見出し画像

【センス・オブ・ワンダーとは何か?】

誰よりも愛してやまない二人の娘たちへ

 お父さんが大の自然好き、生き物好きということは、すでに知っていると思う。
 冬、冷蔵庫の野菜室を開けると春の芽吹きを待つオオムラサキの幼虫が入っていたし、リビングにはアラカシの鉢植えが置いてあって、キリシマミドリシジミという蝶の卵が孵化するのを待っていた。
 暖かくなると、冷蔵庫で越冬していたオオムラサキの幼虫はエノキを食べて脱皮を繰り返し、やがて蛹から神々しい紫色の翅を持ったオオムラサキの成虫が誕生する。蛹を小学校に持って行ってもらい、クラス全員で羽化の様子を観察してくれたね。キリシマミドリシジミのエメラルドグリーンを無理やり君たちに見せたこともあった。
 蛹から羽化する蝶の神々しさ、感動を君たちと分かち合ったことが何より嬉しかった。 
 このように自然と日常的に触れ合うことで、自然の美しさや自然から学ぶことの素晴らしさといった「自然に対する感性」を君達に育んで欲しいと思っていた。自然からの学びは、君たちが21世紀を生きていく上で、とても大切なことだからね。

 どうしてお父さんがそう考えるようになったのかについては、お父さん自身の育ち方と関係している。お父さんが子どもの頃から虫好きで、中学・高校と勉強そっちのけで昆虫採集に明け暮れていたことは、君たちのおばあさん(お父さんのお母さん)から聞いていると思う。大学でもツキノワグマと出会うために、地形図とコンパスを片手に獣道を歩いていた。
 こんな自然と向き合って育った体験が、社会人になって仕事で悩んだ時、人間関係に苦しんだ時、できの悪い上司と付き合う時、などに大いに活かされたんだ。具体的な話はいずれ書くと思うが、お父さんの話は置いておいて、君たちの幼少期に話を戻そう。

 家の本棚に1冊の写真集があることを覚えているだろうか?生き物好き、自然好きな人にとってはお馴染みの写真集「センス・オブ・ワンダー」だ。わが家が最も大切にしている考え方なので、改めて説明しておこう。

 「沈黙の春」という、農薬などが環境へ及ぼす影響に警鐘を鳴らした有名な本がある。その著者がレイチェル・カーソンというアメリカの生物学者だ。「センス・オブ・ワンダー」は、彼女が子供(甥)と過ごした自然と、その子の反応を、美しい写真とともに紹介した1冊だ。お父さんは「自然の不思議さ、美しさ、そして、それを感じる心」を君たちにも身につけて欲しいと考えていたんだ。

「自然は美しい」「自然界にあるものは美しい」一言で言うと、そう感じる心がセンス・オブ・ワンダーだ。自然界にあるものは面倒臭いとか、嫌いって言う人もいるよね。だって美しいかどうかなんて、それを見た人次第なんだから。けれど「この感覚こそが子育てにとって最も大切なことで、「自然体験は21世紀を生きる力の源だ」と言われたらどうだろうか?俄然、自然について知りたくなってきたのではないかな?

 君たちが生まれた直後に感じたものは何だっただろうか?お母さんの産道を通って泣き声をあげたと同時に感じたものだ。病院の白い天井、看護師さんの温かな手、タオルのふわっとした感覚、そしてお母さんの鼓動、そういえばお父さんが君たちを撮影していたビデオカメラのレンズも目に入っていたと思う。

 退院しても、しばらくは家の中にあるものしか感じることはできなかったと思う。すべて人が生活を便利にするために作ったものだ。
 MH、あなたが生まれたのはお父さんが大阪で仕事をしていた時のことだ。当時、借りていた家は服部緑地という、大阪北部で最も大きな公園のすぐ脇だった。マンションを一歩出れば、アラカシなどの常緑樹、クヌギやヤナギなどの落葉樹、ハスが咲く池が広がる緑豊かな環境だった。1月生まれのあなたが家の外に出て、生まれて初めて興味を示した自然は梅の花だった。あなたは白い花びらをじっと見つめ、目をそらすことがなかった。もしかしたら梅の花の香りを感じていたのかもしれないね。「なんだろう、これ?」とでも言いたげなあなたの表情は今でも目に焼きついている。そう、その時にあなたが感じたもの、それがセンス・オブ・ワンダーだ。
「好奇心」と言い換えると分かりやすいかもしれない。ハイハイができるようになってからはクローバーの上を転げ回り、葉っぱの匂いを嗅いだり、花を摘んだりしていたね。見るもの触れるものすべてが初めての経験、「自然界はあなたの好奇心を次々にかき立ててくれた」にちがいない。

※「自然体験」は「想定外」の塊 に続きます。
(不定期に更新します。興味を持たれた方はフォローをお願いします)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?