書くことはやめない

 長い素敵なお手紙、読ませていただきました。

 私も多くの物語に触れました。あなたのように自分を成長させてくれる物語にも出会いました。ですが、私の成長は架空の物語よりも現実に出会う人、現実に出会うもの、現実に起きた事によっても促されてきました。物語の成長は、時に『わかった気になるだけのもの』も多いのです。どうか、『体験』してください。触れて見て味わって感じて、それらがあなたの成長をより強く促します。

 また、先生という言葉もありがとうございます。一時の『先生』になれたのだとするなら、それは一時の嬉しさになります。ですが、その感動や尊敬はそれほど長く続かない事も知っています。あなたの先生は何人いるのでしょうか。あなたが多くの『先生』に出会えることを祈ってます。

 あなたの手紙はとても素敵でした。物語に接して、自分の心がどう動いたのか、自分がいかに幸せになったのかを語ってくれて嬉しいと思います。どうぞ、同じように他の作家様へその手紙を送ってください。その手紙に心動かされる作家様もいらっしゃるでしょうから。

 ですが、私にはとても悲しい手紙でした。

 そして、あなたの手紙で決心がつきました。私は私の物語を私の中に仕舞うことにします。多くの人に見てもらって、多くの人の涙と笑いを誘っても私の心は空しくなります。それが私の欲しいものではないからです。

 私が欲しいのは私の幸せなのです。そしてそれは、たくさんの人に読んでもらっても得られるのもではないのだと気が付きました。私は貪欲なので『ただ一人のための幸せ』で充分なのです。
 それは私です。私は私のためだけに私の物語を語りたいのです。その為に私の物語が汚されるのは許せないのです。

 あなたの手紙のように『作者(相手)が喜びそうな言葉』だけを並べた手紙をもらうことなど許せないのです。そんな作品を他者の目に触れる場所に置いたことも許せません。

 どうか私の『物語に触れる幸せ』を邪魔しないでください。

 私は二度とあなたの目に触れない場所で、一人で静かに物語と戯れたいと思います。あなたはあなたの世界で『あなたを成長させる新しい物語』に出会ってください。

 もしあなたが本当に私の物語に感動したというのならば、『どんな物語』なのかを具体的に書くでしょう。
 もしあなたが私に自分の事を知ってほしいと思うならば、『自分は何が一番好きだったか』『何が嫌だと思ったか』を書くでしょう。
全てを好きというのは難しいものです。

 ですが、あなたの手紙もまた、事実なのでしょう。その事実は『誰もが喜ぶ言葉』にあふれています。あなたが『誰かを喜ばせたい気持ち』があふれているからでしょう。その気持ちは大切にしてください。

 私の物語を読んだあなたなら私がそんな事で喜ばない事もわかっていると思います。

 あなたはただ『褒めてもらいたい』のでしょうか。私にはあなたを褒めることはできません。『誰かに褒められる言葉』よりも『誰かに自分を伝えたい言葉』の方が私は人間らしくて好きだからです。
 また、あなたの『伝えたい事』が『書くことをやめないで』ということならば、大きなお世話です。私はあなたのためには一語も書いていません。
 私の物語からそれを感じ取ってもらえなかったことが残念でなりません。

 私はただ私のためだけに物語を紡ぎたいので、そっとしておいてください。誰かに感動してもらうためでも、成長してもらうためでもなければ、誰かの役に立ったり、慰めたり、褒めてもらうためにも書いていません。

 それでも『この物語を書く人に、自分のすきなポイントやきらいなポイント、ささいな日常と物語が重なった事などを知ってほしい』という事があれば、それは私の書く励みになることもあるでしょう。
 次はそのような言葉を他の作者に伝えてあげてください。

               二度と作品を公開しない作者より

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《作者ボヤキ》
ひねくれてますねぇ。ええ。ひねくれてますよ。
でも、『書いてくれ』って大きなお世話です。書き続ける事の恐怖を持たない向こう側の人の意見は要らないのです。

こういう考えだから、感想が嬉しいという気持ちがわからないんですよね。教科書のお手本のような感想なら尚更、落ち込むだけです。

※これはあくまでも『創作』で、誰かからこのようなメッセージを貰ったことはありません。

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