パイオニア環境分析のつもり(9/4~18)ヴェールを脱げ
■はじめに
日本時間9/9(金)、遂に「団結のドミナリア」(以下「DMU」)がリリースされました。
特に過去のドミナリア、もとい『インベイジョン』ブロックを想起させる「キッカー」や「版図」はオールドファンには懐かしく、また近年のプレイヤーにも分かりやすく味わい深い能力になっています。
過去の有名クリーチャーを冠した伝説のクリーチャーやPWの再録など、30周年の幕開けを飾るにふさわしいセットと感じます。
一方、MTGAおよびMTGO上では9/2(金)より使用可能となっています。(前回のSNCは同日リリースだったのですが……)よってこの日より、上記アプリ上での対戦では新カードが使われています。MTGOのPioneer各種大会においても早速使用されています。
というわけで、初の使用が確認された9/4から2週間の期間のデッキリストを集計しました。
■メタゲームブレイクダウン
理由は後述しますが、新戦力を得たラクドスミッドレンジが前環境からさらにシェアを伸ばしました。ラクドスと激しい争いを繰り広げている緑単信心も根強い人気で、この二強の構図は変わりません。
その下は混沌としていますが、パルへリオンシュート(アブザン)、イゼットフェニックス、赤単アグロ、青白コントロール、スピリット、サクリファイス、白単の7デッキが5~8%の使用率のラインにいます。新戦力を得たものもあれば、前環境から引き続きの内容で戦うデッキもあり、新カードの採用率はまちまちです。
割合から見て、明確な「三番手ポジション」が現れていないことになります。それほど、ラクドス・緑単とその他のデッキには差があるということでもあります。
三番手のデッキが後退し、先述の7デッキのレンジがそれぞれ異なるため、ミッドレンジ偏重傾向に拍車がかかっている形になります。ラクドスミッドレンジは除去が多い分アグロに強いが別軸の動きには弱く(緑単などのトップ叩きつけ系が好例)、一方の緑単は相手に触る手段が限られ、主にアグロに比較的弱いものの、妨害には強い、と得手不得手が真逆であり、両者に優位のつくデッキがうまく見つかっていない感があります。
緑単は動きの強さ、そしてラクドスへの優位性からいいポジションをキープしていましたが、今回は水をあけられている格好になりました。
■DMUからの新戦力
ここでは、DMUから各デッキが獲得したカードを紹介していきます。
・《ヴェールのリリアナ/Liliana of the Veil》(ラクドスミッドレンジ、パルへリオンシュート、黒単)
『イニストラード』から再録されたこのカードが、下馬評通りの強さを見せつけた形になります。
ラクドスミッドレンジでは相手のリソースを枯らす戦略に拍車がかかり、レンジの遅い緑単信心などへの対抗手段として強力な戦力となります。ミラーでも《墓地の侵入者》を後腐れなく除去できるため、このカードの定着を巡る争いになります。
アブザンパルへリオンでは手札の《パルへリオンII》を捨てる手段のひとつとなる上、相手のクリーチャー(ヘイトベア)を狙い撃つこともできる器用さを見せます。
総じてプラス能力を生かせるデッキでの採用が目立ちます。黒単アグロが久しぶりに入賞するなど、このカードのポテンシャルを生かした構築が検討されています。
・《黙示録、シェオルドレッド/Sheoldread, the Apocalypse》(ラクドスミッドレンジ)
スタンダードでは早速活躍を見せていますが、パイオニアでも《ヴェールのリリアナ》でリソースを枯らした後に蓋をする役目として、《カリタス》を押しのけて採用されています。《カリタス》と違い、すぐにいくらかの仕事をすること、そしてドロー連打系デッキに即時対処を迫る点で優秀です。
優秀なスタッツに加え、能力は非常に汎用性が高く腐る相手が少ないのたポイントです。特にドローカードの連打から攻め立てるイゼットフェニックス、カードを引きながら大技を決めるロータスコンボなどに効果的です。メインボードから無理なく採用できる対抗手段となっています。
タフネス5も《反逆の先導者、チャンドラ》などで除去できない点が優れています。赤単のサイドボードに《焙り焼き》が登場するなど、このカードを意識したカード選択も既にみられるなど、環境を定義する一枚であるといっても過言ではないでしょう。
・《フェニックスの雛/Phoenix Chick》(赤単アグロ)
赤単アグロが使用率を躍進させた理由のひとつにこのカードがあります。単体ではただの1/1/1飛行速攻ですが、墓地から復活する能力が相手の《ヴェールのリリアナ》とかみ合い、また《ヴェールのリリアナ》が-2能力を使用した直後に攻め立てる戦力としても優秀です。《リリアナ》が強いおかげで脚光を浴びている形となっています。攻撃クリーチャーが多いほど《エンバレスの宝剣》も出しやすくなるため、ミッドレンジでも採用例が見られます。
《墓地の侵入者》の的になりやすい点は気がかりですが、《ヴェールのリリアナ》の枠を空けるために、従来の4枚採用から3枚採用に減らすリストが増えている点も追い風となっているようです。
・《衝動/Impulse》(ロータスコンボ)
ビジョンズ初出の超優良ドローカード。《可能性の揺らぎ》がそのままインスタントになったため、そのまま置き換えられています。相手のターンエンドに《母聖樹》や《大田原》を探せるようになったり、《全知》設置後の差し込み除去に対応できるなど、見た目以上に大きな強化となっています。
広く遍く青いデッキに採用されそうですが、アゾリウスコントロールではサイクリングスペルが、イゼットフェニックスでは墓地を肥やせる《巧みな軍略》が優先されるため、ロータスコンボ以外での採用はあまり見られません。
・《焦熱の交渉人、ヤヤ/Jaya, Fiery Negotiator》(イゼットフェニックス他)
イゼットフェニックスのサイドボードに潜んでいる率が高い、危険なPWです。墓地を使用せずに、プラス能力で《僧院の導師》のモンク・トークン相当の戦力を生み出す上、アドバンテージや除去も可能なユーティリティ枠です。初期忠誠度は実質5と非常に硬いのも厄介です。
これまでは《鏡割りの寓話》などで軸をずらしていましたが、こちらのパターンが主流になるかどうか、注視していく必要があるでしょう。
・《力線の束縛/Leyline Binding》(5色《奇怪な具現》、アゾリウスコントロール他)
取り回しのよいリング系除去ですが、瞬速なので隙が少ないこと、コスト軽減によって軽く唱えられることから、コントロール系で採用される例が見られます。とはいえ4マナ圏に《排斥》があるので、基本的には3色目の土地を置けるデッキでの採用となります。
事実、アゾリウスコントロール(ヨーリオン)では《ラフィーンの塔》《ラフグリンのトライオーム》《スパーラの本部》を全採用してこのカードもフル採用、という例も見られます。
また、このカードの登場で5色《奇怪な具現》がかなり強化されました。基本的に5色なので1マナで唱えられる点もさることながら、《奇怪な具現》で生け贄に捧げることで、7マナのクリーチャーに(早期に!)アクセスできてしまいます。4ターン目に《裏切りの工作員》や《産業のタイタン》を登場させるコンボデッキとしての側面も持ち合わせるようになったのです。
このコンボを狙うため、あえて60枚構築にしてこのカードを引く確率を上げたデッキも登場しています。
・《戦闘研究/Combat Research》(青単スピリット)
意外となかった1マナの《好奇心》亜種がようやく登場しました。青単スピリットは1T生物から《執着的探訪》&《霊灯の罠》と動くとそのまま勝つほどの勢いが出るため、再現性を高めるこのカードの登場に喜んでいるスピリット使いもいることでしょう。
なお、2つ目の能力は青単スピリットでは伝説生物の不在からほぼ意味を成しません。(他のデッキ、たとえばアゾリウスオーラが《スラム》などを強化する場合は意味が出てきます。)
・友好色ダメージランド3種(ラクドスミッドレンジ、バントスピリット、他)
今回は友好色3種、対抗色3種の6種ダメージランドが加わりましたが、新たにパイオニアリーガルとなったのは《アダーカー高原/Adarker Wastes》(白青)、《硫黄泉/Sulfurous Springs》(黒赤)、《カープルーザンの森/Karplusan Forest》(赤緑)の3枚です。
ラクドスミッドレンジでは《硫黄泉》1枚程度の採用、バントスピリットでは《アダーカー高原》が1~3枚の採用となっている他、グルールカラーでは《不屈の独創力》や《イグナス》コンボなどのマナ基盤を安定化させています。
《地底の大河》《低木林地》も実装があれば影響があるかもしれません。
■注目デッキ1:Atarka Red(アタルカレッド)
《カープルーザンの森》が入ったことで成立に至ったアーキタイプが《アタルカの命令》を軸にした高速アグロ、アタルカレッドです。KTKのスタンダード期に流行しましたが、従来のパイオニアではマナベースの不安定さから成立しませんでした。
基本は赤単タッチ緑で、軽量クリーチャーで攻め立てつつ横並べからの《アタルカの命令》で早期にライフを削り取る戦略を取ります。《炎樹族の使者》と《無謀な奇襲隊》と絡めた動きはまさに脅威。
上記で紹介した《フェニックスの雛》もデッキの動きとかみ合っており、序盤からチクチクとクロックを刻みながら、時折墓地から戻ってみたり、《エンバレス》を背負ってみたりといぶし銀の活躍を見せます。
サイドボードには早速《焙り焼き》が。何への意識かは語るまでもないでしょう。他のクリーチャー火力と散らさず3枚取られている点で、非常に意識していることが伺えます。
とにかく展開力重視のデッキなので初手依存度が高く長丁場での不安はぬぐえませんが、二強デッキやコンボに対抗する速度、ブン回りパターンは十分に備えていますので、相手のペースに巻き込まれずに攻めを貫徹したい方にお勧めのデッキです。
■注目デッキ2:Izzet Prowess(イゼット果敢)
以前一瞬流行って消えていったイゼット果敢ですが、今回《戦闘魔道士の隊長、バルモア》を手に入れたことで少しずつみられるようになりました。
《バルモア》の強化能力は2マナクリーチャーが持っている中では破格の性能と言ってよく、全軍への+1/+0&トランプルは正直盛りすぎです。自身への強化だけでも十分強力ですが、これが果敢持ちと組み合わせられると一気に打点が跳ね上がりますし、トークンにとっても果敢を持たせるのと同義です。
特に《若き紅蓮術士》との相性が良く、生み出したトークンを《バルモア》でパンプアップして殴る、という戦略が単純ながら有効です。更地の盤面から一気に致死量のダメージを叩き出す子止まります。
他にもDMUからは《下支え/Shore Up》が入っています。こちらは《ミジウムの外皮》などとの比較になりますが、最低限のパンプアップやアンタップ効果なども備わっているので、役に立つ場面はそこそこありそうです。
こちらも速度で押すデッキですが、ドローソースも多く安定性は比較的良い部類です。ただしドローを連打する都合上、《シェオルドレッド》が天敵なので、対応策は必ずデッキに備えておきましょう。
■終わりに
まだDMU環境は始まったばかりですが、トップメタのラクドスミッドレンジがさらに強化されるという形でスタートしました。一方で緑単信心に続く三番手のデッキが定まらず、友好な戦略を各自が練っている状態となっています。パルへリオンシュートが一番良い位置で狙っていますが、他のデッキが抜け出す可能性もあり、予断を許さない状況と言えるでしょう。
ここから他のデッキが踏ん張れるのか、更にラクドスが勢いを伸ばすのか、注目していきたいところです。
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