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NPCを使うためのテクニック――NPCによってゲームを台無しにしないための、GMに向けたヒント――

はじめに

 GMをやる時に大変NPCを作り込んだ経験がある人は多いでしょう。
「このNPCには悲しい過去があり、それがシナリオと密接に絡み合っている! かわいそうだろう! PLのみんな泣いてくれ!」
 期待を込めてPLを見渡すとしらけた顔。
「はい、はい。かわいそうですね。じゃ、とっととシナリオを終わらせちゃいましょうか」
 あなたは涙ぐみながらこう思います。なんとノリの悪いPLだろうか。こんなに魅力的なNPCを用意したのに。なんて奴らだ。

 ……本当にPLのノリが悪かったからこのようなことが起きるのでしょうか。たまにはこういうこともありますが、たいていは違います。単に、GMであるあなたが上手くやれていないことが、空気を凍らせてしまっているのです。

 このNoteはそうした「PLがNPCを嫌ってしまった」状況に陥りたくないGM向けに、背景を作り込みつつ上手く盛り上げるヒントとなればいいな、と思って書かれています。TRPGのGM向けテクニック書籍などにはすでに書かれているような内容ではありますが、そういったものを持っていないGMには参考になるでしょう。

1.そもそもPLはNPCのことを冷酷な物差しでしかみていない

 よくGMが勘違いしがちな点として、PLは自分の作ったNPCのことを自分のPCと同じくらい大切に思っているという点があります。

 むろんこれは違います。PLはNPCのことをもう少しシンプルな物差しで見ています。
 この物差しにはこのような目盛りがついています。

「こいつは私に利益をもたらすのか? 損失をもたらすのか?」

 それだけです。それ以外の、相手の人間性とかそういうものは付いていないか、付いていたとしても物差しのメインではありません。
 PLはNPCのうち、自分に利益をもたらしてくれるNPCを好意的に見、協力します。そして、損失をもたらすNPCには不愉快を感じ、物語から排除することを試みたり、非協力的に振る舞ったりします。

 PCではなく、PLへの利益をもたらすか、損失をもたらすかという点に注意してください。
 そのNPCによって経験点や金などのリソースがもたらされたり、ボスを倒すための手がかりがもらえたり、PCを褒めたりカッコつけさせてくれたり、そのほかPLが快感を感じるものが利益です。逆に、そのNPCがPCのリソースを削ったり、PCを攻撃したり、PCを貶したりダサく見せたりするなど、PLが不快を感じる物が損失です。

 例を挙げましょう。
 ファンタジー物のTRPGで、高潔な心を持った美しい聖女を悪魔の手から救うシナリオをあなたが考えたとしましょう。聖女には悲しい過去、守るべき人々がたくさんいます。善良ですばらしい人間です。
 しかし、PLはこの聖女について、「そのキャラクターが善良かどうか」ではなく、「自分に対して利益をもたらすか損失をもたらすか」を物差しにしてチェックします。
 この時、GMがやるべきなのは、聖女のキャラクターを過剰に作り込むことではありません。聖女をPCに救ってほしいなら、聖女の生存がPLの利益につながり、死が損失につながるように工夫しなければなりません。
 逆に、悪魔を倒させたいなら、悪魔が物語から排除されなければPLの損失になるように造形しないといけないのです。

 PLの利益/損失とNPCの行動が一致しない場合、概ねにおいてその造形は空気を冷やし、物語を空回りさせてしまいます。

 利益/損失は概ねにおいて、以下の3つの秤をベースに判断されます。

2.利益/損失の三つの秤

 第一の秤は「このNPCがPCのリソース(金、経験値、HPやMP、浸食率など)にプラスの影響を与えるのか、それともマイナスの影響を与えるのか」です。これをリソースの秤と呼びましょう。

 第二の秤は「このNPCは生きていることでPCをカッコつけさせてくれるのか、それとも物語から排除されればPCがカッコつけられるのか」です。これを演技の秤と呼びましょう。

 第三の秤は「このNPCが生きていることで物語が進行するのか、それともこのNPCが物語から排除されれば物語が進行するのか」です。これを物語の秤と呼びましょう。

 この3つの秤のすべてがPLの利益に傾けば、PLはそのNPCが生き延びることを望み、生存させるために努力をすることを楽しみます。逆に、損失が利益より大きいと感じれば、PLはそのNPCが物語から退場してくれることを望み、それが叶えられないと不満を感じます。ちなみに体感的に、多くのPLは損失を利益のおおよそ2倍多く見積もる傾向にあります。

 生かしておきたいNPCはこの3つの秤をすべて利益(生存することでPCのリソースを増やし、PCをカッコつけさせ、物語が進行する)方向に傾けるように造形すべきですし、逆に排除してほしいNPCはこの3つの秤をすべて損失(退場することでPCのリソースを増やし、PCをカッコつけさせ、物語が進行する)方向に傾けるよう造形すべきなのです。

 先ほど挙げた聖女と悪魔を例にしましょう。
 
 まず、リソースの秤からやりましょう。
 PCに聖女を救わせたいなら、PCが支払うリソースよりも、聖女を救うことでもらえるリソースが大きいものとしましょう。例えばPCが支払うリソースがシナリオ終了時には回復するHPやMPなどのステータス、情報収集のために必要な金銭なのに対して、聖女を救えば大きな金銭と経験点のリターンが返ってくるようにPLに示せばいいのです。
 悪魔を倒させたいなら、悪魔を物語から排除することによって失われるリソース(HP、MP、装備を整えるための金銭など)よりも、悪魔を排除しないことで失われるリソース(聖女が死ぬことによって得られるはずだった経験点や金銭を喪失する)をPLに示せばいいのです。
 逆に、やってはいけないのは「真の善行は無償の奉仕に宿るから」などと考えていっさいのリソースをPLに提示しないことや、極端に少ない報酬でPCをこき使うことです。これはPLを不愉快にします。何故ならPLはゲームを楽しみにきたのであって、道徳の授業を受けにきたのではないからです。無償の奉仕は自発的にやりたいと思ったときにやるものであって、強要されるものではありません。演技の秤の部分にも繋がりますが、極端に安い見返りを提示することはそのPLのPCを軽んじているようなもので、そのPCのロールプレイを損なうこともあります。
 これがリソースの秤が崩れた状態であり、概ねそのNPCへの好意をPLは失います。

 次に演技の秤はどうでしょう。
 PLに聖女を救わせたいなら、聖女を救うことでそのPCがカッコつけられるように聖女のキャラクターを造形しましょう。PLがやりたい演技を聖女が満たしてくれるなら、喜んでPLは聖女を救います。
 悪魔を倒させたいなら悪魔を倒すことでそのPCがカッコつけられるように悪魔のキャラクターを造形しましょう。倒すことでPCがきわめてすてきな演技ができるなら、PLは喜んでそのNPCを倒しに行きます。
 最大の間違いはここで、「味方が必ずしも善玉とは限らないから……」などと言って聖女を変に邪悪にしたりするなど、助けることでPLがPCをカッコつけさせることが難しいようなキャラクターとして造形してしまうことです。
 あるいは「敵には敵の事情があることにした方が物語に深みが……」などと考えてごちゃごちゃと敵の背景を凝り、倒すことでPCがカッコいい演技ができないようなキャラクターとしてNPCを造形してしまうことです。
 これをやるとPLはGMのことを「自分の語りたいことだけはやたらと凝るくせに、こっちのことは目に入らない自己中心的なヤツ」と思うようになります。当たり前ですが、PLは自分のPCを演技の中心に据えたいのです。GMのNPCではありません。
 かくのごとく演技の秤は崩れ、そのNPCへの好意も失われます。

 最後に物語の秤はどうでしょう。
 例えば聖女を救うことがシナリオのクリア条件だとPLがわかっていれば、そのためにPLは尽力するでしょう。どうやって救うか考え、そのためにPCの行動を考えます。
 逆にPCが介入しても何の意味もない場合、PLはそのNPCのことがどうでもよくなります。例えば、何をしても聖女は救えず死ぬことがわかってしまえば、聖女のことはどうでもよくなります。概ねそのようなPLはGMに向かって丸めたメモを投げつけることをゲームの目的にし始めます。
 悪魔を倒させたいのなら、悪魔を倒すことで物語が進まなければなりません。例えば、聖女を救うのがシナリオのクリア条件であれば、悪魔を倒すことによって聖女を救うことができるだとか、聖女を救うためのキーアイテムが手に入るだとか、そういった形をとる必要があります。
 忘れてはならないこととして、物語の秤がPLの利益の側に傾くのは、PLが操るPCが何らかのアクションを行うことで物語が進行するからです。PCが介入できないタイミングで勝手にNPCが物語を進める場合、そのNPCの生存はPLにとっては損失となります。
 例えば、前述した聖女が勝手な行動ばかりしてPCのアクションを無に帰すことを考えてみてください。あるいは自力で助かってしまうと考えてみてください。そのPLは聖女を救いたいと思わなくなるでしょう。
 物語を動かす仕事はPLが操るPCにゆだねるべきです。PLが操るPCが物語の主役になるからこそ、PLはゲームを楽しむのです。そこでGMがPLに主導権を渡さないなら、何のためにPLがいるのかという話で、ゲームは破綻します。
 
 三つの秤を意識することによって、NPCがPLにとって魅力的になるように造形することができます。まずは三つの秤を意識して、NPCを造形してみましょう。その上で、キャラクターを作り込んでいくのです。そうすれば、素直にPLはそのキャラクター造形を喜ぶでしょう。

3.上手く三つの秤を使うためのテクニック

 このNoteを読んだあなたは三つの秤について覚えました。
 でも、それを上手く使うためにどんなテクニックを使えばいいのかわからない人もいるでしょう。
 
 以下のテクニックは古典的なもので、すでに様々なTRPGのルールに取り入れられているものですが、三つの秤を管理する際にきわめて有効です。

・リソースの可視化(リソースの秤)

 表の形でもメモの形でも何でもいいので、PLには「この目標をクリアすれば○○というリソースを得られる」という内容を常に見せておくべきです。その上で現状の手持ちのリソースをどの程度消費しており、どの程度消費することが予想されるのか、ざっくりとPLに書かせておき、リソースの損失を過剰に見積もっていたり利益を過剰に見積もっているようなら、ゲームのテンポを損なわず、また先を知りすぎて緊張感が失われないような方法で修正していくやり方を取ってみましょう。
 例えば体力というリソースであれば、敵と戦うことで体力が消耗することをPLが過剰に恐れているようなら、「この後回復するタイミングがあるからそこまで心配しなくていい」などと伝えてしまうのです。
 これはPLが自身の持っているリソースをシナリオで活用することにもつながりますし、リソースの損失を過剰に恐れてNPCを嫌うことを防ぐことができます。

・今回予告(演技の秤/物語の秤)

 聖女の例であれば「今回のシナリオ目標は"聖女を救うこと"です」と、そもそもシナリオ開始前に伝えてしまうのが今回予告です。
 こうすれば多くのPLはPCの造形を、聖女を救うことがPL自身の利益になるような方向性で行うでしょう。例えば"聖女を信頼している神官戦士"や"不信心ではあるが根は善良な盗賊"などをPCとし、"あわよくば聖女を暗殺したいカルティスト"や"聖女の権威失墜をねらう野心的な官吏"などをPCとするのは避けるでしょう(もしくは最終的には聖女を助ける方向に舵を切る前提でそう言ったキャラクターを演じるでしょう)。これにより、シナリオに出てくるNPCとの関わり方をPLは理解することができ、GMとPLの双方が気持ちよくゲームを進められます。

・ハンドアウト(リソースの秤/演技の秤/物語の秤)

 ハンドアウトはもう少し細かな今回予告です。PLごとに「あなたのシナリオクリア目標は聖女を救うことだ」「あなたのシナリオクリア目標は悪魔を倒すことだ」と伝え、それにそってPCを造形してもらうのです。
 これによって、PLごとに何をすればリソースが得られるのか明瞭にしたり、演技の方針を伝えたり、シナリオクリア目標を微妙に変えたりすることができます。
 例えば、安いオファーで動かないPCに対して、NPCがあえて安い報酬を提示する場合「君は無慈悲な傭兵だ。今回の依頼人はひどく安いインセンティブを君に提示してきた。だが、君はその人物が高名な聖職者であると知っており、彼女のコネクションは長期的に見れば魅力的だと思ったため、その仕事を受けることにした」などとハンドアウトに書けば良いのです(その上で、シナリオのエンディングでちゃんと"次の仕事"に繋がっているという演出をすべきです。PLを裏切ると信頼を失いますからね)。

・シーン目標の提示(物語の秤)

 ゲームの各シーンごとに「この場面では何が目的なのか」をGMが明瞭にすれば、ゲームは円滑に進みます。ちょうどゲームなどの画面端に「クエスト目標:○○を行う」ということが出てくるのと同じで、GMもシーンの最初に「この場面の目標は、悪魔の倒し方についての情報を探ることです」と宣言してしまえばいいのです。
 これによってPLはその場面で何をすればいいのかを簡単に理解することができ、何をしたらいいのかわからず困惑したり、NPCとどう関わっていいのかわからずうんざりしたり、あるいは目標を勘違いしてNPCを傷つけたりするようなことを大きく減らすことができます。

終わりに

 以上、NPCをGMが造形する際に注意すべき三つの秤と、そのための簡単なテクニックでした。このNoteがあなたがGMをやるときに参考になれば幸いです。

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