2024/07/30 「人身取引反対世界デー」

「今日、行くところがないの? だったら、ウチくる?」

私に手を差し出してくれたのは、綺麗な髪の男性だった。私が答える前にお腹がぐぅと答えた。
「ああ。わかった。ご飯ね。先にご飯いく?」

私は少し考えて首を横に振る。
「眠りたい? それとも、お風呂?」
慣れてるなと思う。私はそれにも首を振る。

「来ないの?」
男の声に怒りが混ざる。ああ。わかりやすくて助かる。私はもう一度、首を振る。

「そっか。残念」
怒りのままに男は私の足を蹴って去って行った。マシな方だったなと思う。無理やり連れて行こうとしたり、暴力をふるったり……大抵はそんな感じだから体に触られる前に走る態勢は整えてる。人ごみに紛れれば逃げやすい。

けど、今は誘惑にかられそうになるくらいお腹が空いている。石でも舐めたら美味しいだろうか……それとも、髪の毛……お腹がすくとろくなことを考えない。


「大丈夫?  ケガしてない?」
次に声をかけてきたのは女性だった。またか……と思う。ここ最近、私みたいな家出少女に声をかけてる支援団体ということだったけど、正直、面倒だ。まだ男の方が単純で楽。

「さわるな。関係ないでしょ」
私は立ち上がり場所を変える。


誰も関係ない。だから、こうなってる。
お腹がすいたら男が声をかけてくる。女性の生きづらさっていうけど、女性の方が楽だ。殴られないから。

男だとバレた途端、殴られ詐欺だとののしられる。だったら、放っておけばいいのにやる事はやる。
ボロボロになって寝転がってると「大丈夫? 手当しないと」と声がかかった。

いつかの女性の声だ。
「関係ない」

「関係なくない。痣になってるし、ケガしてる。手当だけでもしよう」
強引に引っ張られ、椅子に座らされて手当てを受ける羽目になった。


「こういうのやめた方がいいよ。危ないから。お腹空いてるならここに来な。どうしたらいいかも一緒に考えるから」

そう言われても頷けない。目の前には生理用ナプキンにコンドームが堂々と置いてある。

「いる?」
じっと見過ぎてたせいか、ナプキンが差し出される。
「いらない。必要ないから」
私は立ち上がる。

「こういうの人身売買と同じだから。だから、しなくていいんだよ」
最後に女性はそう言った。

知ってる。彼女たちは女性のために動いてる。私のためではない。だから、関係ない。


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