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TOKECOM生、米国人講師に英語でキャリアの話を聞く。 

サウナのような猛暑が続いています。レポートに試験にと勉強の汗もしたたるこの季節は、留学経験者の帰国報告会に続き、新たに渡航を控えた学生のカウントダウンが始まる時期です。留学前の準備期間をどのように過ごすのか?という事例として、本記事では、学生が取り組んだあるインタビューをご紹介しましょう。

「メディア×国際」を謳う新学科体制2期生の山中拓弥さんは、この夏から豪州に留学予定。「異文化マネジメント」を学びのテーマの中心に添え、語学学習のみならず、社会調査の実習にも熱心です。今回、山中さんが取り組んだインタビューでは、「異なる文化的背景を持った人々の組織を率いるリーダーは、どんなことに配慮し、よりよいチーム作りに努めているか」という問いを立て、経験者に話を聞きに行きました。インタビュー相手は、普段、山中さんが利用している本学グローバルラウンジ「コトパティオ」のコーディネーター、マーカス・ジョージ氏。米国出身のマーカスさんは多国籍企業でマネージャーを務めた経験があり、山中さんの調査で「話を聞きに行きたい」お一人だったというわけです。

研究依頼書からインタビュー本番までのやり取りは全て英語で行われ、その記録は英語で6,000words、日本語訳は12,000字ほどになりました。「ネイティブ講師」マーカスさんの豊かなキャリアと興味深い経験に、山中さんは大いに魅せられたといいます。インタビュー当事者お二人の許可のもと、以下にその和訳の一部(編集済み)をご紹介します。

【インタビューより抜粋】

―ご協力ありがとうございます。まずは軽く自己紹介をお願いします。

僕はマーカス・ジョージです。初めて日本に来たのは1989年で、学生だった。大学を出てアメリカ政府で6年ほど働いたあと、東京と沖縄で働いた。その後、オーストラリアでエンジニアリングの学位を取得したり、エンジニアリングの仕事をしてたね。そして、金沢に戻ってきたんだ。レストランで自分のビジネスを始めた後、大学で働いた。再び上京して、スタートアップの仕事を始めた。2000年から約10年間、多国籍企業でのマネジメントを経験したよ。それからここ東京で、実に多様なキャリアを積んだ。伊藤忠商事、オラクル、花王、シチズンの人材開発(社員研修)を担当したこともある。東京大学で講師もやったよ。あ、言い忘れてたけど、テキサス出身だよ。

ー多国籍企業でマネジメントをした経験、とりわけ人事に関わっていたときの話を聞かせてください。異なる文化を持った人々が同じ組織で働くと、どんな問題が起きるのか、その時どのように対応するのかに関心があります。
 
 そうだね、異文化、異なる国籍の人々をいかにマネジメントするのかというのが主なテーマだと思う。日本人がこのようなトピックについてどのように考えるか、そしてアメリカ人である私のような人間がどのように考えるか。これはとても大きなテーマだ。

君たち日本人は、まず国籍(nationality)を気にする。「彼はアメリカ人だ」とか、「中国人だ」とか。でも、私のようにアメリカ人であると、学校でも、近所でも、異なるナショナリティを持つ人々のなかで育ってきた。僕らにとっては珍しいことじゃない。僕の学校には日本から来た生徒がいた。フィリピンから来た子もいたし、ヨーロッパから来た子もいた。だから、私たちは国籍にはあまりこだわらない。国籍に関係なく、一個人としてこの人は何者なのか?ということを意識する

そして、異なる文化や価値観によって引き起こされる問題について。特にビジネスにおいては、これはあまり重要な問題ではないんだ。その人の文化や価値観に焦点を当てるのではなく、会社の価値観、会社の文化に焦点を当て、その人が会社の文化に合っているか、その人は会社の価値観、会社の方針に合っているか、皆を平等に扱っているかをみる。そして基準は、その人の個人的な目標が何であれ、販売員なら販売目標は何なのか、サービスマンならサービス目標は何なのか、顧客サービスはどうなのか、フィードバックの評価はどうなのかを確認する。そういうことなんだ。そして、その人のスキルは何かということ。

もちろん、それぞれの文化に基づいたリクエストを受けることもあるよ。例えば、イスラム教を信仰している人がいて、宗教の関係で今週は休みたいというような要望があるかもしれない。あるいは、日本人が日本の伝統的な行事で特別な休みが必要だとする。父親が亡くなって7回忌だからこの日は休まなければならないとか、そういうこと。でも、そういうことは、あまり関係ない。僕が言ったように、適切な人材を雇うことだ。面接でそれを見極め、明確にする必要がある。会社の価値観に合っているか?会社の目標やゴールに貢献できるか? それができれば、国籍に関係なく、彼らは自分たちが受け入れることのできる人だ。個人の文化、個人の価値観は、どちらかというと、一人一人の人生やプライベートな生活のなかでより重要になるものだと思うよ。

つまり、国籍がどうこうより、「合っているか」どうかで選ぶっていうのは、個人の生活、人生でも自然なことでしょ。誰と結婚するのか?誰と友だちになるのか?自分の子供たちをどこの学校に通わせたいかとか、自分の子供たちがどういう人たちと友達になりたいかとかね。

でも、会社と取引するときは、会社はあなたに給料を払ってこの仕事とサービスを提供しているんだ。重要なのは、それができるか、できないかだけだ。だから、「異文化の摩擦」問題はあらかじめ解決された問題ともいえる。その問題を解決する最初の方法は、適切な人材を雇うことだ。会社の目標を明確にする。会社の価値観に合った仕事をしてもらって、それが自分にも合っているかどうかを問うんだ。

―日本の企業文化や働き方について、特に適応するのが難しかったことは何ですか?

意思決定の遅さ、スピードより完璧を重視するということだね。グローバル社会を経験した若い世代への交代で、その風土も着実に変わってきているとは思う。それともう1つ、insularという言葉をどういう風に捉えてる?

―日本語で、ですか?

うん、日本語は?

―「島」ですか?

似たような感じだよ。英語の定義を見てみよう。insularとは、自分の文化以外の文化や考え方、問題に無関心である、無知であるという意味。つまり、「無知」であるということは、自分の文化以外の他の文化について知らない、関心がないということ。当時日本ではinsularな態度や考え方が多いことに気づいた。90年代後半から2000年代前半にかけてのことだった。これは大きな問題のひとつと思うよ。でも今、日本は変わりつつあると思うよ。

―人を雇うとき、きちんと仕事内容を示してできるかどうかを問うというお話。採用される側としては、明確に「答える」ということがかなり重要だと思いました。

すごく身近なところを見てみよう。コトパティオ。5人のスチューデントスタッフがいて、全員と面談をした。そのなかで僕が特に尋ねたのは、「大勢の生徒の前に立って英語でプレゼンテーションをする自信はありますか?できますか?」という質問だった。

もし、「できない」と言われたら、その人を採用することは難しい。だってその能力は必要だからね。あと、「もしここに誰もいなかったら、外に出て、知らない学生に声をかけて、来てみないかって呼びかけられる?」ってことも聞いたよ。なかには「怖い。できない」と言う応募者もいる。そうしたら、君はあまりこの仕事には向いていないかもねって。だから、まず聞いてみるんだ。そうしたら、「はい、できます。自分できます!」みたいに答える人もいる。素晴らしいよ。もしかしたら、本当はできないかもしれない。でも今、「イエス」と言った。そうしたら彼らはそれをする必要があるんだ。

実際に僕が彼らを採用して、「よし、外でやってきてよ」と言ったら、少しためらう人もいるかもしれない。だけど、そうしたら、「でもあの時できるって言ったよね」といったら、みんな確かに「そうだね」って。
でもそれだけじゃよくない。そうなれば、お手本を見せることが必要なんだ。「じゃあ、一緒に行こうか」って言ってやり方を教えてあげる。そうすれば彼らはやってくれる。だから、本当に一番最初から同意を得る必要があるんだ。会社では、自分の職務内容を細かく説明した職務記述書があって、それを相手に見せる。こんなことできるのかって相手側は確認する。そして、内容をしっかり全部確認するんだ。そして別の会議を開いて、話し合う。一度合意すれば、ほとんどの問題は解決する。でも日本では、採用された人が自分の仕事が何なのかさえ知らないことがよくあると思うんだ。

最後に。
今日話したように、同質的な日本人にとっては、国籍の違いは、とっても大きな問題として意識される。でも、僕みたいにほかの国から来た人間は、常に多国籍の人々と接する環境で生きてきた。そんななかで国籍ではなく「個人」であることを学んでいくんだけど、これこそが、フォーカスしないといけないことなんだよ。

日本ではよく、「好きな日本食は?」とかって聞くと思うんだけど、アメリカでは、例えばニューヨークに行ったら、誰も「あなたの好きなアメリカ料理は何ですか?」なんて聞かないよ。そんなことは決して言わない。その代わり「ニューヨークのどのレストランが好き?」みたいに聞く。アメリカの食べ物に焦点を絞っているわけではないからね。だってそれぞれ個人のなかで、ドイツ料理贔屓とか、メキシコ料理が合ってるとか、好みがあるでしょ。発想が違うんだ。それが良い悪いとかではなく、ただ考え方が違うっていうだけのことなんだ。

【抜粋(終)】

山中さんは、「国籍より個人にフォーカスする」というものの見方、そのために「チームの目標や理念を明確に示す」という点について、今後も考察を深めていきたいと振り返りました。渡航前に「学びたいこと」を具体的に定め、手探りで「まずやってみる」経験があると、海外留学はより主体的に、より充実したものになるでしょう。もちろん、想像だにしなかったものに出会う「予想外の展開」も留学の醍醐味ではありますが。どうかお気をつけて、いってらっしゃい!

さて、これから始まる長い夏休み。多くのTOKECOM生が"他者"と出会い、世界を広げ、自分自身を豊かにする「異文化体験」に恵まれますように。


(松永智子)


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