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企業のソーシャル化 【なぜ今社会的インパクト・マネジメントなのか?シリーズ③】

「なぜ今、社会的インパクト・マネジメントが注目されているのか?」

ということを、自分なりに言語化したく、noteに気ままに書いていきます。

その時の勢いで書くので、認識に間違いや記載ミスがあるかも知れませんが、おいおい直していきます(たぶん)。

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20世紀、行き過ぎた資本主義によって、「企業は金儲けを目的にしている」と非難されることも多くなった。それは一部は正しく、一部はそうではない。この近年、企業の社会貢献意識は大きく変わっている。そこで働く人の意識もまた変化している。

企業がソーシャル化に向けて、どのような変遷を経ているのか、大きな流れを掴んでもらえたらと思います。

近江商人の三方良し

日本では江戸時代から商人は金儲けだけでなく、地域の主な担い手でもあった。「近江商人の三方良し」は、売り手良し・買い手良し・世間良し、というwin-win-winの関係性を築く大切さを説いている。

自社の利益だけを考えて商いをするのではなく、雇い主も働き手も一緒になって商売を盛り上げ、地域に貢献しながら顧客を引きつけ、地域と良好な関係性を築いていた。地域のお祭りでは、財のある組織は協賛金を出し、地域のイベントを支えた。

大きく財を成した人は、地域の土木工事や小学校など、社会インフラを整えることに財を使うことも多かった。例えば、ミキモトパールの創業者御木本幸吉氏は、伊勢志摩の景観を守り観光地として発展させるために多大な寄付をしたことで知られる。

また、創業時の志として、豊かな社会を目指す社是を掲げた企業もある。現Panasonicの創業者松下幸之助氏は、「商品を大量に生産・供給することで価格を下げ、人々が水道の水のように質の良い商品を手に入れられる社会を目指す」という水道哲学を提唱し、事業の発展を通じて、日本人の生活を豊かにすることを目指した。

企業が地域や人に害をなす時代

第二次大戦後、財閥解体を経て、民間企業は戦後の焼け野原で事業を再開した。企業の躍進によって、時には政府と民間企業が一体となって、日本は高度成長期を謳歌し、1968年に(終戦から23年間で)世界のGDP第2位まで上り詰めた。「日本を発展させよう」という政策と民間企業の成長意欲が相まって、企業は様々な技術を欧米から吸収し、科学技術を用いて重工業・軽工業を発展させていった。

その過程で、人体や自然に有害な化学物質が生まれるようになった。
それが自然に良くない影響を与えると分かっていても、自社のビジネスを広げ、競合やグローバル市場に勝っていくために、人々の健康を犠牲にする判断がされていくようになった。

GDPがイギリスを抜いた1968年には、四大公害(熊本水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市喘息)が社会問題化し、訴訟にまで発展した。70年代には公害・環境に関する法律が制定され、市民に環境権が認められ、地球環境にも目を向けた活動を行っていくようになった。

1970年代、日本だけでなく世界の各国の工業発展の裏側で、地球環境問題が顕在化していった。大気汚染、酸性雨、光化学スモッグ、オゾン層破壊、地球温暖化など、グローバル化が進む中で先進国と開発途上国の対立も含みながら、地球環境問題に関して多くの世界ルールが設けられ、国も企業も適切な対応を求められるようになった。

企業の環境への取り組みと環境報告書

それらの時代背景を受けて、企業が環境対策に取り組み、その内容を「環境報告書」として公開することが増えていった。

1996年には国内で100社近くが「環境報告書」を作成し、2004年頃には900社を超える企業が作成した。

2007年には環境省から「環境報告書ガイドライン」が示され、独立行政法人や、国立大学法人などにおいては発行が義務付けられている。

メセナ(文化・芸術支援)とフィランソロピー

欧州で1960年代から始まったメセナ活動が、米国で広まったフィランソロピーと相まって日本へ達し、1990年頃から国内の企業でも取り組まれるようになった。企業が事業を通じて得た利益の一部を、慈善的な目的の寄付や社会貢献を行う活動である。

「フィランソロピー」として、企業の社会貢献活動が盛んになり、1990年はフィランソロピー元年と呼ばれた。社員によるボランティア活動、地域の市民団体への寄付などが幅広く行われた。2003年から日本フィランソロピー協会が「企業フィランソロピー大賞」を設けている。

「メセナ」とは、特に文化・芸術活動を支援する社会貢献活動の一つである。1991年から、公益社団法人企業メセナ協議会が実施する「メセナアワード」が開催された。文化振興のための奨学金、交響楽団の支援、美術館の運営など、文化・芸術活動への取り組みが中心となっている。現在でも地域では企業による様々なメセナ活動が行われている。

2003年CSR元年

2000年代に入ると環境活動だけでなく、メセナ・フィランソロピーを含めた幅広い社会貢献を含めて、「CSR:企業の社会的責任 Corporate Social Responsibility」として表現されるようになった。

企業が環境対策や社会貢献活動を行うだけでなく、一地球市民として社会へ与える影響に責任を持ち、あらゆるステークホルダーに対して向き合っていく姿勢である。従業員の労働環境を適正にし、障害者を雇用し、商品の品質を消費者に保証するなど、幅広い責任を意味する。

国連が呼びかけ、1999年に民間企業によるイニシアチブ「グローバル・コンパクト」が生まれ、人権・労働権・環境・腐敗防止などに関する10原則を順守していくことを宣言した。

国内の企業は「グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン」に加盟し、企業内にCSR部署が設けて、適切なCSRを果たすべく活動を行っていくことが浸透した。

CSV:共有価値の創造へ

2006年に米国マイケル・ポーター氏とマーク・クラマー氏の共著「競争優位のCSR戦略」にて、CSV(共有価値の創造 Creating Shared Value)という概念が提唱された。今までのCSR「事業の利益の一部で社会貢献する」から、CSV「本業で利益を出しながら、社会貢献を両立させる」という方向性である。

CSRは、社会貢献として、本業で儲けた利益を社会へ還元する活動であり、企業からは「どこまでやれば良いのか」「赤字部門」「利益が出なければやらないこと良いのか?」といった声が上がり始めた時期だったため、CSVの概念は企業に新しい方向性を切り開くものとして期待された。

2004年C.K.プラハード書籍「ネクスト・マーケット 「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略」、2006年マイクロファイナスを手掛けるグラミン銀行がノーベル平和賞を受賞したこともあり、BoPビジネスの概念が広まった。Base of Pyramidを顧客とすることで、新しい収益事業を生み出すことへの期待が高まった。

SDGsによる新規事業創造

2016年、世界が共通で目指すSDGs(持続可能な目標、Sustanable Development Goals)が始まった。2030年までに掲げられた17の目標について達成を目指す。

国連グローバル・コンパクトが発行した「SDGコンパス」では、自社の強みを活かしてSDGsに取り組む「インサイド・アウト」アプローチから、社会の課題に対して自社がソリューションを提供していく「アウトサイド・イン」アプローチを紹介している。これは、自社の強みを活かしてCSRなどの社会貢献する取り組みから、社会課題をニーズと捉えて事業創造を促していくCSVに近い。企業も社会の一員として、課題を生み出さず、課題を解決していく主体として、事業を行っていくことが期待されている。

先進国や日本国内にも様々な社会課題がある。途上国におけるBoPビジネスを展開するだけでなく、国内や世界の社会課題に対応した新規事業を開発していくことが、SDGsを機会とした自社の発展であるとの認識から、企業の取り組みが進んでいる。

SDGsが2030年までの目標であるが、その後も類似の活動に取り組んでいかなければならないことから、2030年で期間を終えるSDGsではなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)を中核に置いている企業も多い。

社会的企業・ソーシャルベンチャーの登場

大企業がCSRに取り組み始めた2000年代に、社会的なミッションを掲げて創業された企業が目立つようになった。法人格としては株式会社などの企業形態をとっているが、ミッションや存在価値に社会性を一義に置く企業で、社会的企業やソーシャルベンチャーなどと呼ばれる。

その企業が存在して事業を展開することで、より良い影響を社会へ与え、より良い社会に近づいていく。その理念に共感する消費者を巻き込み、事業を展開している。

米国では、1970年代創業のパタゴニアは「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」と掲げている。同じく70年代に創業のボディショップは、天然原料をベースとした化粧品を展開し、動物実験や人権保護に力を入れている。

日本では、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」マザーハウスは2006年、エシカルジュエリーを掲げたHASUNAは2009年に創業している。

さらに近年、ITテクノロジーを活用して社会課題を解決することに取り組むベンチャーが増えてきた。教育分野のEdTechでは、教育格差の解消に取り組むオンライン配信、アクティブラーニングの提供などがある。健康・医療分野のヘルステックでは、遠隔医療サービスや生活習慣を整えることにIoTが活用されている。

金融セクターと足並みを合わせて

ESG投資が広まることで、社会性を意識した企業に投資が加速する。

社会的インパクト投資が広まることで、社会起業を促し、ソーシャルベンチャーが規模を拡大してサービスを届けていく。

企業のソーシャル化と合わせて、金融セクターのソーシャル化が進んでいることで、事業を推進するための両輪が回り、ソーシャル化へ向けた大きな動きが進んでいる。

※金融のソーシャル化については、別記事で

だから今、社会的インパクト・マネジメントが注目されている

企業がソーシャル化すれば、金融が社会性を求めれば、「社会的に良いこと(社会的インパクト)をどうマネジメントして増やしていくか?」という議論が動き出していく。

今まで、貨幣経済の中で、売上・利益などの貨幣で事業の価値を表現していた企業セクターと金融セクターが、社会的インパクトというふわふわしたものの価値を、どう表現していくことが良いのか。

今まで、社会的インパクトを生み出していたのは主にNPOやNGO、行政だったが、今後は多くの組織が社会的インパクトを生み出し、マネジメントし、評価し、議論していくことになる。

今の「社会的インパクト・マネジメント」はまだ産声を上げたぐらいの基礎的な内容ではありますが、その概念を提示していくことで、この議論の端緒になればと願っています。

以上


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