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夏休み自由研究

小1夏休み、はじめての自由研究。おかあさんは弁理士、実用新案登録出願してみようか☆彡


おかあさんは弁理士

まずはわたしの職業について書きたいと思います。

「夏休み自由研究」というタイトルでなぜ母親の職業について語るのか?

それはのちほど。


わたしは「弁理士」というマイナーな士業をしています。

弁護士や税理士に比べたらマイナーな士業なので「便利屋さん?」などと聞き返されることもしばしば。

わたしもこの職業を知ったのは大学院生の頃でした。


ウィキペディアによれば、弁理士とは

優れた技術的思想の創作(発明)、斬新なデザイン(意匠)、商品やサービスのマーク(商標)に化体された業務上の信用等を特許権、意匠権、商標権等の形で権利化をするための特許庁への出願手続代理や、それらの権利を取消又は無効とするための審判請求手続・異議申立て手続の代理業務を行うものである。

平たく言えば、特許権を取得するための手続などをメインに、特許庁に対する種々の手続を行える職業です。

国家資格であり、弁理士でないものが報酬を得て出願手続代理をすることは弁理士法で禁じられています。

発明、特許、と聞くと、なんだか難しそうだな、と思う方もいるでしょう。

正直、難しいものが多いです。弁理士の8割は理系出身。昨今は大半が修士以上。

わたしも工学系の修士ですが、発明、特許というのは、最先端の技術を扱う世界なので、技術的な面でも法律的な面でも勉強の毎日です。


我が子の夏休み自由研究計画

さてさて、わたしには子供が2人います。上の子はこの春小学校に入学しました。ピカピカの1年生です。

弁理士のわたしが前々から思い描いていたこと、それは

『子供が小学生になったら、夏休み自由研究で「実用新案登録出願」をする』

???

いきなりすみません・・・説明が足りませんね。

「実用新案登録出願」とはなんぞや。


弁理士の主な業務は特許権を取得するための手続だと先ほど書きました。特許権の仲間に「実用新案権」というものがあります。

実用新案権、ビジネス上は取得する価値がないと言われることもある権利なんですが・・・これはのちほど簡単にお話するとして。

「実用新案権」を取得するためには「実用新案登録出願」をする必要があります。

実用新案登録出願の対象となるのは

物品の形状、構造又は組合せに係る考案であって、自然法則を利用した技術的思想の創作であるもの

です。

難しい話を端折ると、特許権は高度な発明に与えるけれど、実用新案権はそれほど高度じゃないものでも与えますよ、という趣旨です。少し工夫した物品の形状とか構造とか、そんなものが対象になります。


特許制度というのは、今までにない優れた発明をしたので特許権を認めてください、と特許庁に特許出願をして、特許庁が審査をした上で特許権が付与される、というものです。

審査をする関係上、けっこうなお金がかかります。

特許権を取得するまでに、特許庁に納めるお金だけでも最低15万円。

一般的には、わたしのような弁理士(特許事務所)に依頼して特許権を取得することが多いので、特許庁に納めるお金と合わせて少なく見積もって50万円、100万円を超えることも。


一方、実用新案権というのは「無審査登録主義」が採られています。

特許権取得と同様に、今までにない優れた考案をしたので実用新案権を認めてください、と特許庁に実用新案登録出願をしますが、特許庁はその具体的な内容について審査をしません。

審査なくして与えられる権利、それが実用新案権なのです。


え!?出願しただけで特許権の仲間の権利がもらえちゃうの!?と驚く方もいると思います。特許取るってすごいことでしょ?みたいな。

ご安心ください(?)。実用新案権、審査を経ていないので、特許権とは違って、そのままでは使えない権利なんです。


特許権は、厳格な審査を経て得られる権利のため、同様の発明を実施している他者を排除可能な権利なのですが、実用新案権はそうはいきません。

実用新案権を行使するためには、特許庁に改めてその権利の有効性を判断してもらう必要があるのです。有効と認められたのちに、他者に対してその権利を行使することができます。

有効性を判断してもらう際には、特許の審査のような手続(実用新案技術評価の請求)をすることになります。この際、特許庁には数万円程度のお金を払うことになります。なお、そもそも実用新案登録出願のために弁理士(特許事務所)に依頼して実用新案権を取得するのであれば、特許同様、最低でも10万円は費用がかかるでしょう。


このように、実用新案権、無審査で得られる権利であるが故に、他者に対して権利行使をする際にはハードルがあるのです。


昨年だと、特許出願件数が年間30万件超えに対して、実用新案登録出願件数は年間5000件台。実用新案登録出願の数は特許出願の数の2%にも満たないわけです。


そんな、世の中から見捨てられつつある、実用新案登録出願制度。


正直、わたし自身、実用新案登録出願をしたいとの依頼を受けたとしても、かなり慎重に判断しています。

特許が取れなくても実用新案なら・・・という考えもあると思いますが、種々のリスク(ここに書くと長くなるので割愛)もあるため、プロとしては判断に迷うところです。おススメしない場合もあります。


ここまで読んだ方、お気付きでしょう。

『子供が小学生になったら、夏休み自由研究で「実用新案登録出願」をする』

はじめにそう書いたじゃない???

実用新案登録出願をおススメしないってどういうこと???


確かに、実用新案権を取得するビジネス上のメリットは慎重に判断しなければならないと思っています。わざわざお金をかけて取るべき権利なのかどうなのか。

でも、ビジネス目的ではなく、文化的&教育的な視点に立つと、別の魅力があると思うのです。


独自目線によるメリット

実用新案登録出願をすれば、無審査で実用新案権が得られる。「登録実用新案公報」という文書が特許庁より公開される。この文書はインターネット等を通じて世界中に公開され、「考案者」の名前が掲載される。無審査で登録になった暁には、「実用新案登録証」という黄金色の登録証がもらえる。


「考案者」の名前が世界中に公開されるんです。公の文書として。

まあ、これは特許出願についても同様のことが言えるのですが。

これをメリットと考える人はやはり一定数いるようです。例えば、お金持ちで趣味でやっている街の発明家などは、特許出願して世界中に我が発明が公開され、発明者として名前が掲載されることに価値を感じているようです。たとえ特許権が取れなくても公の文書が出るわけですから、承認欲求は満たされますよね。

また、研究の世界でも、論文には査読というハードルがありますが、特許も実用新案も出願すれば必ず公開され、名前が掲載されます。研究発表の場としても、需要があるとかないとか・・・


それはさておき、わたしが感じたメリット、それは「無審査で登録になった暁には、「実用新案登録証」という、考案者の名前入りの黄金色の登録証がもらえる」こと。

小学生の自由研究、決して高度ではないけれど、子供らしくちょっと工夫を凝らした工作をして実用新案登録出願をする、そして特許庁から黄金色の登録証(賞状みたいなとても立派な登録証)もらいました!、って、自由研究として最高だと思いませんか?

特許の場合にも登録証はもらえますが、登録になるまでには、高度な発明をしてかなりのお金をかけなければならないわけで。

この点、実用新案の場合、無審査登録主義の利益を享受でき、2万円程度で済みます。

そんなわけで、わたしは弁理士として

『子供が小学生になったら、夏休み自由研究で「実用新案登録出願」をする』

ことを夢見ていたわけなのです。

わたしはプロですから、実用新案登録出願の書類作成はお茶の子さいさい。さてさてどんな工夫を凝らした工作をしようかな。けっこう前から考えていました。


ちなみに、昨今の状況では、実用新案登録出願をしてから登録になるまで2~3か月だとか4~6ヶ月だとか言われています。

夏休み期間のみでは名前入りの黄金色の登録証を受け取れないなぁ・・・小学校入学前には出願しないと間に合わない!?などと、いろいろ調べておりました。


無事に実用新案登録出願にたどりついたのか?

・・・さてさて、ここで、ちょっと問題。

我が子、当然のことながら未成年です。未成年が実用新案登録出願できるのでしょうか?

できます。その場合、原則的に親権者である両親が法定代理人となります。

法定代理人に加えて、もちろん、弁理士を代理人とすることもできます。

つまり、わたしは我が子の出願において、法定代理人、かつ弁理士としても代理人になれるわけです。

これね、わたし、旧姓で弁理士登録しているため、法定代理人:山田花子、弁理士:田中花子、みたいなことになるわけなんです!同一人物なのにダブルネームで公的な文書に名前が並ぶんです。

すごくないですか…♡


そんな話はさておき。


どんな工夫を凝らした工作をしようか、とは別に、制度についてもいろいろ調べていたところ、プライバシーに関して不安要素が見つかり・・・

結果、夏休み自由研究:実用新案登録出願計画は頓挫してしまいました。


不安要素・・・それは、「考案者の住所が公開される」ことでした。

特許制度、実用新案制度というのは、産業の発達に寄与するような発明や考案を公開した代償として独占排他的な権利を付与します、というものです。

ここで、発明や考案そのものに加えて、発明者や考案者の住所氏名も公開されてしまうんです。特許法、実用新案法の規定上。

昔々、インターネットが発達する前からある制度なので、当時はインターネットで瞬時に世界中に住所氏名が公開されてしまうわけではなかったのでしょう。

ところが、現状、そのような仕様になってしまっている・・・由々しき事態。

我が子の名前、法定代理人として両親の名前、そして自宅住所。これらがインターネットを通じて世界中に公開されてしまう・・・

危なすぎるだろ!!!

というわけで、夏休み自由研究計画は正式に動き出すこともなく、終了してしまいました・・・


例えば、会社員が職務発明として特許出願をする場合には、一般的に、住所としては会社の住所を書いており、自宅住所が公開されることはないんですよね。

これに対して、個人発明家の場合には、自宅住所が公開されてしまうリスク。ましてや未成年。ううう。


プライバシー保護の観点から、自宅住所が公開されないよう特許法、実用新案法が改正される日はくるのでしょうか・・・


日本弁理士会のパテント誌にこれに関する論考がありました。非常に興味深いです。

https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201607/jpaapatent201607_040-045.pdf

※結果、至ってシンプルな夏休み自由研究「あさがおいくつさいたかな」を実施しました。それはそれでよかったです。