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元タカラジェンヌに「声援」を

 宝塚を退団した生徒が誰しも通らねばならぬ道がある。宝塚からの心の退団である。これが一番大変だと私は思う。歌劇団を卒業する時は、退団発表をしたその日から、最後に大階段を降りる日まで沢山のイベントがあり、最後は多くのファンの方に見送られるものである。もう思い残す事は無いからと、殆どの人が語り旅立ちを決意する。「退団は特急列車から飛び降りる様なもの」と言ってた人がいた。皆でずっと同じ列車に乗っていた筈なのに、急に飛び出して自分の足で歩けと言われるのである。次の公演を観に行った日…そこにいない自分を見て、退団した事を現実として受け止めて何だか寂しくなる。沢山の人に「おめでとう!お疲れ様!」と言われるから、当時はこういった喪失感を何だか言葉にしてはいけない気もしていた。

 心が宝塚にある。そんな感覚が無くなる時、それは自分が新しい世界に飛び込み、新しい人に出会い、それを積み重ね、そこに段々と情が湧いて思い入れが出来上がってきた時に、初めて新たな世界の住人となり、心の退団が出来るのだと思う。愛していれば愛しているほど、情熱をかければかけるほど、それは大変な作業だと私は思う。いや実際に今だに私だってそんな思いがこみ上げてくる時がある。

 前の話になってしまったけれど、真彩さんの退団後初のDS。あんなに実力者の彼女でもとても緊張していた。

「急に怖くなっちゃったんです。」と…

それを聞いた時に、「ああ、きいちゃんとても宝塚を愛していたんだな」と思う。そして、彼女も旅立ちの儀式が始まったんだなと思う。彼女の「声」は天使の様に、キラキラと鳴る人だけれど、当日は少し緊張した「声」で…固い「声」で歌い始めていた。その「声」が彼女が一人の表現者として自立して歩き始めた、「初声」なんだと思う。ここから、沢山の事を経験してきっと彼女の「声」はまた変化していくに違いないと思う。きっと何年か経って、自分の新しい世界に思い入れが強く出来た時、彼女は心の退団を終えて一人の自立した女性として歌い出す。その時の「声」はどんな風に鳴っているんだろう?

 月組が公演を終えて、今、新しい月組が動き出している。退団者が沢山会いに来てくれた。彼女たちの話を聞いて、これからの夢を語る姿は緊張した面持ちで…少し迷いながら話す。希望に満ち溢れている様で不安でもあるんだと思う。頑張れ頑張れ。大丈夫大丈夫と「声援」を送り、最後に「また会おうね!!」と必ず言う。心の中で、本当に会えるか、1年に何回会えるのか分からなくなる事は知ってる。でも必ず言う様にしている。

 今お稽古が始まったあの場所にいない退団者達の人生はこれからもずっと続いていく。もう次の公演も次の役も決めてくれない。自分で選択して自分で行動して歩く。責任は全て自分にある。彼女たちの中にある「宝塚」が過去の場所になるまで、これから一歩一歩自分の足で、自分の速さで、歩んでほしいなと思う。そうやって同じ思いを抱えた、元タカラジェンヌ達がどこかで皆頑張ってる。それがやがてエネルギーの源になる。そして、堂々と後ろを振り返られる様になったら、また思い出して「楽しかった!!」と笑ってほしいなと思う。

人生はこれから…そんな彼女達に今後とも、熱き「ご声援」を。

すーさん

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