【小説】倶記3-3

ローブの彼女にどことなく違和感を覚え、2人を連れ出して昨日菜々子ときた入り口へ向かおうと美月の手を取った時だ。

「ありがとうございます!それじゃあ行ってみます!」

自分が口を開けるより先に、そんなことを言い出したのは菜々子。

「菜々子…。単なるハッタリかもしれないのに…。」

しかし菜々子は首を傾けつつ続ける。

「その時はその時でいいじゃないですか。」

「まあ、そうだけども。」

別にこれといった目的地がある訳でもないけど、素直に従っていいものなんだろうか。

「それに、彼女の言葉は信用できる気がするんです。」

「偶然だね。あたしもそう思ってたとこっ。」

言ってこちらを見上げる2人の目は、嘘なんてこれっぽっちもついてなさそうだった。

「しょうがない。行くだけ行ってみるか。ありがとうございます。」

「改めてありがとうございます!」

「じゃあねー。」

三者三様の別れに、その女性は格好を崩すことなく、そっと呟いた。

「いえ、気をつけて。」


「気を取り直して、レッツ人探しです!」

「おー!」

ノリノリの2人とともに、再び歩を進める。

それにしても、森か。
これが本当に出現したんだとしたら、この国はどうなるんだろうか。


「なんか騒がしいねー。」

「確かに。」

「何かあったんですかね?」

裏の入り口に近づくにつれて周りの雑踏のボリュームは確実にあがっていた。
こんなことを言っているが、おそらく内心ではもう結論がでていたことだろう。

あの人が言ったことが正しければきっと…。

「あれは…。」

「なんで?」

「見間違いなんて都合良くはなさそうだな。」

垣間見えた裏の入り口の門。
その奥には確かに、目が冴えるような緑色が広がっていた。

「まさかこんな立派な森ができているとは。」

「ブレイクストーンに緑があるのはいいけど、さすがにこれは訳あり感があるよね。」

2人の率直な感想にも頷ける。
間違いなくこれは故意に出現したのだろう。
誰がなんの目的で、どうやって出したのだろうか。

「とにかく、調べてみるにこしたことはないな。」

「うん!そだねー。」

「久しぶりの冒険ですね。」

どこか遠くをみているかのような彼女。
その瞳が笑っているのか泣いているのか、なんとも微妙な表情だった。

「…森といっても、小動物とか雑草みたいなものはないんだな。」

あれからおよそ一時間弱。
とりあえず例の森の中を連れ立って歩いているものの、存在が不気味である以外の収穫がない。

始めこそちょっとした緊張や不安はあったけれど、全くといっていいほど何も起きないし、何もみつかりやしない。
てっきり昨日みた巨大な動物が現れると思って構えているのに、だ。

「確かに。見れば見るほど木ばっかり。」

「造られた感じが強いですね。」

「本当になんでこんなものが。」

しかも突然。

「あ。なんだろこれ。」

「どうした美月。」

「何かありました?」

美月を見てみると、急に立ち止まってなんの変哲もない一本の木の幹のどこかをじっと見つめていた。
気になって両脇から菜々子と覗き込むと、そこには穴が開いていた、というか。

「これ、何かが貫通した跡じゃないか。」

それもピストルのような代物。

「え、じゃあもしかして。」

それまで木に向けていた視線を周囲へと変更する美月。

銃といえば、前の冒険で俺と共にいてくれた女の子が思い出される。確か名前は。

「この森で争われた形跡があるということですか?」

それはさておき、少なくともこの場に敵がいる可能性が100%近くまで跳ね上がった。

「それもそうだし。」

これを見つけた時からようやっと気づいたこともある。
僕の感覚が鈍っていたのはすっかり安心していたためかもしれなかった。

「ここには少なくとも1人以上の人とあの動物たちがいるはずだ。」

どうして今までわからなかったのだろう。
ほんのりとでも、間違いなくするじゃないか。

人の、血の臭いが。

「なるほど。まあその方が違和感ないですね。」

「どっからでもかかってこーい!」

ふむふむと納得する菜々子の隣で、かなり広範囲に聞こえる声量で誘う彼女。

「いや、そんな呼んでもでてこないと思うんだけど。」

「でも、こういう時って割とほんとにでてくることありますよね?」

そっと菜々子に同意を求めてみたのだが、返ってきたのはまさかの肯定だった。

「それもありえるか。」

とりあえず警戒はしておくことにして。

「かかってこーい!」

「…まだやってる。」

あれから数分経ってるはずなのに、未だに辺りに自らの存在を伝えまくっている美月。

「もう。ほんとにきちゃいますよ?」

「しょうがないなあ。」

若干シュンとした彼女だったが、それもすぐに収まる。

いきなりキョトンと遠くを見つめて、目を大きく見開いて。

「ごめん。止めるの遅かったかも。」

「ほんとにきちゃったじゃないですか!」

「とにかく、戦うしかない!」

昨日のリスと違って白い毛皮に長い耳、体長は2、3mくらい。
その正体を決定づけるは特徴的な紅目とリスのようにでた前歯。

彼女はめでたくウサギを呼び寄せることに成功したのだった。

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