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筋繊維ごとのトレーニング(各筋繊維タイプの特徴)

筋力トレーニングを行ったり、スポーツ活動を行う上で、筋肉の繊維の種類、タイプを知り目的に合わせたトレーニングを行うことが重要です。

筋繊維タイプに関して、理論的な背景から特徴およびトレーニング方法をお伝えしていきます。

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1. 各筋繊維タイプの特徴
2.筋線維の比率と部位による違い
3.筋繊維タイプのトレーニングによる変化
4.筋繊維タイプごとのトレーニング

筋線維には大きく分けると遅筋(Type I)と速筋(Type II)という2つのタイプがあり、さらに、速筋線維は、持久性に富んだTypeⅡa線維と、持久性の低いTypeⅡb線維に分かれます。
※実際、TypeⅡb線維はほとんどヒトには含まれておらず、代わりに似た性質のTypeⅡx線維が存在していることが報告されています。

筋肉の断面を見てみるとこの3種類の線維がモザイク状に混在しており、どの筋繊維がそれくらいの割合を占めるかは、遺伝、筋肉の部位、またトレーニングの内容によって異なります。


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1.各筋繊維タイプの特徴

⑴遅筋線維の特徴

遅筋線維は出せる力に限界があり、大きな力は発揮できないものの、持久性に優れており、疲労しづらいことが特徴です。

遅筋線維(TypeⅠ繊維)にはミトコンドリアやミオグロビンが多く含まれており、酸素を使ってエネルギーを生み出す能力(酸化能力)に優れており、ミトコンドリアのチトクロームという物質やミオグロビンは赤く見える特徴です。そのため、TypeⅠ繊維は赤筋とも呼ばれています。

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ミトコンドリアやミオグロビンを多く含み、有酸素代謝に優れていることか、TypeⅠ繊維は長時間に渡って筋の収縮を行うことが可能です。

遅筋は速筋と比較して疲労耐性が非常に高く、1時間以上収縮させ続けても発揮する張力はほとんど変化しません。

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⑵速筋繊維(TypeⅡb/Ⅱx繊維)の特徴

速筋繊維(TypeⅡb/Ⅱx繊維)はエネルギーを素早く生み出す解糖系のエネルギー代謝に優れ、収縮する速度が高く、大きな力を生み出せることも特徴です。しかし、ミトコンドリアやミオグロビンの含有が少なく、有酸素代謝機能が低いだ疲労しやすい筋繊維です。

持久性の低いTypeⅡb/Ⅱx線維にはミオグロビンがほとんどなく白色で白筋とも呼ばれています。

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TypeⅡb(TypeⅡx)は収縮速度が最も高くTypeⅠ線維の約4.1倍、TypeⅡa繊維の約2.3倍ほどだとされています(Bottinelliほか,1996)。

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収縮速度が高い一方で、TypeⅡb/Ⅱx繊維は、持久力に乏しいため、約1分ほどしか最大収縮を維持できず、約2分後には最大収縮に対して10%ほどの筋発揮しか生み出せません。

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⑶中間筋繊維(TypeⅡa繊維)

TypeⅡa線維にはTypeⅠ繊維より持久力は劣るもののたミトコンドリアやミオグロビンが多いので、速筋としての白色と遅筋としての赤みが混合してピンク色を帯びており、ピンク筋とも呼ばれています。

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TypeⅡa繊維はTypeⅡb/Ⅱx繊維より収縮速度は劣るが、持久力には長けるため、最大収縮の維持はTypeⅡb/Ⅱx繊維より高くなります。

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以下の表に各筋繊維タイプの特徴を示します。

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2.筋線維の比率と部位による違い

筋線維のタイプの比率は遺伝的な背景が強くあると言われています。

双子の筋線維組成を調べた研究では、一卵性双生児の双子では、筋線維の組成がほとんど一致しています。一方、二卵性双生児では筋線維組成に違いがあることが報告されています(KomiとKarlsson,1979)。

トレーニングを行うことによっても速筋と遅筋の割合は大きく変化しないことが分かっています。とりわけ、TypeⅠ繊維からTypeⅡ繊維への変化は起こり得ないとされています。しかし、TypeⅡa繊維とTypeⅡb/Ⅱxの間ではトレーニングによって筋繊維タイプが変化することが言われており、これらのタイプ変化が後天的なトレーニング作用を及ぼすと考えられています。(詳しくは3に後述)



また、身体の部位によっても筋繊維タイプの比率の違いが見られます。特にヒラメ筋や前脛骨筋では、ヒトにおいて、ほとんどが遅筋線維です。

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これは、ヒラメ筋や前脛骨筋が抗重力筋として立位姿勢の保持や歩行など持久性がより求められるが故に適した特性であると言えます。

このような筋繊維組成の違いは、筋の機能的分担を行っていることが考えられます。


3.筋繊維タイプの変化

先述の通り、遅筋線維(TypeⅠ繊維)から、速筋線維(TypeⅡb/Ⅱx)へと筋繊維タイプが変化することは考えられていません。(一部のラットを使用した動物実験で、トレーニングにより、TypeⅠからTypeⅡbへの変化が認められ、筋繊維タイプ間の変化が示唆されていますが、一致した見解は得られていません。)

しかし、トレーニングによって持久性の低い速筋(TypeⅡb/Ⅱx )が、持久性の高い中間筋のTypeⅡa繊維に変化することは確認されています。(AndersenとHenriksson,1977)。

速筋繊維を刺激すると思われるスプリントトレーニングやストレングストレーニングにおいても、トレーニングを継続するとTypeⅡb/Ⅱx繊維がTypeⅡa繊維に変化すると言われています。

しかし、トレーニングを休止すると、TypeⅡaに移行していた筋線維は、再びTypeⅡbに戻ることが報告されています。

具体的な例としては、トレーニングを行った状態から6か月間の宇宙空間への滞在(トレーニング休止および重力による骨格筋への除負荷)を行ったところ腓腹筋のTypeⅡb/Ⅱx繊維が増加することが報告されています。

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*pre:前 post:後 detraining:トレーニング中止

つまり、トレーニングを行うとTypeⅡb/Ⅱx繊維は持久力に富んだ速筋繊維のTypeⅡaに移行し、トレーニングを中止すると再度、TypeⅡb/Ⅱxに可逆的に戻るということです。

このことから、瞬発系のスポーツにおいては、試合前などのdetrainingが有効であることの一因といえます。

*現状において、TypeⅡb/xからTypeⅡaへの移行は報告されていいますが、TypeⅠ繊維自体の増加や減少、TypeⅡb/Ⅱx繊維自体の増加や減少も起こりうることも近年報告されています。今後、そのような報告が増えると速筋繊維を増やす、遅筋繊維を増やすといった遺伝的な要素が大きかったところから後天的な要素が強く働く可能性があることも考えられます。


4.筋繊維タイプごとのトレーニング

このような背景から各筋繊維タイプごとにそれぞれ鍛えていくためにはどうしたらよいのか。

速筋から遅筋繊維へと変化させることは、現状不可能なものの、各筋繊維に特異的に刺激を与えることで、各筋繊維一本一本を肥大させ筋力の向上、各筋繊維タイプの機能向上をさせることができます。

⑴遅筋繊維(TypeⅠ)のトレーニング

TypeⅠ繊維は支配される神経が少なく、運動単位(同時に発火する筋繊維)が小さいと言われています。

そのため、筋収縮の強度が小さい場合、小さい運動単位つまりTypeⅠ繊維から多く筋発揮に動員され、60%ほどの筋収縮の強度を超えたところから速筋繊維が動員されます。これをサイズの原理と呼びます。

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また、TypeⅠ繊維は他の筋繊維タイプと比較し、非常に持久力に優れていることから、TypeⅠ繊維のトレーニングには、

軽負荷下で高反復のトレーニングを行うことが望ましいとされています。

ウェイトトレーニングの例では、12〜20reps挙上できるウェイトで12〜20reps反復するようなトレーニングになります。これらのトレーニングを3〜4セット行うことが有効です。

⑵中間筋(TypeⅡa)のトレーニング

TypeⅡa繊維のトレーニングは、サイズの原理から40%〜80%の筋収縮強度で行いつつ、持久性に富んでいることから高反復することが重要です。

ウェイトトレーニングを例にすると8〜12reps挙上できるウェイトで8〜12reps反復するトレーニングをすることです。これらのトレーニングを2〜3セット行うことが有効です。

⑶速筋繊維(TypeⅡb/Ⅱx)のトレーニング

TypeⅡb/Ⅱx繊維は、サイズの原理から80%以上の負荷で多く動員されます。

一方、速筋繊維は低負荷であってもエキセントリックな収縮(筋肉が無理やり伸ばされる筋の収縮様式)では、サイズの原理に反して多く動員されることが報告されています。

またTypeⅡb/Ⅱx繊維は持久性が乏しいため高反復のトレーニングでは動員されないのも特徴です。

そのため、TypeⅡb/Ⅱx繊維のトレーニングには、高負荷低反復のトレーニングもしくは、エキセントリックなトレーニングを行うことになります。

ウェイトトレーニングを例にすると、1〜5reps挙上できる高負荷で3〜5repsのトレーニングを行う、もしくは、低負荷でも筋が伸ばされるエキセントリックな刺激を重視したトレーニング(デッドリフトやベンチプレスでもバーを下ろした際の刺激など)を行うことです。


以上、筋繊維タイプの種類とそれぞれに応じたトレーニング手法になります。

現場的には、やはり筋力を大きく肥大させたい、筋力を大きくしたいという要素でのトレーニングが多いことが実情です。

上記要素を持つ筋繊維は速筋繊維であるが、しかし1〜5repsのような高負荷のエクササイズは自力では簡単に行えないことがほとんどです。そのため、ウェイトトレーニングでも伸ばされるエキセントリックな刺激を重視したネガティブ(バーを下ろす動作、筋が伸ばされる方の動作)を意識して、できる負荷の下トレーニングを行うことが重要です。

一方、女性など身体を引き締めたい、太くしたくないという方は筋肥大率の低い遅筋繊維を鍛えることが重要であり、現場的には、自重トレーニングなどが行うことが望ましいです。しかし、標的筋に対して適切な刺激を与えなければならないため、別記事のファンクショナルトレーニングの機能的に身体を扱うことが重要になります。







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