2024/08/08 鮎の宿(あゆのやど)

山間部の渓流に来たのは、同居人がアユを食べたいと言い出したからだ。
この暑さの中でも山はまだ涼しさを感じる。さらに水につける足は体を冷やして心地がいい。

「行き来できるのは、あちらとこちらのロープの間までです。それ以上向こうには行かないでください」

イベント参加のため、そんな注意が飛び交う。もちろん、事故があってはいけないのだが、気分が半減してしまう。ロープの間は川幅も広く水が緩やかで深みがない。一応、監視員らしい人が四隅にいる。

アユのつかみ取りも出来るが、大半が網を借りてそれを手に川に入ってる。

「とったぁ」
同居人の軽快な声が響いた。あまりにも大きな声で恥ずかしくなる。

「とった。とったよ。ねぇ。見てみて」
まるで子供のように掴んだアユを見せてくる。私はバケツを同居人に差し出す。
「わかった。わかったから入れて」

アユをつかみ取りした後は、焼いて食べる。
焼くのはイベント側でやってくれるらしい。目の前で火を起こして魚を指してくれる。ちょうどいい感じになったところで、皿に乗せてくれた。

「おいしそう」
同居人はそのまま串を持ってパクリとかじりついて叫んだ。

「あっちいいい」
うるさい。声が全部響いている。あちこちからクスクスと笑い声がする。先ほどからやたらと目立ってる気がしてしまうが、向こうでも子供が同じように叫んでいた。あの子もさっき、川の中で大暴れして賑やかだった子だ。

私は数口食べてから、串を外す。上の身を食べてから、骨を外して残りを食べる。

「綺麗に食べるわねぇ」
イベント参加の他の女性が声をかけてきた。その人のお皿を見ると、骨も身もぐちゃぐちゃだ。
「ほんと、すごいよ」
同居人もそう言ってくる。彼は串に刺したまま食べているので、骨が出ている。意外と綺麗に食べているなと思う。

「骨をとれば、綺麗になりますよ」
「それが難しいのよねぇ」
そう言いながら上の身を付けたまま背骨を抜こうとしている。それは無理だと思ったが、黙っておく。

周囲を見ると、意外と骨と身を分けてる人は少なかった。

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