2024/03/29 鐘霞む(かねかすむ)

鐘が霞んで見えることではなく、春ののどかさが鐘の音を霞ませる、という意から。のんびりとした空気に包まれた風景が目に浮かぶ。

鐘の音がまるで夢の向こうから響いてくるようだ。

「起きてぇぇぇぇ」

耳元での轟音に私は飛び起きた。
「火事いいいぃぃ。どうしたらいい??」
同居人が泣きそうな顔で私を覗いている。遠くに聞こえたと思えた鐘の音は意外と近くでカンカンとなっている。それだけではなく『ウウ―』というサイレン音も混ざっているので、これは消防車の音だ。

「何? テレビ?」
「ノオオオオ。ファイア×△〇つち……%$&」
ファイアの次の言葉は聞き取れなかった。英語と他の言語と、よくわからない日本語が混ざっていて、同居人が焦っているのは分かる。
そう言えばなんだか、煙臭いような?

同居人が必死に指さす方は玄関なので、外に出て見ることにする。そこでやっとわかった。火事はお隣さんだ。お隣と言っても道路を挟んだ向こう側。
すでに消火活動が始まっていて、火は見えないが煙が出ているのは見える。でも、その煙が白い。

白い煙は水蒸気。有害なものは燃えてないという事は、家が燃えているわけではない。私は人垣を眺めながら、ご近所さんを見つけ出し話を聞く。

「ああ。庭の焚火が少し広がったみたいだけど、向こうの方が燃えたらしい。見たいなら、向こうに行った方がいいよ」

そう言われて家の向こう側に行ってみると、田んぼの半分が黒っぽい焦げ跡になっている。範囲は広いが、火自体は燃えるものが無くなると消えている。こちら側は田んぼしかないので、野焼きみたいなものだ。

「はぁ。参ったよ。誰かが通報したみたいでね。ちゃんと火を見てたし、範囲も広げてない。向こうに広がらない様に、うちの場所以外は先に境界を引いたのに」

確かにこの家の田んぼ以外には燃えないように境界の草はなくなっている。
「灰は必要だけど、もう、無理だな」
お隣さんがそうぼやいてため息をついた。

どうやら火事ではなく野焼き通報されたらしい。思ったよりも大きな騒動になってしまうとご近所さんからも「やめろ」と言われてしまう。野焼きが必要な場所もある事を知らない人たちは『野焼きは違法』だという。
必要なのは『火の管理法』で、『野焼き排除』ではないのに。

化学肥料より自然に優しい肥料が違法になる意味はなんだろうか。



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