『モンブラン怖い』

人間には誰にでも怖いものがある．一説には，生まれた時に胞衣を埋めた場所の上を最初に横切ったものが怖いものになるらしい．ちなみに胞衣とはへその緒のことである．毛虫が怖い人がいるとすれば，その人のへその緒が埋まる場所の上を初めに横切ったのは毛虫ということになる．オケラが怖いならオケラが横切ったのだろう．兜みたいなものを頭につけて，まるでこちらにジャスチャーをするかのように手をいっぱいに広げる姿が気に入らないからという理由で嫌って怖がっても，本当は横切ったから怖いのだ．そういうことだ．ムカデがどうしても苦手な人もたまにいるが，足が多くて怖がっているのではなく，横切ったから怖いのだ．

そういえば怖いものがない人もいる．
「人間は万物の霊長！　動物の中で一番偉いのだ！」
確かにそういう考えなら怖いものなんてないんかも．
「そんな人間様に怖いもんがあってたまるか！　私には怖いもんも嫌いなもんも絶対に絶対にない！！」
ここまでくると，ちょっと癪に障る．そもそも嫌いなものが一つも無いことがあるんか．何かあるんちゃうか．例えば蛇とかさ、怖くないん．
え？怖くない？頭痛い時に頭に巻いて寝ている？？
そういう伝統があるところの出身やったのか．確かにいい感じに力が掛かって頭痛に効くのかもしれない．それなら，トカゲとかヤモリはどうやろうか．苦手な人もおりそう．
え？さんばいにして食べる？さんばいって広島の郷土料理の？？まあそんな人もいるか．え？蟻もごま塩にして食べる？見た目は似てるけど，動いて食べにくそうやわ．ほんまに食べている？というかなんか癪に障る．虫でなくてもいいから嫌いなものは無いのだろうか．

「わかった、そんなに聞くんか。それやったら言う。私はな、モンブランが怖いねん！！」

ヱ、モンブラン？？　モンブランってあのモンブラン？　最近デカい2000円くらいのが流行ってるあのモンブラン？？

「そう、私、ほんまは情けない人間やねん．みんなが好きなモンブランが怖くて、見るだけで心の臓が震え出すねん．そのままおったら多分死んでまうと思う．やから、ケーキ屋の前を通る時は、何回も足がすくんでもうて歩けかれへんなるから、どんなに遠回りやったとしてもそこを避けて歩くねん。京都は近頃なんでか謎にデカいモンブランの店が増えたから、私困ってるねん。ああ、こうやってモンブランのことを思い出したら，もうあかんわ，立ってられへん．そこに寝てもいい？？」

（八実、小吉と花子の三人は、正子が寝ている間に山ほどモンブランを買ってきてそれを枕元に置いて、正子が起きたらそれを見て恐怖のあまり死んでしまうようにしようと衆議一決。）

かまわへんわ、正子が死んでも、殺したのはモンブランやから．私たちちゃう。

あれ、奥でごそごそいい出したで．正子起きたんちゃう．障子に穴開けてそっと見てみようや．

　え、大変や！！　正子泣きながら，モンブランを食べてるで！！　モンブラン怖いってのは嘘なんちゃう？？

（障子を開けて）

ちょっと、正ちゃん！！　あんた、私らにモンブランが怖いって嘘ついたなあ。めっちゃ図太いわ。ほんまは何が怖いん？？？

ごめんごめん、いまタルト生地が喉につっかえてめっちゃ苦しいねん．ほんまはな，「一杯の紅茶」が怖いねぇぇぇん。

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饅頭怖い (yamanashi-ken.ac.jp)　(閲覧日　2023/05/12)