2024/02/23 呱呱の声(ここのこえ)

その赤子は呼吸をしなかった。
口に詰まっている羊水などをかき出し、逆さまにするとやっと弱々しく泣いた。それきり、体を震わせ黙った。

誰もが赤子は死んだのだと思った。尻を叩き、身体に刺激を与えても、赤子はそれ以上の声を出さなかった。

「生きている」

赤子を取り上げた産婆は不思議そうにそう呟いた。

声をあげなかった赤子を母親は酷く心配した。しかし、赤子はすやすやと眠るような呼吸をするだけで、目を開けない。

それが十カ月十日とつきとおか続いた。

「ああああぁん」

まるでその日、母体から出たかのように赤子は泣いた。

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