2024/06/19 「朗読の日」 

「あめんぼあかいな」

「おいしいな」
変な言葉が混ざり込んできたが、韻が上手く合っていてそれでもいいかと思ってしまう。

「うきもにこえびも」
「たべたいな」

私は読むのをやめて、声の主を見る。
「小エビもおいしいなが良かった?」

小さな瞳がくるんとして可愛いが、顔は小悪魔だ。

「邪魔してるの? 遊んでほしいの?」
「どっちも。小エビ食べたくなっちゃった」

彼女はそう言って冷蔵庫を開けた。

「人の家の冷蔵庫を開けるな。他に言うことは?」
「お邪魔してます。同居人さんはどちらですか?」

「出かけてるわよ。今日はレイさんとって……あなたは呼ばれてないの?」
彼女はきょとんと私を見る。
「何に?」
手にはアイスのカップを持っている。私が楽しみにしていたアイスを平気で食べようとしている。

「映画見に行くって」
「えー。兄貴ずるうい。ズルいから、アイス貰うね」

「それ、私のよ。あんたの兄のではない」
奪い返そうとしたが、それよりも先に彼女はぺろりと封を開けてスプーンで中身を掬った。
「おいしい。幸せ。私、この家で十分楽しい」

私はため息をついて、朗読をやめた。
「やめるの? もっと聞きたいんだけど?」
彼女は意外にも私の朗読を聞いていたようだ。

「じゃぁ。こっち」
私はスマホを操作して、動画を流す。以前、依頼されて出たボイスドラマのものだ。もちろん端役で二言しかセリフはない。素人作品なので、そこまで上手い出来でもないが、気に入っている。

「いつもこれだね。たった二言なのに」
「たった二言でも私の作品だもの」


「じゃぁ。私の為に、一人全役でやってみて」

彼女はとんでもないことを言い出した。
「セリフなんてわかんないわよ」
「嘘。全部入ってるくせに。知ってるんだから、一人で……」

「わーーあ。ストップ。わかった。わかったから。今だけね。それに同居人には内緒ね」

一人でラブロマンスものを演じてるなんて恥ずかしすぎる。でも、同居人に知られるのはもっと恥ずかしい。

「いいよ」

彼女は小悪魔の笑みで、動画を止めた。


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