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魅力的なNYの美術館の話

写真:ザ・クロイスターの南景

今回のテーマ:美術館
By   阿部良光


アートといえば昔からパリ、ロンドン、ベルリンと相場が決まっている感があるが、NYのアートシーンは世界でも稀有な感じがする。ピンからキリまでというか、本当にゴミか作品かわからないものまで展示されるし、だから自分の嗜好でアートかジャンクか決められる良さがあるとも言える。 そこでセオリー通りに、ここでは皆がわかる美術館巡りをしよう。

NYの美術館はひと昔前までは、規模で言えばメトロポリタン美術館、現代性ではNY近代美術館、斬新性だとホイットニー美術館とグッゲンハイム美術館、そして社会的メッセージ性の強い作品を展示するニューミュージアムと、それぞれが際立った特徴を持っていた。が、最近はキューレターの好みからか、人気を追求する傾向からか、この特性というかキャラもボーダーレスになって、昔のはなし化してきたようにも感じる。

世界三大美術館の一つに数えて間違いないMETの規模、広さと所蔵品、5千年の昔からの作品を例えばエジプト、アジア、アメリカ、コスチューム、写真館などと、17のセクションに分けて展示できるのは、凄いとしかいいようがない。科学的に最新の技術を駆使した修理修繕部門の充実も素晴らしい。そして2016年にはダウンタウンに移転したホイットニーのビルを買い上げ、メット・ブルーアーとして現代/モダンアートの展示を開始したが、2020年にはフリック・コレクションに賃貸している。

国吉康夫、藤田嗣治、猪熊源一郎、近くでは荒川修作、草間彌生や横尾忠則と、現代日本人アーティストの所蔵品も多く、建築家の谷口吉生氏による改築後、西側に通称ゲッフェン・ウイングができ、ゆったりと広く便利になったMoMA。展示法もカテゴリー分けをせず、時代ごとにペインティングや彫刻も一緒に見せるようになった。その改築時に作品保持などで使われたクイーンズの施設がそのまま分館になり、さらに実験的な展示をするP. S. 1も人気だ。

ホイットニーはアッパーイーストサイドから80年代まで、ミートパッキング・エリアだったチェルシー地区移転後、場所柄、若者の客層も目立つ。展示回数もスペースも旧館時代よりは数段増えた。20世紀美術の多彩な保有数を誇り、最先端アメリカアートを発掘する2年に一度のビエンナーレ展は、世界の美術の動向を決めかねないそのキューレターを、誰が務めるかでも話題になる。

フランク・ロイドによる建築であまりに有名なグッゲンハイムは、スパイラル展示は好き嫌いは別にして特徴的だ。設立者ソロモンの姪ペギーの名を冠したヴェネツィアにあるコレクションやスペインのビルバオのグッゲンハイムは、現代建築の雄フランク・O・ゲーリーだ。あまり話題にならないが、メキシコ第二の都市グアダラハラにも2011年グッゲンハイムが完成した。 2007年に新装なったニューミュージアムは、さもありなん、創立者のマルシア・タッカーは、前衛的なホイットニーの元キューレター。日本人建築家グループ、セイジマ+ニシザワ/SANAAが、今では比較的見ることが多くなったが、ちぐはぐにブロックを積み上げた特徴的な形をしているデザインで、コンペティションを勝ち取った。 と、記憶にある素人解説をしてしまったが、NYで好きな美術館と問われたら、それぞれ全部を挙げたいが、日頃のお世話に感謝し、自分のジョギングや散歩コースにある、ザ・クロイスターズを挙げよう。

文字通り修道院の佇まい。 1938年オープンした同館は、ロックフェラー・ジュニアが自分の収集品とクロイスターの建物そのものをメトロポリタンに寄贈した。その故あって、周りの景観も崩したくないと、ハドソン川を挟んだニュージャージー州の対岸一帯まで買い占め、現在まで殆どそのままの景観で残っている。以来、メトロポリタン美術館の分館として、80−90年代初期までは殆ど日本人は見なかったが、最近は多くの日本人観光客も足を運ぶようになった。

所蔵作品で有名なユニコーンのタペストリーは、世界最高数を誇る。この修復作業をしたのが日本人修復師の元に集まった、日本のプロを含むボランティア集団だったと聞いている。一方で手入れが行き届いたた中庭のようなハーブガーデンも有名だ。中世では修道院が一般市民の健康管理を司る公的機関で、当時、薬として使われた珍しいハーブたちが、春から夏にかけて香りを放っている。 展示品は中世、12−15世紀のフランス、イタリアとスペイン、そしてギリシャの棺など2千品目に及ぶ。

ステンドグラスを通した光にも癒される。 マンハッタンの中でも明媚な北端に位置し、四季それぞれの景観も素晴らしい。冬の積雪時などは、日本の鄙びた寺院をも彷彿させる静謐感がある。 これら美術館を始めNYのギャラリー群も見逃せないが、ぶらりと訪れるアート巡りは、人生に少なからずの厚みと潤いをもたらしてくれると実感する。そしてこれがNYに住む大きな理由の一つになっている。



[プロフィール] 1980年10月自主留学で渡米。しょうがなくNYに住み着いた、”汲々自適”のほぼリタイアライフ。

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