2024/02/27 桃の芽かき(もものめかき)
「桃の木の剪定をしないか?」
「いや。そんなの知らないし」
父からの提案を即座に蹴る。地域で作ってる農業組合で今年から桃もやるとは聞いたが、私がやる予定はない。
「本家くんの仕事なんじゃなかった?」
「あいつはやる気がない」
それはそうだろう。じいさ……こほん。高齢男性の集まりで40近い年齢であっても発言権はないどころか新人扱い。まして、本家くんはまだ数年の本当の新人だ。
『男は偉い。一生懸命頑張れば認められる』
そんな昭和の価値観をゴリゴリに刷り込まれてるのに、時代は頑張れば頑張るだけ搾取されていく仕事ばかり。そんな時代の洗礼を受けて『今の時代に合わない価値観』だと分かっていても、本家くんはその『一生懸命頑張れば』を捨てられない。
そんな人間が陥るのは『鬱病』だが、うちの父も近所の高齢男性も『鬱なんて甘え』という昭和の価値観を押し付けてくる。近所でも40代より下の世代は病んでいる人はそれなりにいるようだが、隠している。バレたところで『甘え』の一言で一蹴だからだ。
本家くんの『やる気がない』のも病気ゆえで、本人の性格はいたって真面目だ。子どもの頃から知っているのだから分かる。
しかし、子どもの頃を知っていても高齢男性たちは「あんなやつとは思わなかった」と、まるで病気の状態が本当の姿だと思ってるようだ。
桃の枝を切って、実に栄養と環境を与え、一つ一つを大切に育てる。
桃に対して必要とされていることは、人間に対しては与えられていない。不要な芽をとる様に高齢者たちの発言も本家くんの傍から取り除けばいいのに。
桃の芽かきならぬ、老人の声かきが必要だ。
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