楽しそうにしている。

 それは彼女が、【観察人】であり、彼にとって特別な存在だからだ。

「勇君は、社会人になった時何がしたいの? しばらく働いて高校生を目指したりする?」
「ゲーム作りたい。一発当てて、咲姉を養う側になりたい」
「ええ~? 私はね、これでも貯金とか将来設計キッチリしているんですからね? 16歳になった君に養われるとか紐の未来じゃない、嫌よそんなの」

 それに高校大学で給料は変わらないけど、色々な事が学べて……と続ける咲の言葉は無視された。

 勇はPC本体にべたべた触ったり、クリック音やキーボードの押し込みの固さなどを入念に確認し、メモを取って購入リストを作っていく。時間はあっという間に過ぎていき、11時頃には欲しい白物家電も網羅していた。

「あ。そろそろお昼時じゃない。ここら辺は12時になったら、社会人が殺到して食べ物屋さんは全滅よ。今のうちに食べちゃいましょ」
「ええ~……でもまあ良いか。わかったよ、行こう」

 観察人制度。孤児院から出たとき【家族】になることを拒んだ場合に適応される法制度だ。人込みを、手を繋いで突き進む咲と勇は、親戚ではない。咲は観察人になりたいと申し出て、勇が独立して暮らすことが許された。問題が起こった時、彼女が保護者代わりになる。

 会社勤めの日であっても、観察対象絡みであれば即座に有給休暇が取得できる。穴を開けないために半休だけとった咲だが、目的は今達成された。

「お肉とラーメンのどっちがいい?」
「咲姉、やっぱり油多いの食べてた」
「やっ、野菜だってとっひゃあ!?」

 スーツ越しにお腹をつまんだ勇は、呆れ顔で咲を見上げた。

「次会う時にデブになっていないことを祈るよ。蕎麦食べよう蕎麦」
「蕎麦に油はありません」
「だから良いんだよ。咲姉じゃなくてデブ姉って呼ばれたいの?」
「明日から頑張るから!! 明日から!! ねえ、育ち盛りで背も伸ばさなきゃいけない勇君のため、君のために必要なんだッ! どうする? 野菜マシマシで行く? 肉汁マシマシで行く!!?」
「…………大人はいつも、自分の為なのに誰かのためと言うね。肉で」
「よし肉だ!! サーロインが私を呼んでいる!!」

 結局、油道を進む咲姉を止められなかった勇。次に会う時に少しでも太っていたら、同棲してでも痩せさせようと心に誓うのだった。

公園の幼子

 児童虐待。児童遺棄。殺害。そんな社会問題の発生は如何にして起こるのか。経済的な観点だけでは説明がつかないとし、政府は赤ちゃんBOXという社会制度を作りあげた。育てる自信のない子供。望まぬ形で産む子供。捨てる理由は様々だったが、赤ちゃんBOXは盛況で、少子高齢化の一助を担っている。

 捨てる時は完全に匿名。特定して晒上げる者には、かつてない重罰が課せられることになっている。実際、「どうせバレないし、バレても日本だから軽い罰だろう」と舐めて晒しあげた者は、政府特務機関が1両日中に特定、強制逮捕し全世界に実名顔面共に公開された。莫大な慰謝料を支払うことにもなり「晒したらこうなる」という見せしめに、特定厨も息を呑んだという。特定界隈では以後、特定はするが晒すことはタブーとなった。

 勇のように、捨てられてから義務教育期間中施設で育てられる子もいれば、途中で里親が現れて養子になる子供もいる。そんな子供に誘われて、暇だった勇は遊び相手になった。

「にーちゃんそこ、そこをほって!」
「主語をしっかりしろ子供」
「しゅごってなに?」
「何だろうな」
「わかんないの? ちゅうがくせいじゃないの?」
「まだ小学生と中学生の間だよ。不思議な時間さ」

 公園の砂場で山を作り、川を、田舎の村を、魔物を、勇者を作っていく。

「きびだんごは、いくつもたせる?」
「100個くらい持たせておこう。お供多ければ魔王にだって余裕で勝てる」
「さいしょのなかまはくまがいいかな? ぼくはくますきなんだ!」
「熊を仲間にしようとして、端から金太郎がボスとして現れるとか」
「きんたろうつよいよね?」
「強いから良いんだろ、燃える」

 まだ年幼い子供の顔立ちは愛らしく、ぷにぷにした手で砂をこねていく。小学校にも通っていない子供との交流で、勇は年上として良いものを作ろうと張り切った。その結果、とっ散らかった壮大な桃太郎のストーリーを砂場で再現している。

「じゃあかぐやひめもなかまにできるの!?」
「そりゃあそうだろ。かぐやひめは人間じゃなくて宇宙人だ。人間じゃないならきびだんごだって効く」
「まじょとかもできるの!?」
「あいつらそういうの耐性持っているだろうから無理だろ」
「じゃあオニは!?」
「仕様上効かねえだろな。効いたらきびだんご投げれば勝ちのヌルゲーになっちまうじゃん」

 出来た! と叫んだ子供。砂場には中々の物語が描かれていた。最後に勇によって追加された「きびだんご迫撃砲」は、「何かやだ」と子供に潰された。

次はブランコとせがむ子供の背を、勇は押してあげた。勢いよくブランコは上がり、下がりを繰り返していく。普段ならいけないほど高い地点にまで上がって、子供の興奮は絶頂だった。

「あー! しらないおにーさんにぶらんこしてもらってる!」
「ずるいぞおまえだけー! ぼくもやってー!」
「あたしオニごっこがいー!」
「すなばすげぇええええええええ!!!!」

 続々現れる子供たちも、勇は快く応対した。昼食で咲にたらふく食べさせられた肉のカロリーは、こうして消化されていった。

「おや。誰だか知らんが、うちの子の相手をしてくれているのかい? ありがとねえ、草餅食べるかい?」

 鬼ごっこで疲弊していた勇の下に現れた、腰のしっかりとした老婆。先ほどまで遊んでいた子供が「ばっちゃー!」と親しげに駆け寄り、草餅に手を伸ばした

「こりゃ! 手を洗いなさい手を!」
「ごめんなさーい!」

 手を洗った勇、子供、子供たちは、草餅をご馳走になった。あんこも入っていて美味しいと評判だ。

「あんたは中学生かい?」
「あと数日で」
「ああ、春休みか。どうだい私の子は、元気じゃったろ?」
「おばあちゃんの子だったの?」
「養子に引き取ったのさ。もう子供たちも自分の家族持って、1人だとボケるから養子取った方がいいって、心配されてね」
「ペット感覚で養子に引き取るのすげーな」
「ペットじゃあ埋められないよこれは。それにあたしももう若くないし、出来ることも殆どない。あと一人、誰のかは知らないけど、子供を世に送り出して、それで終わりさ。良い生涯だろ?」

 しみじみと語る老婆に、勇は言葉を投げかけた。

「まだまだ死にそうにないけどな」
「こんなか弱い老婆を見て何言うんだか」
「そんな腰のしっかりした老婆っての見たことないよ」
「デリカシーない若者はモチに包んで食べてやろうかあああああああ!!!」
「うぉあああ!?」
「ばっちゃが怒ったー!!」

 真・鬼ごっこ(老婆モード)を命からがら生き延びた勇は、夕方、家に帰る子供に手を振り返して家路についた。

「いや…、1時間走っても…ピンピンしてるし…まだまだ生きるだろ…あれ」

 肩で息をし、今夜は何か栄養の付くものが食べたいと思った勇だったが、人気のない路地裏で、うずくまっている少女を発見した。「あー」と息を漏らして、彼は近くの自販機に足を運んだ。

家族ノカタチ

 赤ちゃんBOXから施設か養子に行くその過程に、もう一つの道がある。それは【家族】になること。家族法に則り、知らぬ者たちと家族になることを指す。弟も知らない人。両親も知らない人。その両親も実の夫婦ではなく、コンピューターの相性診断で選ばれた良縁で、赤の他人だ。

 この制度は助成金も出る。馴染めば普通の家族同然に過ごせるといったメリットがある反面、ギクシャクした関係なら修復せずに離散することもあり得る。

「真の家族を孤児は知らない。その温もりを仮初の形でも届けるために」という理念から生まれた家族法だが、それで今一人の少女が悩んでいる。

「ほらよ」

 そろそろ陽も落ちる夕方、少女は勇から缶ジュースの施しを受けた。

「あ、ありがとう」

 学生服を着た少女は、体育座りのまま勇をじろじろ見た。赤い髪留めに目を惹きつけられたことを察知した勇は、「これは観察の人から誕生日記念にもらったんだ。良いだろ」と嬉しそうに語る。

「……どうして私を、その、助けてくれるの? 君、まだ小学生なのに」
「あと数日で中学生だ。なんつーか、……何でだろうな。助けても別に誰も困らねーし、良いかなーって」

 缶ジュースは甘酸っぱく、少女の堰き止めた思いを流しだす。

「家に帰りたくないの……」
「虐待うけたの? 警察に行こうか?」
「いやそうじゃなくて!! 虐待なんか受けてない。一回も叩かれてない」
「へぇ。俺のいた金糸雀園だと、園長が何度も俺の頭叩いてたけど」
「……観察人とか、園とか、君も孤児なら多分わかってくれると思うんだ」

 同じ目線にいる勇に、少女は訥々と語る。

「本当の。その、家族って何だろうって。孤児だとさ。つまり、どういう理由か分からないけど、私、捨てられたってことなんだよ。元々の両親から。捨てられた私が、園に入って、そこの名字貰う前に、家族制度で私引き取られたの。お父さんとお母さんと、弟がいるの。でもね、これが本当の家族とか、思えなくて。だって、ほら、殴られないの。よそよそしいっていうのかな。もっと家族って、こう、なんだろ……もっと近いと思うんだ」

 本当の家族。本当であれば、何事もなく得られた家族。捨てられたという負い目は、孤児を経験すれば誰にもあることだ。

「俺は本当の家族とか。家族ってこうあるべきとか。そういうのよくわからねえ。今の環境が幸せなら、それで良いと思うけど」

 勇も、考えたことはあった。自分は本当は何者の子なのかを。

「8歳の頃かな。俺は、園長の書斎に忍び込んで、棚を漁り散らかしたことがあった。俺の身元を見つけるために。結局3時間経っても書類とかを見つけられなくて、何度かそれを繰り返したんだよ。でも、妙だった。毎回俺が侵入して散らかし放題だってのに、忍び込む度に綺麗に片付いていて。園長もそれを皆に言うこともなかった」

 答えは何処にもなかった。金糸雀園に限らず、施設に贈られる赤子は身元が分からないようになっている。回収後に即日、或いは日にちをずらされて送られ、園長とて調べられるものではないのだ。

「気付いちゃったんだ。園長は俺がやったことなんてとっくに知っている。でもやりたいことをやらせてくれているんだって。……その日から俺は、園長のことを家族なんだって、思えるようになったんだ」

 勇の語る昔話を聞いて、少女は「でも」と。

「私は、知りたいんだ。自分の事を」
「知ってどうするの?」
「知って、それで納得したいの」
「とんでもなくDVの酷い人かもしれない。或いは極貧かもしれない」
「それでも私は」
「本当は……捨てたくなかったかもしれない」

 しんと静まり返る路地裏の空は、そろそろ星が見える。勇は少女の目を、綺麗な瞳で見据えながら語りかけた。

「赤ちゃんBOXを見たことがあるんだ。その時、捨てる人も見た。誰にも言わないし言い触らす事もしない。……でもその人、泣きながらごめんなさいっていうばかりでさ。【パパの形見に】って、ちっぽけなライター握らせてた。身なりは綺麗じゃなかったよ。服がボロボロだった。金がなかった。生まれてくる子を養うためのお金がなくて、捨てたんだ」

 押し黙る少女もわかっていた。今でも、赤ちゃんBOXを使わずに、赤子を手にかける親がいる。理由の大半は夜泣きや再婚相手とのトラブルばかりだが、経済的な理由で心中するという悲痛なものもあった。捨てられていなければ死んでいたかもしれない。「皆が幸せを願っている」と勇は続ける。

「自分が育てたら、何処かで破綻してしまう。だが手を切れば、どちらも生きることが出来る。お腹を痛めて産んだ子をそういう風にしなければならなかった痛みって俺には分からないけど、きっと辛いと思う。君の本当の両親っていうのがそんな人だとしてさ。会ったらどうなるだろう」

「会ったら……私は……」

「……何も浮かばないなら、やめておいた方がいいよ。取り返しがつかなくなっちゃうからね」

 空になった缶を、近くのごみ箱に投げ込んだ勇。

「君は、家族はいるの?」
「俺の家族は、観察人と、金糸雀園の皆だ。捨てた両親のことはもう、どうでもいい。どうあれ、俺を殺さずに赤ちゃんBOXに入れるくらいの良識はあったってことだから。それでいいよ」

 寒くなる前に帰れよと忠告して、勇は歩き始めた。その背を少女はじっと眺めていて、見えなくなる頃には心の整理も付いていた。「帰ろう」立ち上がって、本物ではない家族の下へと歩いていく。会った時何を言おうか、考えながら。

 勇は無意識のうちに一瞬、金糸雀園への道を選びかけていたが、すぐに方向を変えた。まだ親離れできていないのかと髪をくしゃくしゃとかく。程なくして、スマホの着信が鳴る。相手は咲だった。

『勇君、今仕事終わったんだけど。帰り暇だからさ、何処か食べに行く? 今度は私がそっちに行くからさ』
「油物は」
『エネルギーだっ!!』

 電話はそこで切れた。「しょうのない姉さんだ」と独り言ちて、姉を迎えるため駅に進路を変更した。頑張れよと、先の少女に心からの応援を投げかけながら。

あとがき

 本作は「はれのそら」さん主催のマガジン企画、【2030年家族のかたち】に参加するための短編小説です。最初は家族法を主眼にした家族ギクシャクな物語にしようと思いましたが、巡り巡って勇君を主役にした物語になりました。理由は4人バラバラ家族の物語を書こうとすると、分かり難いからです。

「電車内の赤ん坊が泣いていて、それを別の人があやせるくらいの距離感が世に知れ渡れば、きっとその時の環境は良いものだと思う」そこから着想を得てこの短編を書きしたためた次第です。

 家族法とか色々な制度ありますが、根っことして「誰にでも親しくふるまって違和感のない世界」が描けていれば問題ないので、矛盾とかあってもスルーで大丈夫です。もしそう受け取らずに別のテーマを感じても、それも正解だと思います。

 私は家族と言うと、家に住む者、親戚一同くらいの感覚しかないです。自分の知る、名前の付いた登場人物が家族だと思うのです。

 1mmも知らない人の喪失を、我が事のように感じて泣く人は希少です。私はきっと泣きません。ですが身内に何かあった時、別次元の衝撃が襲い掛かるのは言うまでもありません。30年以上付き合ってきた身内を喪失したら、私の心が壊れないか心配になります。

 家族とは重ねた年月の重さがものを言うので、本作の勇君は、実の両親以上に育ててくれた環境そのものを家族として受け取っています。構想段階ではすまし顔で「興味ないね」とか言いそうな雰囲気でしたが、だいぶ棘が取れました。こっちの方が好意的に接することが出来ます。子供にも優しく大人にも礼儀を払える(おばあちゃんには辛い)イイ子で、1日以外にもいろいろエピソード作れそうだと思いました。

 今回は、10年先の未来を見据える妄想と、現実のすり合わせという面白くも手探りな企画で、大変楽しかったです。企画のはれのそらさん、感謝いたします。読了してくださった方にも感謝いたします。感謝ついでにイイネを推してくれたらもっと感謝しますし、【2030年】企画に参加した方々のを読んでくだされば感謝の輪が広がります。それではこの辺で。

サポート1人を1億回繰り返せば音霧カナタは仕事を辞めて日本温泉巡りの旅に行こうかなとか考えてるそうです。そういう奴なので1億人に到達するまではサポート1人増える度に死に物狂いで頑張ります。