【with wedding vol.10】「個のエンパワーメント」という流れが結婚式の世界と組織の未来を大きく変えていく

※株式会社リクシィ代表安藤が寄稿したウェデングジャーナル
連載号:2018年3月号 第79号 の内容を転載しております。

採用と定着、どちらに関心がありますか?

2017年12月21日に開催されたウエディングジャーナル主催の「ブライダル経営者サミット-"大予測&超対策”-COUNT DOWN2018」で、「ブライダル業界版 働き方改革」のパネルディスカッションをモデレートさせていただきました。その冒頭で、聴講されている皆さまに「採用と定着、どちらに関心がありますか」と質問したところ、8割以上の方が「定着」と答えられたことに驚きました。(自分のイメージでは半々くらいかな?と予想していました)

働き方改革というと、労働時間や有給取得率、産後のママ社員の処遇などが話題になりやすいですが、今回はちょっと違った角度から、未来の組織イメージについてお話したいと思います。

個のエンパワーメントという流れ

今までの会社の姿というのは、会社ありき。会社の指示に対して社員は義務を果たさなければならない、代わりに会社は報酬や地位などの待遇でもって社員に還元する、という関係性でした。これが、「人手不足」「インターネットの発達」「価値観の変容」という3つの要因から、徐々に変化していくと考えられます。

「人手不足」とは、労働者優位になるということ。会社が働き手を選ぶのではなく、働き手が会社を選ぶということです。魅力的な会社に人は集まり、そうでない会社からは人は去っていきます。社員は会社の指示に応じるのではなく、社員がやりたいことを会社が支えていくという関係性に変わっていくでしょう。

「インターネットの発達」とは、会社に所属していなくても、個人で情報発信ができるようになったということ。ブライダルで言えば、広告を出さなくても、ヘアメイクアーティストがinstagramで顧客を直接獲得できています。しかも、商売っ気がない方が支持が集まるという構造。インターネットにより、会社に所属する必要性が下がってきているとも言えるでしょう。その意味では、既存のプレイヤーの発信は非常に弱いなと感じています。

「価値観の変容」とは、どれだけお金を稼げるかよりも、どれだけ価値のある仕事をできるかの方に、軸足を置く考え方です。管理職になりたくない社員が増えているという話は、若者のやる気がないとか、経営努力が足りないという捉え方もありますが、それよりも、自分がやるべきと考えていること、やりたいことを優先したいからというのが本質ではないかと思います。

これらはすべて個のエンパワーメントという流れで捉えることができるでしょう。

中国で進む信用スコアという概念

中国では、芝麻信用というサービスが個人の信用度を数字で算出しています。ネットショッピングの振り込みや決済をしっかりやっているかどうかや、犯罪歴などから、その個人を信用できるかどうかをスコアで表現されるのですが、それで融資や採用にも影響するということで、警察に捕まるよりも、信用スコアが下がることの方が痛いと、犯罪が減っているとも言われています。この概念がどこまで日本で普及するかはわかりませんが、SNSはそれに近い側面がありますし、個人が社会に評価される方向にシステムが向かっていくのは自然な流れと考えられます。

結婚式の世界ではどうなるか

カスタマーから見ると、その結婚式場の情報はあくまでも「会場」がメインで、そこで仕事をしている個々人の顔は必ずしも見えてきません。会場の立場でも、社員の顔を見せても、指名がくるわけでもなく、親近感の表現にとどまっているのが実情ではないでしょうか。それが、今後は変わっていくことになります。

優れたプランナーがいるかどうか、プランナーのみならず、優れたクリエイターがどれだけいるかがその会場の評価軸になっていくでしょう。カスタマーの関心がそこに寄せられ、可視化されるサービスがインフラとして広まると考えられます。

そうなると、集客のあり方も変わります。今までは、「広告」「口コミ」で問い合わせが来て、プランナーが「新規接客」で申し込みをいただくという流れでした。これが、優れたプランナー、優れたクリエイターに問い合わせがきて、そのプランナー・クリエイターが所属している会場に申し込みが入る、という流れになるはずです。結婚式場では1組の成約にかかる広告費が15~30万円という状態かと思いますが、そのコストを広告に支払うのではなく、クリエイターに支払うことになるでしょう。

クリエイターの立場では、優れたスタイリスト、フローリスト、ヘアメイクアーティスト、フォトグラファー、ビデオグラファーになり、カスタマーから直接指名をされる状態になれば、結果としてビジネス上のうまみもでてきます。年収1000万円級のプレイヤーが出現してもおかしくないでしょう。

クリエイターと話をしていると、「ブライダルでは仕事をしたくない」という話をよく聞きます。「作品にこだわれない」「ベルトコンベア的な仕事の仕方を求められる」「ギャラが安い」という観点で敬遠しているという方が少なくありません。ですが、そのような変化が起こると、優れたクリエイターがどんどんブライダルに参入し、ウエディングの質が圧倒的に変わり、「感謝を伝えたい」という概念から、「オシャレなパーティをしたい!」という方向に自ずと向かうと考えられます。

働き方改革は、中小企業にこそチャンス

今のブライダル業界では、チームプレイや和を重視する会社が多い印象をもっていますが、個を重視する会社が生まれてきた時、競争関係が圧倒的に変化する可能性があります。社会が大きく変化する環境下では、大手企業よりも、中小企業の方が有利になるでしょう。1人に対する取組が1000人、2000人に影響すると考えると、変化をすることがどうしても慎重になるからです。働き方改革というと、大手企業の方が受け皿がつくりやすくて有利という側面はありますが、中小企業だからこそ柔軟かつスピーディに変化できるという強みがあるはずです。そんな事例が次々に出てくる産業になれば良いなと思います。

安藤 正樹 - Masaki Ando
株式会社リクシィ代表

花嫁の不安を“トキハナツ”式場探し「トキハナ」を提供するウエディングプラットフォーム事業、ブライダル企業の事業をサポートするブライダルコンサルティング事業、ブライダル特化の人材紹介サービス「リクシィキャリア」などを提供するブライダルビジネスサポート事業を柱に展開。
ブライダル業界の構造改革、結婚式であふれた世界を創ることを目指しています。

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