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視覚障害者のトイレ利用における困りごと

日本に視覚障害がある人はどれくらいいるかご存知ですか?厚生労働省によると、日本には、およそ31万人(平成28年)で、8.8%*という統計もあります。今回は盲学校の協力を得て、視覚障害者の高校3年生(女性)に「トイレを利用するとき、どのような課題があるのか」というテーマでお話をお聞きしました。

*全盲及びロービジョン(弱視)の合計

トイレのことは異性に言い出しにくい

――外出先でトイレを探すとき、どのように探されますか?

1人で出かけることはあまりなく、一緒に出かける人の力を借りることが多いです。登下校は1人ですが、トイレに行きたくなった時は我慢しています。片道約30分程度なので、我慢することはできます。それに、もし誰かに声をかけたとき、相手が異性だと恥ずかしいため、我慢する方を選びます。
4月からは大学に通うのですが、1人で通学する予定です。距離は今より伸びるので、不安です。決まったルートを通ることになると思うので、あらかじめトイレの場所を覚えたりする必要があると思います。

――駅は改札に駅員などがいますが、聞くことはできますか?

男性の方が多いので、あまりしないです。相手の方も困ってしまうと思います。最近、英語検定を受けたのですが、試験官の方が2人とも男性でした。トイレに行きたかったのですが、伝えるのに多分30分ぐらいかかってしまいました。もう本当に我慢できなくなってやっと伝えることができました。

――普段、トイレを使うとき、どのようなトイレを使いますか?

(バリアフリーではない)普通の女性用トイレを使います。広すぎて、設備の位置が分かりにくいからです。もちろん混雑していて満室だとバリアフリートイレを使う場合もあります。


盲学校の女性用トイレ

――他人の手を借りてトイレに行く場合、どこまで誘導してもらうのですか?

トイレ個室の前までです。トイレの個室内は、どこにどんな設備があるかは場所によって覚えています。また、チェーン店の商業施設などは、どの店舗も大体同じ配置になっていて、ボタンやセンサーなどの流し方も統一されているので、とても助かります。たまにわからないものもありますが、中に入ってもらうわけにもいかないので、どうしても困った時は、中から声をかけて教えてもらいます。

――トイレの後、洗面台までどのようにアプローチするのですか?

母親や友人と出かける際の決まりごとがあります。友人にあらかじめ個室の場所を覚えてもらい、ノックしてもらうのです。なので、トイレの後は中に留まって母親や友人を待ち、合流して一緒に手を洗いに行きます。

――それはいい工夫ですね。手洗いの使い方や種類も友人に教えてもらえますね。

最近、センサーに手をかざすタイプが多い印象です。学校もそうです。トイレが新しくなって特に増えました。センサーに手をかざすタイプの多くは点字がついていますね。点字があるとすごくありがたいですが、位置がわかればどんなものでも対応できます。

――コロナになってから、手指衛生への意識がすごく高まりましたが、困ったことなどはありますか?

手が荒れます(笑)手指消毒液はどのようなタイプでも対応できます。
以前は自分のものを持ち歩いていましたが、カバンの中で中身が出てしまったことがあって、今はもう持ち歩かなくなりました。その代わり、消毒液の入ったペーパーを持ち歩くようにしています。万が一蓋が開いても漏れたりしないですし、とてもいいです。



盲学校の手洗いもセンサーで起動

トイレでも「音」に敏感

――トイレを使っているかどうかは、どのようにして判断していますか?

学校では、トイレを使っていない時、個室の扉が開くようになっているので、扉を少し触ればわかります。他にも使用していれば音がするのでわかります。あとは使っている人が全くいなければ、トイレに入った時に照明のセンサーが反応して「カチッ」と音がするので、それでもわかります。照明が手動のところでは、スイッチを触ってONかOFFかを確認して判断することもできます。

――(学校でも外でも)トイレの困りごとを教えてください

点字の表記が間違っていると、とても困ります。実際、通っている病院では、「流すボタンの点字」と「呼び出しボタンの点字」が入れ替わって設置されていて、気づいてすぐにサービスカウンターに報告しました。点字の上下逆は読めますが、情報が間違っているのはとても困ります。
流水音が流れる装置がないトイレも困ります。装置がないと、自分の音が聞こえてしまうだろうし、他の人の音も聞いてしまうかもしれません。お互い気まずいと感じます。
ここの学校は必ずついているので助かります。
目が不自由な分、音から情報を得なくてはいけないので、音に敏感なのかもしれません。いつも耳を澄まして、行動に移せるようにしています。ドアが揺れた音ひとつをとっても、風なのか地震なのかを判断しなくてはいけません。昨日も他の教室で節分の豆まきをしていたそうですが、不自然な音に聞こえて、豆まきとわかるまではすごく不安でした。


擬音装置で気まずさを解消

災害用トイレ(携帯トイレ)も慣れれば問題なし

――地震の時、もしトイレが使えなくなったら、どうしますか?

なかなか考えたことがないですが、私の家の非常持ち出し袋の中に携帯トイレが入っているので、自宅であればそれを使います。避難訓練は学校で毎月やっていますが、トイレはあまりないかな。

――携帯トイレの袋を便座に取り付けて、凝固剤の袋を破いたりするのは難しくないですか?

使い方に慣れればできると思います。急にやらなくてはならない場合、難しいかもしれません。

――災害時、不安に思っていることはありますか

トイレ以前に、安全に逃げることができるかが不安です。誰かの手を借りる必要があると思いますが、足手まといになっては迷惑をかけてしまうので、可能な限り自分の力で逃げたいです。家族や先生方からよく言われるのは、とにかく友人を作ることです。場所を覚えることもそうですが、大学に入ってからは友人を作れるよう頑張りたいです。

――トイレで一番大切に思ってることは何ですか。

トイレを使う他の全員のことを考えることです。例えば、床に何か溢れていることに気づかずに使ってしまうと、汚れてしまいます。それって嫌じゃないですか。そんな思いを他の人にさせたくないので、きれいに使いたいです。

――ご協力いただきありがとうございました。視覚障害者のトイレ利用についての課題に加え、利用しやすいトイレについてもお話いただきました。外出先でも、安心して使うことができるトイレが広がればと思います。
また、「トイレの場所がわからない」「設備の場所がわからない」など困っている方が気軽に質問でき、手助けし合える世の中になるよう、意識していきたいですね。