2024/08/03 「はちみつの日」

それは不思議な香りの付いた煙だった。焚いているのは香木の一種だというが、木の匂いとは思えない海のような香りがする。

それをまとうと彼は蜂が飛び交う中に入っていった。私はそれを眺める。蜂は彼に攻撃するでもなく、ただ飛んでいる。蜂の巣の入った箱から巣を取り出して分離機にかけて、蜜だけを絞ると彼は巣を元に戻した。

蜜を手に彼は無傷で戻って来た。

「すごいね」
どこを見ても刺されている様子はない。思わず言ってしまった言葉に彼は少し笑う。
「すごいのは、叡智を集めることができる蜂たちだよ」

叡智の光と言われるハチミツ。それを集める蜂たちは叡智の収集者で、それをとることができる人たちは賢者だけ。
そう聞かされてきた私は、目の前に実在している賢者をまだ信じられないでいる。賢者以外がハチミツをとろうとすれば、叡智を守る蜂から攻撃を受けて、下手をすれば死ぬこともある。

「でも、すごい」
私はもう一度繰り返した。
「すごいすごいじゃなくて、ここからは手伝って。君もそのうち、ハチミツを取りに行くんだから」
「はーい」
私は後半を聞かなかったことにした。私がここにいるのは賢者候補としてだけど、ハチミツを取りに行く前には抜け出そうと思っている。
だって、蜂に認められなかった賢者候補は……。

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