【1万字感想文】「グリッドマン ユニバース」、宇宙よりも大切な「たった一言」が世界を変える話だった
0000.この記事って、なに?
上映終了間際に「グリッドマン ユニバース」を事前情報ほぼゼロで見た筆者が思いの丈をつづっただけの記事です。
ネタバレを含みますので、未視聴の方はご注意ください。
(ネタバレ厳禁派の方は今すぐブラウザを閉じてください)。
あと、台詞書き起こしは正確ではありません。ご了承ください。
前科あり。こんな記事を書いています。
かなりギリギリでした。なにせ見たのがGW真っただ中でした。マリオやコナンに目もくれずグリッドマンに向かった自分はかなり浮いていました。
結論から言うと、見てよかったです。本当によかった。マリオもコナンもかなり評価が高いし、周りの評判もいいし、いつか見たい。けど、この瞬間にこの映画を選んで本当によかったと思います。
再掲: ネタバレを含みます。未視聴の方はご注意ください。
(ネタバレ厳禁派の方は今すぐブラウザを閉じてください! 今すぐ!)
あと、台詞書き起こしは正確ではありません!!!!! ご了承ください!!!!!!
1111.この物語って、なに?
TRIGGERが手掛けたテレビアニメ「SSSS.GRIDMAN」(2018年)の後日譚、そして「SSSS.DYNAZENON」(2021年)の後日譚としても位置付けられる、同社による劇場版アニメーション作品。
原作は円谷プロの特撮映像作品「グリッドマン」(1993年)。奇しくも原作放送20年の節目での本作劇場公開となった。
公式サイトの「グリッドマン ユニバース」のあらすじは下記。
テレビシリーズの続編ということで、「SSSS.GRIDMAN」「SSSS.DYNAZENON」両作品を観ていないことには話がつながらないので、実質的に続編、(ひとまずの)完結編の位置づけとなる。
実は「SSSS.GRIDMAN」と「SSSS.DYNAZENON」には大きな違い・対比がひとつあった。有体に言えば、主人公の恋路が叶ったかどうかである。
「SSSS.DYNAZENON」の主人公・麻中蓬は世界を救い、最終話でヒロイン・南夢芽と結ばれるが、「SSSS.GRIDMAN」は、世界こそ救われたものの、主人公・響裕太はヒロイン・宝多六花や親友・内海将と過ごした2か月間の記憶を失ってしまう(正確には「SSSS.GRIDMAN」の物語が進む2か月の間、響裕太の身体は「グリッドマンの意識の一部」が支配していたため、本人の記憶には残っていなかった)。世界が日常を取り返すのと引き換えに、彼はその2か月間を「喪失」している。
映画ではその喪失とどう向き合うのか、そして思い人である立花との関係をどのように進展させるのかが鍵となることは間違いない。そこまでは誰もが想定できた。
とはいえ元は円谷プロの作品である。グリッドマンが物語の中心であり、世界平和が脅かされ、それを進める悪との対峙が必要不可欠なストーリー。この要素はどうやったって消えやしない。
かたやラブコメ、かたやヒーローストーリー。果たしてどちらがメインなのか?
結論から言えば、この映画は最高のまとめ方をした。ヒーローストーリーとしての体を保ちつつ、世界平和を舞台装置にして、たった一人の想いが実る過程を、丁寧に、余すところなく描き切ったのだ。
つまり、この映画は、たった一人の少年が、少女に想いを伝えるまでの物語。本筋はこれだ。それ以外の何物でもない。
2222.響裕太が欲しがったものって、なに?
(またも「SSSS.DYNAZENON」の対比となるが、)「SSSS.GRIDMAN」開始時から裕太は立花に好意を抱いている。TV1話で存在を認知し、最終的に結ばれた蓬・夢芽ペアとはそもそもの前提から違う。
だからこそ、裕太は物語開始時点から、夢芽へ想いを伝えるための鍵を欲している。
さて映画開始時点、つまり裕太が喪失した2か月間の直後、映画の冒頭シーンは裕太と将が学校の教室で会話するシーンから始まる。
作中で触れられている通り、グリッドマンが活動していた時期の記憶は、将と立花にしかない。裕太はその喪失について、表立って感情に出さないが、紙が破れるほど書いては消してを繰り返していることから、かなりグリッドマン(=グリッドマンがいたときの2か月の記憶)に執着していることが分かる。
このシーンではそんな裕太の記憶をめぐって、立花と裕太にすれ違いが起きていることが象徴されている。立花は「記憶に残っている自分が真実を伝えたい」という思いで脚本を書いている。しかし裕太は「喪失した2か月を埋めるために」この脚本を読んでいる。
理由はシンプル。その2か月で、立花と裕太の「距離が近くなった」から。
裕太にとっては、その2か月間とは、立花との距離を埋めるためのピースであり、自分の想いを成就させるのに必要なもの(と、裕太は思いこんでいる)。
だから必死で、身体に残っているはずのグリッドマンの記憶を書き起こす。
だから必死で、脚本を一字一句読み込む。
そして、
裕太はグリッドマンと共に戦うことを受け入れる。
ここは、一見とても違和感があるシーンととらえる人もいるかもしれない。グリッドマンや怪獣の記憶がないはずの裕太が、すんなりと怪獣の出現やグリッドマンとして戦うことを受け入れている。
しかし、上記のシーンを見れば、裕太がグリッドマンを受け入れたことは自明である。自分の想いを叶えるためには、グリッドマンになって、2か月間の喪失を埋めることが必要だと思い込んでいるからだ。
そして、それを一番心配しているのが立花だということも忘れてはいけない。
この件について、お互いの想いを交わすことなく、相手への想いがすれ違ったまま、物語が進行していく。独り暮らしの大学生の部屋に出入りする立花を裕太が目撃したことはその象徴。実際は立花の兄なのに、コミュニケーションを取らないことが原因で、それを気にして落ち込む。後にアイスを二人で買いに行く際、あっさり解決してしまう。「話せばわかる」ことを、この二人は肝心なところに限って離さない、お互い踏み込まない。
裕太が失った2か月間の記憶。これが物語のひとつの鍵となっている。
ちなみに、事件が明るみになるのも裕太の「記憶の欠落」が契機になっている。
中盤、裕太が世界の違和感を覚えるシーン。周りは期末テストを終えたと言っているが、裕太は期末テストを受けた覚えがない。痛みの欠落(バレーボール直撃、階段落下)という事象は結果であり、起因しているものはあくまで「記憶の欠落」。このシーンも、裕太の記憶によって物語が進行するという一貫性を補完するものである。
3333.「ガウマ隊」が伝えていることって、なに?
ここでいったん、「SSSS.GRIDMAN」サイドのキャラクターから離れて、「SSSS.DYNAZENON」のキャラクターのストーリー上の位置づけについて触れることにする。
先ほど書いた通り「SSSS.DYNAZENON」は、ごく一部を除いて関係値が決着している。特に蓬、夢芽の関係値に変化はない。ただし、決着していないことがあった。①ガウマと蓬の正式なお別れ、②ガウマとひめの邂逅がそれにあたる。
3333-1.ガウマと蓬の再開と別れ
冒頭、グリッドマン初戦闘の際、新世紀中学生のチームに「レックス」という新人が加わったことが明らかになる。視聴者からすれば、誰がどう見てもガウマその人であるが、裕太たちとは初対面。ガウマと名乗りかけるが、そうは名乗らない。ここで、ガウマが生きていたことが明らかになる。
おって、蓬たちは裕太の世界にあとから合流し、立花の家で彼らは合流する。
そして、物語のラストで、ガウマと蓬は別々の世界に進む。
ちゃんとした別れができたこと、それは、TV版のこのシーンと対比すると明らかになる。
ガウマが常に伝えている「守らなければいけないもの」3つ目について、共通認識を蓬たちが遂に得たのだ。しっかりとした別れ、それはすなわち、この3つ目の共有によって達成された。SSSS.DYNAZENON勢としては涙を流さざるを得ない。
3333-2.ガウマと「ひめ」との邂逅
その「賞味期限」という解を物語に与えたのは、ガウマとひめの邂逅である。立花母の買い物に付き合わされたガウマ(と暦)。ガウマは、そのデパートの北海道物産展で、売り子をしている人物=ヒメと出逢う。
ここで「賞味期限」と解を渡すひめ。さて、この件について、ガウマが従前から知っていたことかどうかは、実は作中では明かされていない。3つ目をガウマが言い澱んだことから、ここで初めて知ったのではないか、と推察することもできるし、あえてそれを口にできなかったともとれる。
いずれにしても、そこは問題ではない。ひめが3つ目の解をしっかりとメッセージとして伝えたこと、そしてそれを『ガウマ』として受け取ったこと、という、過去の関係に決着をつける場面であり、「SSSS.DYNAZENON」視点では非常に重要なシーンなのである(デパ地下なのでそんな感じ出てないけど)。
そして前項の蓬たちとの別れのシーン、ひめが書いた(カニの)領収証がひらひらと舞い、ガウマの足元に落ちる。裏面には、こう記されていた。
これを見て、ガウマは涙を浮かべる。決別の宣言だからだ。おそらくこの二人は、もう二度と道中で交わることはない。だからこそ、ガウマの未来が、自分の存在によって曇ってはならない、ということを、あのデパ地下の時点で諭しているのだ。
この「賞味期限」をどう解釈するかは、おそらく他の著名な御仁が死力を尽くしていると思われるので、本稿では深く推測しない。しかし、ひめへの執着から「5000年前からミイラ」呼ばわりされているガウマにとって、「未来は有限なのだから、しっかりと人らしく生きてほしい」と、一番信じ続けた存在から自分の在り方を与えてくれたことは、これ以上ない喜びだっただろう。
さて、この二つの「SSSS.DYNAZENON」サイドの邂逅、実は「永遠の別れ」に近い。大円団を迎えた本編とは真逆の、別れによる関係値の決着を2つ消化しているのだ。
他にも邂逅という面ではゴルドバーンとちせが再開しラストバトルを打破するきっかけになっていたり、暦が就職したはずなのに「就活中なんで」と早期離職していることが明らかになったり、蓬が夢芽へのプロポーズを(婉曲的に)しているが、それはそれ。
これもまた「SSSS.GRIDMAN」サイドと真逆に描かれている。最終的に裕太の記憶は戻り、記憶の補完が完了し、喪失を復元するからだ。
4444.響裕太の告白が〇〇した理由って、なに?
結果から言ってしまえばもう大成功も大成功なのだが、そこに至るまでには、裕太が失ったもの(記憶)に対してしっかり向き合うことができた、という緻密な過程がある。
物語の終盤、グリッドマンを「見つけ出した」裕太は、グリッドマンの持つ「響裕太として過ごした記憶」について問いかける。当然、裕太のモチベーションとして、最初にそれを問うのは、ここまでの流れから、必然だろう。
グリッドマンは、この件が「今回の事態を招いた原因」とまで言及している。これには少し驚いた。機械的に戦ってきたように見えるグリッドマンにも、裕太に対する負い目というれっきとした迷い、感傷があったのだ。それこそが、今回のそもそもの発端だったと語る。
しかしグリッドマンとしても、裕太として過ごしたことで、人間の感情、機微などを習得できたまたとない機会だったのだろう。だからこそこうした心の迷いが生まれた。裕太として過ごさなければ、きっと機械的に悪と戦うヒーローだったのだ。
裕太は、あまり大切な部分の感情を表に出さないように描かれている。グリッドマンを通じて、裕太の人間臭さが垣間見えた、という合わせ鏡のようなシーンになっている。
かくして(記憶が戻ったと明言はされていないが)記憶の問題と向き合い、記憶がひとつながりとなった裕太は、(自分の中での告白の条件を満たしたので、)立花に告白する。
映画の冒頭で、「タイミング遅い。タイミング」と将に言われてから、数日以上が経ってから、である。
それに対する立花の回答は、最後まですれ違い、
そして、最高の結末を迎えた。
裕太からすれば、失ったことでディスアドバンテージになっていると思い込み、必死に取り戻そうとしていた、空白の2か月。しかし立花は、その2か月がなければ、この告白は成功しなかった、という返答だった。
失った2か月間の記憶がなかったとしても、受け入れる。それはすなわち、「今の」響裕太を好きでいる、という立花からのメッセージだった。
ある意味本人たちにとっては肩透かしの結果だったのだ。かけたパーツを補完しないといけないと思っていた裕太も、その条件がなくても受け入れる心の準備が整った立花も、少し拍子抜けした表情を浮かべていた。
告白直後にぎこちなく二人が半歩ずつ近づき、お互いに照れてしまい、それ以上近づけない。そんなシーンで、この映画はエンドロールが始まる。
その直後のシーンが入館特典の雨宮哲監督書き起こしのサイン入りポストカード。これを幕引き後に見たときの衝撃といったら、その破壊力は筆舌に尽くしがたい。ちくしょう大好きだ!末永くお幸せに!!!!!!
5555.映画タイトルがカタカナなのは、なに?
そう、タイトルにずっと引っ掛かりを覚えたままの劇場視聴だった。アニメ版は「SSSS.GRIDMAN」「SSSS.DYNAZENON」なのに、「グリッドマン ユニバース」。英語サブタイトルは与えられているが、なんで急にカタカナ? マルチバースという単語から多次元宇宙の話であり、その単語のチョイス自体はとてもしっくりくるのだけど、カタカナにする理由は何なんだろう? 今回はSSSSを入れないから? それって理由になるの?
……勘のいい人は事前情報で気づけたのかもしれないが、筆者は劇場視聴しなければわからなかった。正確には、劇場視聴したあとに主題歌「uni-verse」の歌詞を見なければわからなかった。
おそらく考察班の多くはここに注目すると思われるし、解釈を進めていると思う。この部分は他の方に任せるとして、自分が膝を打ったのは下のポイントである。
ここを読んで「uni-verse」というタイトルの意味の核心に気付いた。
もうタイトルがネタバレだったのか。わからなかったよ・・・
つまり、uni-verseとは「たった一つの言葉」という意味。オーイシマサヨシ氏がこの物語に対して書き下ろした際につけた、一番大切なポイントをタイトルにしているのだ。
当然「たった一つの言葉」とは、劇場の2時間をかけて生み出されたこの一言である。
そう、オーイシマサヨシ氏も、この物語は「少年が少女に告白する話」ととらえているのではないだろうか。
気付けば、この曲の中で登場する「ユニバース」はすべてカタカナ。つまり、「宇宙」という意味で正確に用いているわけではない。
この一行は、裕太や立花の、「周りの状況が変わっても、自分の気持ちは変わらない」という固い意志を歌っているように聞こえる。
そしてこの件については、
もうとっくの昔に(↑3月8日公開)本人が回答してましたけどね!!!!!
しかもびみょうにずれてるし!!!!!
ただ、「単一の」という意味についてオーイシマサヨシ氏は上記インタビューで言及していない。まぁ、上記のような解釈もありますよ、ということで・・・
6666.結局言いたかったことって、なに?
特撮系カタルシスをこれでもかというぐらい詰め込んだ壮大な大勝利告白劇なので、映像ソフト化したら絶対見てください。
当然ですがTV版は全部見るんだぞ!絶対だぞ!
7777.以下小ネタに対する反応(箇条書き)
・登場シーンからよもゆめ最高です。爆発しろ(誉め言葉)
・全般的に伏線の貼り方がとても綺麗、魚の骨まで食べられる感じがよい。冒頭の「グリッドマンを書いては消す裕太」の行動が、フィクサービームと破壊光線の話につながりつつ、上記のようなメタファーとしても機能している点が美しい。
・裕太自宅、複層次元下で暦家と同じ位相なのちょっと笑っちゃった
・幽霊トリック=グリッドナイトの干渉なんだけど、そこをミスリードするネタとしても当然機能しているんだけど、風呂場で鉢合わせる無職っていうのがなんか切ない
・「SSSS.DYNAZENON」からそうなんだけど、相変わらず世界観に関する細かい説明はまったくないし、今回も「フィクサービーム」というグリッドマンの世界修復機能が急に登場したので「ふーん」ってなってしまう点はまぁ気にしないのが吉。ここを気にする人はそもそも、「SSSS.DYNAZENON」途中で見るのやめたと思うんだ
・fixer beamだから「修理(fix)する光線」なんだけど、fixって「固定」という意味もあるよね。「人々の記憶を(元ある状況に)固定する光線」って考えると、グリッドマンちょっと怖いし、裕太が微妙な表情をするのもわかる
・フィクサービームという単語が出た時点で「今回のグリッドマンは、「SSSS.GRIDMAN」とは違って異質」と気付けるひとは気付けるのかもしれない。いや自分無理でしたけど
・最終決戦の勝利BGMが「インパーフェクト」「UNION」「uni-verse」という順番なのはちょっと最高過ぎませんか。
・「さあ始めよう僕らの未来を始めるために今君が必要なんだよ」→「君を退屈から救いに来たんだ」→「ここが僕らのユニバース」でしょ流れ完璧すぎる
・マルチバースという舞台装置がある中で、虚構(フィクション)という言葉をすごく大事にしているし、これが受け手側への投げかけかなと感じている
・二代目(小)の「人類は虚構を信じられる唯一の生命体なんだよ」という言葉は、「何をもってフィクションとするか」という本質的な問いを投げかけている。それに対して物語中では解決を求めていない
・フィクションのメタファーとして登場するのは、立花と将が書く脚本
・立花と将が何度も脚本を書き直すにあたって、当初「リアリティに欠ける」という理由で書き直されるわけだけど、これは「リアリティがなければフィクションたり得ないの?」という創作側の問いでもある
・最終的に立花は「(観客が)楽しんでた、それなら(脚本を)書いてよかったのかな」と語っている
・フィクションであっても自己の主張を貫くのは難しい、というジレンマを抱えたまま創作活動が行われていることへの鬱憤なのかもしれない
・特に本作は、商業ベースではあるもののスピンオフ、いわば二次創作であることから、本作でこのような投げかけが行われたことは意義があると思う
・アレクシスが立花父になったシーン、すごくストーリー上で重要なのに、稲田徹さんがいい声すぎて笑いそうになっちゃったのここだけの秘密
・でもまぁ「なじみ過ぎてる感」が出過ぎていて、視聴側はかえってドキッとするよね。あの演技できる稲田さんホント尊敬します
・幕引きの蓬家、カニの味を「ふつう」と蓬母。すごいキーアイテムだったんだけど、これを「ふつう」といって締めるのはさすがだなぁと膝を打った。フィクションの件を問題提起したまま視聴者に委ねる本作において、「価値観は人それぞれ」みたいなメッセージを残す意味があったのかもしれない。
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