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『青野くんに触りたいから死にたい』がとってもいい〜!

『青野くんに触りたいから死にたい』という漫画がありまして、これがとても面白い。
とても面白いのでドラマ化もされてるし、この漫画に対する魅力的な紹介文も多く存在するだろう。

それを考えると自分が本作を語るのはやや気後れするが、自分なりに一生懸命言語化したので記録しておこうと思う。noteって好きなこと書いていい場所だしね

本文は微ネタバレがあります。
単行本のワンシーンを引用している為、ご注意ください。


どんな話?
地味で大人しい女子高生・刈谷優里は、学年切っての人気者・青野龍平に告白し付き合うことになる。青野が優里の荷物を一緒に持ってくれたから。そんな理由で。
しかし付き合って2週間で、青野は事故に遭い亡くなってしまう。ショックを受けた優里は自殺を図るも、突如現れた幽霊の青野に阻止される。
生者と死者の、奇妙な恋模様の始まりだった。

っていうのがほんと冒頭の話。
本作を一言で紹介するのであれば、裏表紙などで使われているキャッチコピー「ホラーラブストーリー」が的確だと思う。

しかし蓋を開けると、恋愛とホラーだけでなく、家族の形や過去のトラウマ、登場人物の心情の変化や成長を描いたヒューマンドラマの側面も窺える。
目を見張る点はいくつかあるが、うち1つは作者の持つ独特な感性、それをそのままに落とし込む表現法だ。
そのアクの強さは、1話の冒頭から既に現れている。

出典:青野くんに触りたいから死にたい 1巻

早くない?と思った。

なんというか、この作品にとって自分の感覚はかなりアウェイなのだと感じた。
優里の視点で語られる率直な台詞回しやスピード感は、シュールだし不思議系だ。

自分の中で本作の方向性が固まったのは、第2話における以下のシーン。

2話のあらすじ
授業で歌のテストを受けることになった優里。
優里は追試を受けることになり、誰もいなくなった音楽室で青野と2人、秘密のレッスンをすることになる。
その最中に1人のクラスメイトが訪れるも、青野を認識できないクラスメイトには、優里が1人でレッスンをしていたようにしか見えなかった。

一連の事実に対し、優里はこう思うのだった。

出典:青野くんに触りたいから死にたい 1巻
出典:青野くんに触りたいから死にたい 1巻

青野は確かにここにいるのに、と。
自分と一緒にいることを、優里は知っている。
この世の条理に流されず、当たり前を仕方ないと言う前に、目の前の人間を無視しない姿勢にハッとした。痛いほど無垢だと思う。

この作品は、ピュアな気持ちを伝えることを恐れない。
優里はいつも、他人を通して芽生えた自分の感情に対して真摯だ。軽率な言葉で人を傷つけた時も、青野に対して際限ない愛情を感じた時も、純真に言葉を伝えてくる。
それを聞くと、恥ずかしい程純粋な恋心や、肉欲のいやらしさですら、笑い飛ばしていいものなんて一つもないのではないかと感じる。
優里の言葉を通して、作品全体にそういったメッセージが含まれていると感じた場面が随所にある。
本作の台詞を読んでいると、深掘りできていない価値観の、補強をしているような感覚に陥る。

また、それを笑うことなく受け止めるのが、青野という存在なのだ。
聡くて思慮深く、かと思えば嫉妬から不貞腐れたりと、繊細で人間臭い一面が見え隠れする。
彼は基本、慎重に言葉を選ぶし、人が傷つくことの重みを知っているように思う。彼が向ける尊重は、そういったところから来ているのかもしれない。
お互いの言葉がお互いの心を埋めあっているような、2人の恋の形がとても好きだ。

それでいて、本作のホラーはちゃんと怖い。
心霊現象、都市伝説、伝承と和製ホラーで扱われているような題材は一通り扱っていると思う。
自分はこの手のジャンルに疎いので詳細な感想は差し控えるが、読んでいてギョッとするようなシーンが何度かあった。怪異現象が意味する真実は勿論、視覚的なホラー要素も十分にある。

こういった事象が訪れることには、登場人物達の過去やトラウマといった成り立ちが大きく関わっており、それらに対しても濃厚に触れているのが、本作の特色の1つだ。
生者も死者の両方を包含した人間という存在と、その心なしには語れない筋書きになっており、それらが事象とリンクすることで成長や変化がもたらされていく。
中には登場人物達が「現実ではないどこか」に迷い込むことがあり、心理を比喩する事態も多い。登場人物の現状と比較した時に「もしかして」と思わせる表現も秀逸だ。

出典:青野くんに触りたいから死にたい 7巻

死んでいない青野と同棲しているエピソード。幸せな生活が続くかと思いきや…?

また本作には「よくいるタイプの嫌な奴」が度々登場する。それは主要人物の家族であったり、時には主要人物自身がそういった立ち回りをすることもある。
しかし困ったことに、大抵の人物に同情の余地があるよう出来ているのだ。必ずきっかけや、そうなるに至ったルーツが描写されている。
自分は、キャラクターが嫌われることを厭わない作品が好きだ。
それでも、彼らに情状酌量の余地があるかは読み手によって大きく別れるだろう。主要人物を取り巻く事情には胸糞の悪い内容も存在し、これらもまた、どこかでありそうな身近さを感じるのだ。
誰かと想い合うこと、心を通わせることを描くと同時に、当事者の心を深く抉るような残酷な悪意も描写されており「取り扱っている感情の振れ幅」も本作の好きなところだ。

ホラー、人間模様、心理描写と1つ1つの要素だけを抽出しても濃ゆい内容となっている。しかしそれらを包括して濾した時、やはり自分は青野と優里、2人の物語だと思うのだから、本作はまさしく「異色な恋愛漫画」なのだろう。

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