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第0期V竜王戦決勝局は勉強になる将棋でした

2021年2月28日に将棋系Vtuberの大会、第0期V竜王戦の決勝トーナメントが行われた。私はBブロック勝者の真澤千星V名人の配信をリアルタイムで観戦していた。

決勝局は無駄な手のないいい将棋で、初段を目指す方の参考教材としても、三段と六段(私)の差を知るにもいいと思い、勝手ながらnoteでポイントを紹介させていただくことにした。級位者は対局者の指し手を、二~四段は私の考えを主にご覧いただきたい。

(決勝トーナメント配信のリンク)


決勝局は、先手がBブロック勝者の真澤千星三段(V名人)、後手がCブロック勝者のギア・マキナ四段(新V竜王)で対局が始まった。

1.セオリー通りの駒運び

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右四間の速攻から図の局面。先手の真澤V名人は▲3七桂とした。攻めの銀を手持ちにして、次は桂を活用しようとするセオリー通りの駒運びだ。

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(▲3七桂はセオリー通りの駒運び)

いっぽう理屈屋な私は、具体的な狙いが乏しいため▲3七桂は指さない。3三に駒がいるなら▲2五桂と跳ねれば当たるし、4五の地点で戦いが起こるなら攻撃参加できる。多くの場合で有効だが本局ではどちらの狙いもなく、例外に見える。


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(私なら▲6八金としそう。5筋の位に対応した受けだ)

初段まではとりあえず攻めることから考えればいいが、三段レベルだとそれ以上が求められるわけだ。

2.攻め合いの重要性

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主導権が後手のギアV竜王に渡り、技をかけにいく。図は先手を持っていると怖くて受けてしまうひとも多いだろうが、真澤V名人は▲4四銀とした。これは好判断の勝負手。受けてしまうと受け続ける流れになってしまいそうだ。有段者になると受け切りの難しさを知っている。

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(▲4四銀と打ち込み、攻めのタネを残す)

金取りに当てられているのだから、後手はリアクションしてもいい。△4二金と引いた。以下▲2五桂△2四角の交換を入れて先手は▲5五銀△同銀▲同角。先手は角をさばけて、受け続ける展開を回避できた。

3.攻め合いの重要性と……

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本譜は攻め合いになり、後手が△3七銀と打って飛車を取りにいく。先手は攻めの思考を貫いて▲1一角成とした。攻め合いの大事さを知っているからこその素直な手だ。

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(▲1一角成と香を取りつつ、敵陣に侵入)

私なら▲1八飛とリアクションする手から考える。△3七銀単体の評価として、飛車取り以外の狙いがないと判断する。実際どうかは分からない。

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(私なら▲1八飛としそう。3七銀が空ぶるかどうか)

「両取り受けるべからず」の格言がある。逆にいうと1つだけの狙いなら受けが有力になる。

ただ、受けは高度になりがちでタイミングも大事。この場合は事前に攻め合える態勢作りができているからこそ受けが有力になる。初段までであれば難しかったら攻めるで問題ない。
三段レベルになってくると、軽い気持ちで▲1一角成は危ういように思う。

4.重い攻めほど受けにくい

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上図は△3九飛成や△2八飛成といった手も見える手の広い局面。しかし後手は飛車は動かさず。小考で△4七銀と打ち込んでいった。手堅い攻め方だ。

仮に長考して、決め手があればいいが、なかったとしたら時間の無駄遣いに終わってしまう。△4七銀は重い攻めだが、確実で受けにくい。実戦的に有効な指し方だ。
私は△2八飛成としそうだが▲3七銀と打たれて粘られる。△4七銀が明快さでまさる。

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(△4七銀は実戦的な攻め)

5.方針設定の妙

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終盤戦に入って、どちらの攻めも迫ってきた。
本譜は△5七角成として▲7七玉△4二飛と進行。後手のギアV竜王は受けよりの棋風と感じる手順だった。△5七角成が受け重視といわれても難しいだろうから、攻め重視の私ならどう考えるかを先に見ていこう。

私が対局しているなら4八銀・4七との2枚が重いとの状況判断がある。この状況判断から1枚は犠牲にしてもいいだろうと考えて、とりあえず△5七と▲7七玉△6七とと進めるだろう。▲同銀は△6九飛成だ。▲同玉にそこで考えて、△2七飛成を見つけるだろう。手順を見れば分かる通り、先手陣をどう乱すかに専念する。

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(と金を捨てて、先手陣を乱す手順。自陣は見ずに決着をつけにいく順だ)

上記と比較すると、△5七角成は▲7七玉に△4二飛と自陣に手を戻す前提の組み立てといえる。△8五桂や△5八との狙いがあり、先手陣を受けが利かない形に持ち込める。△5八との活用は実際には間に合わないだろうが、相手を急かす効果がある。

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(△5七角成はと金を残して受けづらくする攻め。実戦的には受けに回って勝つ構想に見える)

級位者に気を付けてほしいのは、受けがない=勝ちではない点だ。むしろ危ない面もある。相手は背水の陣。退路を断って猛攻してくるからだ。それでもいなせると判断して、実際後手はその通りの指し回しを見せた。

ちなみに上記の比較ができると、△5七角成は「△5八との狙いを残しますよ。△5八と~△6九ととする間に、あなたは猛攻してくるでしょうが、受け止めて見せますよ」との宣言に聞こえてくる。昔の偉い人は、「棋は対話なり」といった。

6.読みの混線

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▲5一銀は真澤V名人が後悔していた悪手。銀を渡すと△8五桂▲8六玉△9五銀以下が一例で先手玉が詰んでしまう。

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(▲同玉に△8四馬▲9六玉△9五金で詰み)

これは私の用語でいう「読みの混線」が起こった悪手と思われる。数手前に▲5一銀と打つ有力な順を考えていたために、印象が強く残っていたのだろう。それが別の局面で出てしまったわけだ。

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(実戦で現れなかった先手が猛攻する変化。▲5一銀が部分的には有力な割り打ちだが、△5七角成▲7七玉に△8五桂から前述の筋で先手玉が詰む)

読みの混線はいつまでたっても付きまとう、悪手が生まれるメカニズム。私も似たようなことはしょっちゅうあるし、生中継アプリの感想戦コメントを読んだときにプロ棋士がいっていた記憶もある。

7.見切りからの詰み

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図は終局の間近。▲4三成桂と4四飛を捕獲した手に対して、後手のギアV竜王が△同飛と決断した。▲同馬に△9四桂▲7五玉△8四銀▲6六玉△5六金▲同銀△同馬までで真澤V名人投了。終局となった。

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(飛桂交換から桂を入手して、先手玉を詰ます流れ)

30秒ほどで△4三同飛を着手しているので、ギアV竜王はその間にその後の7手詰を詰みを読みきったと思われる。

攻め合いになると、どちらが先に詰みを見切って踏み込めるかの勝負になる。初段前ならとりあえず攻め合いに持ち込むことが大事で、三、四段は10手前後の詰みを読めるかが分岐点といえるだろう。

20手前後の詰みを実戦で確実に発見できれば、六段を超える終盤力と思われる。

まとめ

本局は無駄な手が一切ない将棋だった。初段以下の方なら「何の意味があるのか分からない」手を減らす必要があり、そのためにこの将棋を見て、中終盤の一手一手の意味や狙いを考えると、多くの気づきを得られると思う。

三段以上向けとしては、私の判断との比較をどう咀嚼するか。リアルタイム視聴時に私はは、1.3.6.が緩手だろうと判断していた。必ずしも私が正しいとは言わないが、何故そう感じるかも含めて書いてきたつもりである。
最後に軽く棋譜解析して確認したところ、大外しはしていない模様。やはり、1.3.6.は疑問手か悪手の判定ではあった。
もちろん、私には見えていないものも多くあった。


あとは雑談ですけど、準決勝局がどちらもすごい熱戦だったんで、そっちも見てて楽しかったのでお勧めです。その反動で決勝は素直な将棋になったのでしょう。
熱戦を制した後、体力を使いきって淡白な将棋を指すっていうのは、将棋大会あるあるですよね。将棋大会って、1日4~6局くらい指さなきゃ勝ち上がれないので、最後のほうはお互いヘロヘロだったりします。

それと予選はDブロックだけは見たんですが、菜々河れいさんVS五反田えぬさん戦の菜々河れいさんの寄せは華麗でしたね。見てて思わずうなりました。

最後に、ギア・マキナV竜王、V竜王位獲得おめでとうございます。

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