パイオニア環境分析のつもり(2/3~2/5)MF名古屋&ブリュッセル

■はじめに

 PT名古屋は原根健太プロの優勝で幕を閉じました。おめでとうございます! PT自体はドラフトとの複合フォーマットであり単純なデッキポテンシャルで語れない部分もありますが、PTのメタゲームを的確に読んだ成果だと思います。

 MF名古屋の結果は皆さんご存じだと思いますが、今回の投稿では、MF名古屋と同時に行われたMFブリュッセル、そしてその後のMOのメタゲーム推移を見ていきたいと思います。

▼Grand Prix Nagoya(1,673人)

黒単アグロ
赤単ミッドレンジ
セレズニアヘリオッド
イゼット魂込め
イゼット魂込め
イゼット魂込め
イゼット魂込め
イゼット果敢(優勝)

▼Grand Prix Brussels(1,663人)

赤単アグロ
赤単アグロ
赤単ミッドレンジ
緑単ランプ
ディミーアインバーター
アゾリウススピリット
アゾリウススピリット
5色ニヴミゼット

▼Players Tour Nagoya(193人)

黒単吸血鬼
オルゾフオーラ(準優勝)
ディミーアインバーター
ディミーアインバーター
ディミーアインバーター
ディミーアインバーター
ディミーアインバーター※信心型
バントスピリット(優勝)

▼Players Tour Brussels(384人)

黒単アグロ
赤単アグロ
スゥルタイ昂揚(優勝)
ディミーアインバーター(準優勝)
バントスピリット
バントスピリット
5色ニヴミゼット
ロータスブリーチ

※PTブリュッセルデッキ分布
(記載は「6勝以上デッキ数/7勝以上デッキ数/8勝以上デッキ数:デッキ名」)
15/ 8/ 3:ディミーアインバーター(10-0達成者1名、9-1達成者2名)
11/ 5/ 4:黒単アグロ
6/ 2/ 0:白単ヘリオッド
5/ 2/ 1:5色ニヴミゼット
5/ 3/ 3:スゥルタイ昂揚
4/ 1/ 1:アゾリウスコントロール(9-1達成者1名)
4/ 3/ 1:バントスピリット
4/ 3/ 2:イゼット魂込め
4/ 3/ 1:ロータスブリーチ(9-1達成者1名)
4/ 2/ 0:赤単アグロ&赤単ミッドレンジ
3/ 3/ 1:アゾリウススピリット

▼Pioneer Challenge 2/3

9-2
イゼットフェニックス(優勝)

8-3
5色ニヴミゼット(準優勝)

6-4
白単ヘリオッド(4位)
黒単アグロ(3位)

6-3
黒単アグロ
アゾリウススピリット
イゼット魂込め
スゥルタイ昂揚

5-2
緑単アグロt黒
アゾリウススピリット
ディミーアインバーター
ディミーアインバーター
ディミーアインバーター
ディミーアインバーター
ディミーアインバーター
ディミーアインバーター
バントスピリット
ロータスブリーチ
ロータスブリーチ

▼Pioneer Prelimiary 2/4

5-0
白単ヘリオッド
赤単アグロ

4-1
白単ヘリオッド
白単ヘリオッド
赤単アグロ
赤単アグロ
アゾリウスコントロール
ディミーアインバーター
イゼット魂込め
バントスピリット
スゥルタイ昂揚
5色ニヴミゼット

▼Pioneer Prelimiary 2/5

5-0
バントスピリット

4-1
白単ヘリオッド
黒単アグロ
アゾリウスコントロール
ディミーアインバーター
シミックランプ
バントスピリット

■トピックス

・ディミーアインバーター大躍進

KRISTOF PRINZ - DIMIR INVERTER
プレイヤーズツアーブリュッセル2020(予選ラウンド10-0)
 
planeswalker (3)
3 《神秘を操る者、ジェイス/Jace, Wielder of Mysteries》
 
creature (8)
4 《真実を覆すもの/Inverter of Truth》
4 《タッサの神託者/Thassa's Oracle》

 
sorcery (6)
2 《思考消去/Thought Erasure》
4 《思考囲い/Thoughtseize》
 
instant (16)
2 《検閲/Censor》
4 《時を越えた探索/Dig Through Time》
2 《湖での水難/Drown in the Loch》
4 《致命的な一押し/Fatal Push》
4 《選択/Opt》
 
enchantment (2)
2 《海の神のお告げ/Omen of the Sea》
 
land (25)
2 《詰まった河口/Choked Estuary》
4 《水没した地下墓地/Drowned Catacomb》
4 《寓話の小道/Fabled Passage》
2 《異臭の池/Fetid Pools》
6 《島/Island》
3 《沼/Swamp》
4 《湿った墓/Watery Grave》
 
sideboard (15)
1 《悪夢の織り手、アショク/Ashiok, Nightmare Weaver》
2 《肉儀場の叫び/Cry of the Carnarium》
1 《減衰球/Damping Sphere》
1 《墓掘りの檻/Grafdigger's Cage》
1 《ヴリンの神童、ジェイス/Jace, Vryn's Prodigy》
1 《ゲトの裏切り者、カリタス/Kalitas, Traitor of Ghet》
1 《軍団の最期/Legion's End》
3 《神秘の論争/Mystical Dispute》
1 《害悪な掌握/Noxious Grasp》
1 《スカラベの神/The Scarab God》
1 《正気泥棒/Thief of Sanity》
1 《究極の価格/Ultimate Price》

 MF名古屋の1週間前頃からMOに颯爽と現れた「ディミーアインバーター」。Channel Fireballでは直前に「Dimir Twin」として紹介され、WotC公式では「青黒《真実を覆すもの》コンボ(英語:Inverter Combo/Dimir Inverter)」と紹介されています。当記事では、このデッキがコントロール色の強いという側面を持つためコンボ扱いせず、ブリュッセルの表記に倣い、以後「ディミーアインバーター」と呼称します。

 基本的な動きは《真実を覆すもの》でライブラリーを削り、《タッサの神託者》の勝利条件を一気に満たす状態に持っていく2枚コンボを決める、という単純なものですが、クリーチャー2枚のコンボのため、《強迫》や《ドビンの拒否権》で妨害されません。

 コンボ要素が2枚のみであり、その他のカードを自由に組み合わせられます。9割以上のデッキが青黒コントロールに上記のコンボをタッチした「コントロールタイプ」になっています。一見コンボに依存するように見えますが、

・《タッサの神託者》の代わりに《神秘の探求者、ジェイス》を用いて勝利できるためフィニッシャーが複数いる
・6/6飛行の《真実を覆すもの》でのビートダウンプランもとれる
・《真実を覆すもの》をすべて対処されても、ロングゲームへ持ち込めばセルフLOで勝てる

 上記のような理由により、見た目より戦略幅が広く、想像以上に対処能力の高いデッキです。青黒は《思考囲い》《致命的な一押し》《時を超えた探索》を擁する色でカードパワーが高く、生半可な妨害であれば乗り越えられてしまいます。

 特にプロが選択するケースが目立ち、PTブリュッセル、PT名古屋ともに使用者最多のデッキになりましたが、いずれの大会でも優勝できませんでした。ブリュッセルは準優勝、名古屋はTOP4でした。また、直後のPioneer Challengeでも暴れましたが、こちらでもTOP8入りはなりませんでした。

・バントスピリット

 ここを読んでください。これ以上語る事はありません。

・スゥルタイ昂揚

JOEL LARSSON - SULTAI DELIRIUM
プレイヤーズツアーブリュッセル2020(優勝)
 
planeswalker (3)
1 《最後の望み、リリアナ/Liliana, the Last Hope》
2 《世界を揺るがす者、ニッサ/Nissa, Who Shakes the World》
 
creature (19)
4 《サテュロスの道探し/Satyr Wayfinder》
3 《ヴリンの神童、ジェイス/Jace, Vryn's Prodigy》
1 《漁る軟泥/Scavenging Ooze》
4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ/Uro, Titan of Nature's Wrath》
2 《クルフィックスの狩猟者/Courser of Kruphix》
1 《残忍な騎士/Murderous Rider》
1 《不屈の追跡者/Tireless Tracker》
1 《墓後家蜘蛛、イシュカナ/Ishkanah, Grafwidow》
1 《約束された終末、エムラクール/Emrakul, the Promised End》
1 《歩行バリスタ/Walking Ballista》
 
sorcery (7)
4 《思考囲い/Thoughtseize》
3 《ウルヴェンワルド横断/Traverse the Ulvenwald》
 
instant (8)
4 《致命的な一押し/Fatal Push》
2 《突然の衰微/Abrupt Decay》
2 《忌まわしい回収/Grisly Salvage》
 
land (23)
4 《花盛りの湿地/Blooming Marsh》
1 《植物の聖域/Botanical Sanctum》
4 《草むした墓/Overgrown Tomb》
4 《繁殖池/Breeding Pool》
1 《湿った墓/Watery Grave》
1 《華やかな宮殿/Opulent Palace》
1 《ギャレンブリグ城/Castle Garenbrig》
3 《寓話の小道/Fabled Passage》
1 《森/Forest》
2 《島/Island》
1 《沼/Swamp》
 
sideboard (15)
1 《不屈の追跡者/Tireless Tracker》
1 《再利用の賢者/Reclamation Sage》
1 《人質取り/Hostage Taker》
1 《強迫/Duress》
2 《軽蔑的な一撃/Disdainful Stroke》
1 《害悪な掌握/Noxious Grasp》
1 《喪心/Cast Down》
2 《神秘の論争/Mystical Dispute》
1 《スゥルタイの魔除け/Sultai Charm》
3 《虚空の力線/Leyline of the Void》
1 《ビビアン・リード/Vivien Reid》

 日本では目立った活躍しませんでしたが、海外ではスゥルタイ昂揚がよい位置に付け、プロツアー「マジック・オリジン」戴冠者、Joel Larssonが優勝しました。

 以前の緑黒昂揚をベースにしていますが、青をタッチして《自然の怒りのタイタン、ウーロ》をフル採用しています。墓地に行きやすく、2種類のカードタイプカウントをするため昂揚条件を満たしやすいのが特徴で、さらに、このデッキに欲しかった「墓地を肥やしながらのマナ加速」が可能になりました。《ウルヴェンワルド横断》の昂揚達成や、《ヴリンの神童、ジェイス》の早期変身、《ウーロ》連打体制に寄与します。

 《ウーロ》を活かすため、《サテュロスの道探し》を採用し、土地を確保しつつ墓地を肥やし《ウーロ》の脱出コストを早期に支払えるようにしています。また、《ウーロ》は紛争条件を満たすため、《致命的な一押し》とも相性が抜群です。3~4マナ域の生物を主力とする緑単アグロや各種スピリット、ディミーアインバーターの《真実を覆すもの》もテンポよく処理できます。

 また、青をタッチしたことで、コンボに効果的な打ち消しを採用できるようになりました。コンボ相手は、合計4枚の打ち消しと手札破壊で相手のサブプランも潰しつつ消耗戦に持ち込み、《ウーロ》で勝負を決めます。事実、決勝戦ではディミーアインバーター相手に《ウーロ》の連打で勝利を手にしています。

 緑黒昂揚自体は「環境の速度にマッチしない」デッキのため結果を出せませんでしたが、ロータスブリーチやディミーアインバーター、白単ヘリオッド等、コンボが幅を利かせるようになった結果、環境から早いアグロが駆逐され、メタゲームで有効なデッキになりました。バントスピリットも同様ですが、スピリットがクロックと展開力を重視しているのに対し、昂揚は「対応力の高さ」がバリューとして認められるようになった、という真逆の理由があります。

・イゼット魂込め

山下 大輝 - 「青赤魂込め」
グランプリ・名古屋2020#1 スイスラウンド3位 / パイオニア (2020年2月1~2日)

4 《産業の塔》
4 《尖塔断の運河》
4 《蒸気孔》
2 《シヴの浅瀬》
4 《ダークスティールの城塞》
3 《変わり谷》
-土地(21)-

4 《ボーマットの急使》
4 《ジンジャーブルート》
1 《ギラプールの希望》
4 《石とぐろの海蛇》
4 《技量ある活性師》
2 《湖に潜む者、エムリー》
-クリーチャー(19)

3 《幽霊火の刃》
2 《影槍》
4 《アーティファクトの魂込め》
3 《頑固な否認》
2 《潜水》
2 《乱撃斬》
4 《爆片破》
-呪文(20)-

2 《搭載歩行機械》
1 《ピア・ナラーとキラン・ナラー》
2 《トーモッドの墓所》
2 《霊気圏の収集艇》
1 《飛行機械の諜報網》
1 《無効》
2 《霊気の疾風》
1 《軽蔑的な一撃》
1 《神秘の論争》
2 《焙り焼き》
-サイドボード(15)-

 国内GPではイゼット魂込めがTOP8に4人入賞しました。優勝者(イゼット果敢)も併せるとイゼット色のデッキが5人入賞した形になり、バントスピリット同様、クロックパーミッション戦略が有効だということが証明されました。

 軽量除去を有しバントスピリットよりアグロ耐性がある点、ゲームスピードが早い点がイゼット魂込めのバリューであり、PTと違いアグロの比率が高いGPでは有利に働いたようです。事実、他の3デッキはヘリオッドカンパニー、黒単アグロ、赤単ミッドレンジと速い攻めが可能なデッキが入賞しており、PTとは異なるメタゲームを形成していたことが分かります。

 テーロス還魂記からはミラー対策にもなる《影槍》を手に入れました。ライフ回復や突破力はこのデッキの欲しいところだったため、嬉しい追加戦力です。起動型能力はクリーチャーになった後も使用できるため、《幽霊火の刃》より無駄がありません。

 イゼットカラーのデッキは、妨害手段の比率(軽量除去と打ち消し)をサイドボード後に調整することで、アグロとコンボの双方を睨めます。GP名古屋優勝のウィザード、同大会最大勢力の魂込め、Challenge優勝のフェニックスとバリエーションもあります。共通して赤単系を不得手にしていますが、赤単が環境に少ない間はメタ上の優位が生きそうです。


■終わりに

 「テーロス還魂記」登場後、大型大会であるMFの開催によって、《タッサの神託者》コンボや《自然の怒りのタイタン、ウーロ》の活躍、ヘリオッドコンボも結果を出し始め、メタゲームにも変化が見られるようになってきました。

 結果として、単色環境から2色環境への推移がより明確になり、今まで見られなかった3色デッキも選択肢のひとつになりました。そうなればなるほど、多色デッキに強い赤単がメタ上で優位になり、、、とメタゲームの回転も起こりそうです。

 とはいえ新しいブレイクスルーが登場する可能性も十分あり、しばらくは全方位型のメタゲームで臨んだ方がよいでしょう。苦手なデッキへのサイドボードは必ず多めに用意しておきましょう。

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