2024/02/09 「肉の日」

「お肉ううう」

まるでアニメキャラクターのように肉に食いつく姿に呆れてしまう。
「誰もとらないし、そのステーキはあんたのものよ」

私はツンツンとお皿を突く。合成肉の原料は豆だ。今は本物の肉を食べることができる人は限られている。

「おいしぃいい」
彼のその声は幸せに満ちている。合成肉でさえ手に入らなくなってきている。この肉も三か月ぶりだ。

「よかったわね」
私も一口、口に入れる。口に入れた分は飲み込んで、お皿を彼に差し出す。
「これも、どうぞ」
肉の質が落ちている。元々、豆臭さは若干残っていた。それが最近ますます、『豆』である事を隠しもしなくなっているような気がする。

「いいの?いいの?」

本当の肉を口にしたことがない彼は、これを肉だと思っている。いつもの野菜臭さはない。水分の代わりに、油がジワリとしみだしてくる。脂身部分もあるそれは見た目はたしかに『肉』に見える。

「いいわよ」
でも、それは豆だ。本物の肉と比べてしまえば、違いは一目瞭然。これを食べることができるのは本物の肉を知らない人間だけ。

だからこそ、人は肉を求めて争っている。本物を食べることができるのは……。


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