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共通言語の重要性 【なぜ今社会的インパクト・マネジメントなのか?シリーズ⑤】

「なぜ今、社会的インパクト・マネジメントが注目されているのか?」

ということを、自分なりに言語化したく、noteに気ままに書いていきます。

その時の勢いで書くので、認識に間違いや記載ミスがあるかも知れませんが、おいおい直していきます(たぶん)。

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社会的インパクト・マネジメントでは、いくつかのフレームワークと言葉を紹介しています。これらをソーシャルセクターにおける共通言語にしていきたいと思っています。

今回は、なぜ共通言語が重要なのか?ということを、書いていきます。


共通言語とは何か?

共通言語とは、チーム内や一定の範囲の関係者が、同じ認識を持ち、互いに正確に意図を交換することのできる言葉のことです。
言葉以外にも、普段使うフレームワーク、仲間に通じるジェスチャー、このタイミングでは〇〇するよね、という認識も含めても良いでしょう。

例えば、
●「我々の理念」と聞けば、全員の頭にウェブサイトに掲げられている"あの文章"が思い描かれる。
●「あの人は、私たちの活動の対象者なの?」と確認すると、「はい、先ほど本人と話をして、対象者の基準7つの内5つ満たしていることを確認しました」という返答が返ってくる。
●18時にマネジャーが電話で「今日の成果はどう?」と聞くと、スタッフが「未達です。目標100人に対して参加者75人、ですがイベントの満足度は目標を越えています」と答える。

「理念」「対象者」「成果」などは、普段からよく使いますが、概念が大きく多様な使い方をする言葉です。いずれも「これを『理念/対象者/成果』としよう」とチーム内で認識が擦り合っていなければ、すぐには伝わりません。言葉の受け手が、「そもそも対象者って誰でしたっけ?」と思ってしまうと、会話のキャッチボールが成り立たなくなってしまいます。

こういった、ふわっとした一般用語や、チーム内でよく使う特殊な言葉について、その言葉の持つ奥行きや意味合いを、チーム内で共通認識として持ち、話し手と受け手が相互に瞬時に理解し合える言葉が、共通言語です。

普段からコミュニケーションを図り、同じものを見て会話をしていることで、メンバー間の言葉の使い方が揃い、言葉の持つ背景や文脈の認識を合わせて使うことができるようになっていきます。


なぜ共通言語が重要なのか

共通言語があることによるメリットは2つあります。

●認識を擦り合わせることができる。
チームのメンバーが思い描いているものを擦り合わせ、同じものを見ている状況を作ることで、認識が合う。すれ違いやミスコミュニケーションを防ぐ。

●コミュニケーションを円滑にする。
一言で的確に伝わることで、コミュニケーションコストが下がる。一人の発言・発信を、複数人が受け取り、同じ認識を持つことができる。


言葉はコミュニケーションの中核をなしますが、私たち個々人の思考は言葉を大きく越えていきます。個々人が思考し、思い描き、考えていることを、言葉を通して他人へ伝えることは、思いのほか難しい作業です。自分が使っている言葉で伝えても、相手が同じような認識で受け取るとは限りません。言葉を、相手も同じような意味合いで捉えているとは限らず、直面している状況のコンテクストも、自分以外の人には見えていないものです。

人によって言葉の持つ奥行きが異なることで、同じ事業について話しているはずでも、認識のずれや誤解が生じることが多々あります。伝えたのに伝わらない、言葉に対する認識が異なる、背景が共有されておらず意図がずれる、といったことは普段のコミュニケーションではよく生じます。チームで活動を進めていくにあたって、コミュニケーションで用いる言葉の認識にずれがあることは、コミュニケーションを阻害します。それを逐一確認したり、説明することは互いにストレスとなったり、説明に時間がかかることで議論の本題に入れない、本質に辿り着くまでに時間がかかる、ということが発生します。

それでも、私たちは一人ではなく複数人で動き、言葉を介してコミュニケーションしていきます。できるだけ、認識を合わせ、個々人の違いがあっても同じものを見て議論し、同じ方向を向いて活動していくことが望ましい。そのために、チームで意図が通じる共通言語を持っていることは大きなパワーになります。


例えば、時間感覚も人それぞれなので、実感としてイメージしやすいと思います。
A:「このタスク、今週中にお願い」
B:「はい、月曜日の朝イチで送りますね」
A:「いや、週末に使うから土曜日までに」
B:「では、土曜日の夜までに」
A:「そうじゃなくて、土曜日の午後イチに使うから」
B:「では、土曜日の昼12:00までに送ったら良いですか?」
A:「事前に確認したいから、金曜日の18:00までに」
B:「承知しました!」

Aさんが一言目で「金曜日18:00」と言えば一度で済んだキャッチボールですが、Aさん自身の思考がぼんやりしていたり、今週中という幅のある言葉を使ったことで、意図が伝わりにくい出だしになってしまいました。
Bさんが具体的に日時をあげて確認してくれたので、やりとりの末に意思疎通が図れましたが、もしBさんが「週明けに提出」と思いこんで会話を終えていたら、悲劇が起こったかも知れません。普段から私たちが行っているコミュニケーションは、認識にこのくらいの幅があり、人によって捉え方が異なります。

例えば、「今週中」とは、今週平日最終日である金曜日の18:00のこと、という共通の認識があれば、「今週中=金曜日18:00」という図式を、互いに頭に思い浮かべることができたかも知れません。

A:「このタスク、今週中にお願い」
B:「承知しました、金曜日18:00までに送りますね」

というコミュニケーションが成立しやすくなります。
この時の、「今週中=金曜日18:00」が共通言語です。


もしくは、タスクを依頼する際に、「日付+時間+理由をセットで伝える」というルールを設けておくことで、

A:「このタスクお願いします。金曜日の18時までに送ってください。土曜日の午後イチに使いたいので」

と伝えることで、誤解やミスコミュニケーションを減らすことができます。この「日付+時間+理由」のセットが、「タスク依頼時のフレームワーク」としてチーム内で浸透していることで、円滑にコミュニケーションが進みます。共通言語としてフレームワークを活用する例です。


特に、社会的インパクトは目に見えにくいものを扱うので、言葉の抽象度が高く、概念的なため、個々人によって認識が異なる場合がよくあります。

A:「不登校の子どもが、早く学校へ通えるように支援しよう」
B:「学校に通わないですむように、オンライン教育の環境を整備すべき」
A:「他の子どもが毎日学校へ通っているのに、その子だけオンラインで学ぶのはずるいのでは?」
B:「教育は子どもの権利ですから」
A:「学校へ通う義務を果たしていないのに、教育の権利を主張するのはおかしいのでは?」
B:「権利とは、義務を果たさなくても享受できるもののはず・・??」
C:「そもそもですが、うちの団体では子どもの意向を尊重しています」

「義務とは、権利とは」という認識が擦り合わないと、「教育の権利をどう担保するのか、不登校の子どもの権利は何か、何を優先順位に話を進めるか」という議論がかみ合いません。そして、その議論は必要なのか?という認識も擦り合っていないと、議論が空転してしまいます。


共通言語が大切になってきた背景

以前も大切だった共通言語ですが、近年、よりその重要性が増しています。理由は3つあります。

●多種多様な人と協働することが増えたから。

●協働する人数が増えたから。

●社会の変化のスピードが早くなったから。

一つずつみていきます。


●多種多様な人と協働することが増えたから。

もしかしたら、以前は、「今週中=金曜日18:00」という図式が、成り立ちやすかったかも知れません。全員が同じ組織、同じ職場で働き、平日5日勤務して、土曜・日曜はお休み。同じ働き方をしているチーム内であれば、「今週が終わるのは、金曜日18:00」という共通の認識が育ちます。

しかし今の時代、特にソーシャルセクターの人々は、多種多様な人々がチームを組み、活動を進めます。NPOで平日5日間働くスタッフ、学校とバイトの合間に参加する学生インターン、平日は会社勤務し週末に参加するプロボノ、土日のイベントをメインに活動し平日にお休みをとる業務委託のフリーランサー、育児や介護といった時間の隙間で働くパートさん、海外から時差を気にしながら参加するアドバイザーなどなど。多様な働き方をする人々にとって、「今週中」にそれぞれの理解が存在します。

どの立場で働く人が聞いても、だいたい同じ認識になるように、言葉の使い方を工夫していくことが大切になってきています。


●協働する人数が増えたから。

以前はもしかしたら、同じ組織の5名が中心となって活動を進めていたかも知れません。その時には、多少言葉の使い方にすれ違いがあっても、気付いた時点で修正が容易でした。

最近は、多種多様な人がたくさん集まって活動を進めていきます。10名や20名のステークホルダーが、それぞれのタスクをそれぞれのペースで進めている時に、「認識が違っていた!」と気付いた時の手戻りは、思いのほか膨大になってしまうのです。すでに進めているタスクを再度調整し直すために、全員とコミュニケーションをとり、変更時のメリット・デメリットを洗い出しながら、最終的にどうするのかを意思決定し、それを間違いのないように全員に周知する。憤慨する人やしわ寄せを受ける人へのフォローアップもしていく必要があります。こうしたごたごたの中で、ボランティアや厚意で関わってくださっていた方が、モチベーションが下がって離脱することもあります。想像するだけで胃がキリキリしますね。

人数が増えて来た時にこそ、伝言ゲームになったとしても、ある程度認識が擦り合い、意図が伝わるコミュニケーションが重要になってきます。


●社会の変化のスピードが早くなったから。

VUCA時代と言われるだけあって、変化も早く、状況も変化し、それに対応していくことが求められます。先の見えず、情報が交錯し、状況がどんどん変化し、何が正解かは誰も分からない。そのような中で、何かしらの判断をして、活動を行っていくことになります。

「一刻一刻と変化する状況の中で、何を変えずに、何を変えるか。」

正解はないとは言えど、チームで一丸となってゴールに向かっていくためには、コミュニケーションの受け手に理解し、納得してもらうことが大切です。限られた時間の中で、適切な言葉を使ってコミュニケーションしていくことになります。

なぜこの判断をしたのか。何のためにこれを止めて、これをするのか。方向性は良いとして、具体的に各自が何をすべきなのか。

普段から活動への認識が擦り合っていることで、的確に伝えることができます。自分たちは何を目的にこの活動を行っているのか、対象者は誰なのか、それはなぜか。成果は何か、それはなぜか。こういったことに普段から答え、チームの認識が擦り合っていれば、現状の変化を鑑みて、どこをなぜ変えるのか、が伝わりやすくなります。

例えば、明日のイベントの参加者の入場規制と条件を、コロナの感染状況の広がりをみながら主催者本部が判断し、SlackやSNSにてスタッフや関係者へ伝える。現場においても柔軟な判断が必要になるかも知れない中で、現場のメンバーに納得してもらい、参加者とコミュニケーションしてもらうのか。それぞれの想いがある中で、互いに意図を揃えてコミュニケーションしていくことが大切になっていきます。

※VUCA
Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字から取った言葉で、変化の激しい予測しにくい状況のことです。


誰と誰の共通言語なのか?

共通言語を、その事業に関わる関係者が共有し、コミュニケーションを円滑にしていくことが望ましいです。
毎日何度もいつも使うあの言葉、互いに意図を合わせて使えていますか?

●活動を行っているチームと関係者

まず、事業を実施している団体のスタッフ・理事たち。
活動現場を支えているボランティアやインターン生。
一緒に活動する地域の人々。
活動を支えている支援者、資金を出している財団。
資金集めをしているファンドレイザー。
事業全般をサポートしている伴走支援者など。
多数の人が事業に関わっています。全員とまではいかなくても、普段からコミュニケーションを図るメンバーでは、共通言語を設けておくことで、コミュニケーションが円滑になります。


分野やソーシャルセクター全体

NPOの活動は、公益性が高く、財団や公的な資金によって運営されているものも多くあります。一つの団体が行った活動のノウハウや成果を、他団体や行政と共有し、他の地域や全国で、困っている人々へサービスを届けていくことが求められています。

そのためには、該当する分野やソーシャルセクター全体で共通言語を設けておくことで、コミュニケーションが容易になります。

言葉の使い方、フレームワークなど、いくつかの共通言語を使うことで、認識の擦り合わせる手間を省き、的確に言葉をキャッチボールしながらコミュニケーションを図っていくことができます。

例えば、「子ども自尊心」という言葉は大きな言葉ですが、以下のようにブレイクした具体的な表現を用いてくれることで、その団体における「子ども自尊心」という意味を掴みやすくなります。

「子ども自尊心」を、私たちの団体では、3つに分けています。
●居場所を持っている。その子らしくいられる場所がある。
●自分の存在を肯定している。必要以上に恐れることなく生活している。
●「自分にもできる」と感じている。できないこともトライし、できるようになっている。

※架空の団体の例です。

自団体なりの言葉の使い方をしても良いですし、子どもの分野ですでに定型化した分類や表現があれば、それをベースにしても良いでしょう。

全体として項目が洗い出せていれば、それはフレームワークとして使う事ができます。例えば、全体ABCDEFGの7つを提示しながら、自団体はCDFGの4つに取り組みます、と宣言することで、全体の網羅感と自団体の注力ポイントが伝わり、コミュニケーションが容易になります。
分野の共通言語としてABCDEFGがあり、それがフレームワークとしても機能します。


共通言語をどう作る?

最後に、チームの中でどのように共通言語を作り、育んでいけば良いのかを整理します。

●言語化する
とにかく言葉にして書き出すことです。ホワイトボードに、メールに、SNSに、具体的に言葉にして書いていきましょう。「我々が大切にしているもの」という表現で止めずに、「我々が大切にしているAとBとC」というように、具体的な言葉を使ってコミュニケーションしましょう。言語化されると、それがしっくりくるのか、違うと思うのか、周囲から反応が返ってきます。それが、認識の擦り合わせの開始の合図です。

●用語集をつくる
普段、よく使っている言葉をピックアップし、用語集を作ってみましょう。毎日みんな使っていても、意図が擦り合っているかどうかは以外と気付かないことも多いです。「なんとなくニュアンスが違うな~」と思っていても、忙しさにかまけて口にしないことも多いです。改めて、「用語集」としてまとめることで、「そうだ!」「ちがう!」と議論が始まります。
この用語集は、新しくチームの参加する方には非常に役立ちます!ぜひこの機会に作ってみましょう。

●図・絵・ストーリーを使う
文字で書くことでしっくりくることもありますが、抽象的なものや概念的なものは、図やストーリーなどで表現するのも良いです。「そうそう!」という反応が得られたら、チームの認識は擦り合っていることが分かります。言葉や文字だけでは、ニュアンスや概念を伝えるのに限界があります。絵や図やストーリーなど、文脈を添えて表現することで、イメージを共有しやすくなります。


共通言語を作るプロセスに、おそらく終わりはありません。言語が徐々に進化するように、同じ言葉であっても使うメンバー、タイミングによって変化していきます。日々のコミュニケーションの中で、言葉をていねいに使って互いに認識を擦り合わせていきましょう。適切なコミュニケーションによって、信頼関係を育み、ゴールを目指してチーム一丸となって進めるといいですね!

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社会的インパクト・マネジメントを共通言語に

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
皆さまもチーム内で、組織内で、共通言語を意識してみてください。

そして、そんな「共通言語」を、ソーシャルセクターにも作っていきたいのです。近年、ますますステークホルダーが増え、様々な人がソーシャルセクターに関わるようになってきています。ソーシャルセクターでよく使う用語、特殊な表現、そもそも社会的インパクトって何?ふわふわしているので言語化しにくい。。いくつかの共通言語とフレームワークを使って、認識を擦り合わせていけるといいなと思っています。

社会的インパクト・マネジメントでは、よく使う言葉と、事業におけるフレームワークを紹介しています。これらをソーシャルセクターにおける共通言語にしていきたいと思っています。

以上


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