形勢判断の4要素 (1)駒の価値

形勢判断について(前提)

形勢判断には4つの要素があるとされる。駒の損得、駒の効率、手番、玉形のよさの4つだ。

(参考 https://www.shogi.or.jp/column/2018/07/post_413.html)

これらは最終的には、全て玉を詰ますまでの手数にブレークダウンできる。将棋における1局の目的は、自玉より先に相手玉を詰ますことだ。駒得も、手番も、駒の働きも玉の堅さも、相手玉を詰ますまでに自分の玉を詰まされないようにする工程の一部である。この全体像をつかんでからでないと、細部を見ようとしても得られるものは少ない。
(ここで適切な具体例をあげたい。勉強一般にいえるなんか全体像があると分かりやすくなるようなこと。スキーマ説明の洗濯のやつみたいな)

駒の価値を点数化しよう。

駒の価値は形勢判断のもっとも基本的な要素だ。十分な戦力があるかの指標になる。しかしながら、将棋において駒の価値はまだコンセンサスを得られていない。「将棋 駒の価値」などとネットで検索すると、いくつもの異なる考え、点数表を見つけられるだろう。
ここでは、私の使用している点数を示し、他より優れていると主張する。

まず、点数表は以下の通り。

点数表

  1. 飛車・角(大駒)・・・3点

  2. 金・銀(金駒)・・・2点

  3. 桂・香(小駒)・・・1点

点数自体は、ほかでも何度も書いている。それでも浸透しているとは思えないので、毎回する。駒の損得は形勢判断の基礎の基礎。実戦的には考えない指し手も多いようだが、少なくともひとに説明するにはとても大事な考え方だ。

私の主張する点数表、気になるのはざっくり加減だろう。カテゴリーが3つしかなく、しかも歩に価値がないかのように扱っている。既存のもっと精緻に数値化している見識者からすれば、歩に価値がないなんてありえないと反感を覚えるかもしれない。
しかし、精度を上げて細分化しすぎては、実用から遠ざかるのを忘れていないだろうか。将棋棋士の高野秀行先生が級位者に教える形式の書籍、「将棋「初段」になれるかな会議」(2019年、扶桑社)では、角95点、金55点、桂30点としている。将棋を指しているとき、95-55-30は5だから角と金桂の二枚換えは歩1枚分であると考えているだろうか。こんな複雑な足し算引き算にわずらわされたくないはずだ。
私の提示する点数はその意味で、じゅうぶん運用可能な点数である。

ほかに下のような点数表もある。
「歩=1点 香=3点 桂=4点 銀=5点 金=6点 角=8点 飛車=10点」
(前述のhttps://www.shogi.or.jp/column/2018/07/post_413.html
この方がいくらか簡単に計算できる。これだと、角と金桂の交換は、2点の差があるわけだ。

どこが優れているのか

有用性について、いくつかの点において補強していく。まずは、適切な複雑さについて、チェスとの比較によって示す。
複雑さの比較をしていると念頭に置いて、チェスにおける駒の点数と見てほしい。基本的には、最強の駒であるクイーンに8~9点を割り当てられている。以下、5点、3点の駒があり、ポーンが1点とされている。私の見た限り、この数値化はチェスの入門本や入門者向けサイトで同意が得られている。将棋と比較して、同じかよりシンプルで低い点数が割り当てられている。
すでに書いたように、それぞれの駒に点数を割り当てると、計算が煩雑になるのは同意いただけるだろう。将棋がチェスより複雑な駒交換が行われるなら、計算は簡易でないと実用に足らない。そして将棋では、駒交換に応じて、複雑になっていく。将棋においては、駒交換は複雑さ(可能な着手)を増やすのだ。したがって、将棋における駒の価値評価は、チェスよりシンプルなシステムであるべきだ。既存の点数表ではない特長といえる。チェスにおける駒交換は、基本的に複雑さを減らす方向に作用する。

実際には、対局中ではなく、感想戦など振り返って駒得、駒損を考えるのだろう。いぜん私の周囲の将棋指しに駒の点数について意見を聞いたところ、多くは点数なんて考えていないとの回答だった。ただ、無意識に私の点数表と同じように、飛角、金銀に同価値を与えて単純化しているかのごとき言動には遭遇したことがある。ネット上でも、似た言説があった(https://www.shogitown.com/school/situation/page03.htmlなど)。

逆に、中盤以降の局面について、金銀交換で駒損とする言説はついぞお目にかかった記憶がない。もっとも、これは私の観測にバイアスがかかっているのも大きいだろう。


次に既存の点数化では歩に点数を与えており、それによって運用が難しくなっていると主張する。例えば「なれるかな会議」の表では香に20点、歩に5点が与えられている。この反証となる手順を示す。
以下の図は将棋のおべんきょをしていたら、よく出てくる部分図だろう。端攻めの基本となる手順がある。


美濃囲いに対する端攻めの基本図
▲9五歩△同歩▲9二歩△同香▲9三歩△同香▲9四歩△同香▲8六桂で成功
4歩犠牲にして香取りに桂を打つ

先手が得をする手順だと認識されているだろうが、いま話題にしている歩を含めた駒の損得に注目してみよう。歩を4枚犠牲にして、香を得る手順ではないか。これまで挙げたほかの点数表を使うと、駒の損得はない、または駒損をしていると主張せざるをえなくなる。
それでも、香を取れれば玉形に迫った分だけ得だとの主張は理解できる。しかし、上手の持ち駒に金があり、△8四金と守られるケースを想定しても、香損に近い損と感じるひとはいないのではないか。金を打たせた得で釣り合いが取れている。得になるかは微妙だが、ケースバイケースで済まされる手順と私には見える。
上図はあくまで一例。歩を使った手筋には、捨てて生かす技が多数存在する。後述するように(予定)、理想的な将棋の勝ち方とは、十分な戦力をたくわえて、使いきって詰まして勝つものだ。使いきれるかという観点からすると、歩の使い方はほかの駒と異なる。歩を複数持ち、捨てて使う機会は多く、歩の使い方のうまさが初心者と上級者の差が生まれるポイントになる。
初中級者は、有効な捨て方を学ぶ機会が多い。
自身を顧みても、歩を取りすぎるきらいがある。

ここまで同意してもらったとして、点数の話に戻ると、歩に点数をつけないべきとの提案も理解してもらえると思う。4枚損しても、ケースバイケースですまされるような駒に点数を与えると、逆に混乱を招くだけだ。一般的には、こういった手筋は例外として処理して紹介しているのだろうが、わざわざ例外とする必要が出てきてしまって、結局、点数によって判断可能な局面が狭まっている。歩は点数ではなく、終局までに有効に使いきれるかで考えるべき駒だと考えれば、この困難を回避できる。

ということで、結論。わいの書く将棋の話では、たいてい、飛・角3点、金・銀2点、桂・香1点として扱っております。
つーか、これが合意できないと駒の損得を語れないから、マジで広まって、ひろめてくれー。

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